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あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#26

なぜTUBEは“爽やか”なのか 80~90年代のサウンド探求と「バレアリックなスタジアムロック」

自作・自編曲体制の確立と、本格的なバンドサウンドへの目覚め

なぜTUBEは“爽やか”なのか 80~90年代のサウンド探求と「バレアリックなスタジアムロック」の画像2
「Stories」収録の『TUBEst』(’89)

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 メンバー自身による制作曲は早い段階からシングルのB面に取り入れられていたものの、作詞・作曲でA面に関与したのは、前田が作詞を担当した「Remember Me」(‘88)が初であり、デビューから丸4年以上経ってからのことだった。かねてより自作曲での活動に強い意欲を示していたバンドは、続くシングル「SUMMER CITY」(‘89)を皮切りに、ついにバンドメンバーによる作詞・作曲体制への移行を果たし、同年末の「Stories」からは編曲もTUBE名義でクレジットされるようになる。柔らかな音色のギターとフレットレスベース、繊細なシンバルワークによりメンバー全員で楽曲の導入部を彩る「Stories」は、まさに彼らの新章を告げる隠れた名曲である。

 この時期から90年代後半にかけ、TUBEはロックバンドとしてのハードな側面を徐々に強めていくことになるのだが、ここで注目したいのが大部分の作曲を担っていくギタリスト、春畑道哉の存在である。

 その功績を振り返る前に、まず1991~1994年のTUBEのシングルリリースの傾向を整理したい。冒頭で述べた、小野塚によるサウンド面の発展とともにセールスの更なる上昇を見せていたこの時期は、基本的に以下(1)(2)の2パターンでのシングルリリースを繰り返していたことがファンの間では広く知られている。

(1) 4月末~5月にリリース。。表題曲は「シーズン・イン・ザ・サン」や「SUMMER DREAM」のテイストを引き継ぐ、爽やかさ・爽快感を強調した楽曲で、通称「迎夏シングル」。5月末~6月にリリースされるアルバムの先行シングル(アルバムに収録されるシングル)という位置づけ。「夏を待ちきれなくて」「夏を抱きしめて」など。

(2)必ず7月1日にリリース。表題曲は「あー夏休み」に通じるラテン歌謡系のテイストを持った楽曲で、通称「盛夏シングル」。これらは全て、オリジナルアルバムには収録されない。「さよならイエスタデイ」「だって夏じゃない」など。

 この全てで春畑道哉は単独で作曲を務めているのだが、このパターンのリリースを重ねていくごとに、彼のギタープレイは(1)では音色・プレイともよりハードに、(2)ではリズムを強調したよりファンキーなものになっていくのが興味深い。それと連動するように、(1)の迎夏シングルはアメリカのバンド、ジャーニーなどに通じるメロディアスなハードロックの色合いを強めていき、(2)の盛夏シングルは(奇しくもジャーニーの源流のひとつでもある)サンタナなどのようなパーカッシブなラテンロックへと発展していく。

 そしてこの間に彼らの音作りは、80年代までのポップス的なライトなものから、中低域が太い重厚なバンドサウンドへと密かに大幅なモデルチェンジを果たしていったのだ。特に、オリコンシングルチャート上で初の1位を記録した1993年の(1)迎夏シングル「夏を待ちきれなくて」、そこから連続で1位となった(2)盛夏シングル「だって夏じゃない」を80年代の楽曲と比較して聴けばこの変化は明確であり、これらのヒットによりTUBEはロックバンドとして改めて大衆に認知されるとともに、その個性・キャラクターが確立されたと言ってよいだろう。

 その後、アルバム『終わらない夏に』(‘94)ではデビュー以来プロデューサーを務めてきた長戸大幸がプロデュースから外れ、『ゆずれない夏』(‘95)からは小野塚がサウンドアドバイザーとしてクレジットされなくなる。この時期以降、彼らは90年代後半にかけて徐々にシンセサイザーの比重を落としながら、一層ハードロック寄りの、ヘヴィさを持つサウンドへとさらなるモデルチェンジを図っていった。加えてミキシングにおいても、90年代のロックサウンドのトレンドを押さえて、よりドライで硬質な音へと変化していったことで、本稿の冒頭で述べたようなアンビエント~バレアリック的な側面はほぼ消失することになる。

 いわゆる「ビーイング・サウンド」的なシンセサイザーとバンドサウンドの掛け合わせがトレンド外になりつつあった当時、この変化は時代をサバイブする上で必然の選択だったとも言える。いち「TUBEファン」兼「アンビエントファン」の筆者としては寂しい面もあるが、彼らが時流に合わせて一層音楽性を深め、現在に至るまで安定した活動を続けていることに感謝したい。

 最後に、バレアリックなサウンドを持つスタジアムロックとして最高峰の完成度を持つ、彼らの最大のヒットシングル「夏を抱きしめて」(‘94)の魅力について改めて触れよう。

 冒頭のギター・シンセサイザー・コーラスの絡みに導かれ、抑制の効いた1番の終わりに重厚なバンドサウンドが花ひらく。2番以降のサビでは膨大な音数のトラックが煌めき、ギターソロでは春畑のキャリア随一とも呼びたい駆け上がるような名演を聴かせ、最後のサビでは転調によってドラマチックな感動を呼び覚ましながら、前田の歌唱力を最大限魅力的に提示してくれる。もちろん「シーズン・イン・ザ・サン」「あー夏休み」など、実際のセールス以上に彼らの代表曲としての地位を確立した楽曲は多数存在するが、この「夏を抱きしめて」は当時のTUBEのユニークな魅力が最上級のクオリティで結実しており、この楽曲が今もなお彼らの代表曲として挙がることを心から嬉しく思う。

♦︎
本特集のきっかけのひとつとなった、TUBEのシティポップ寄りの楽曲をまとめたSpotifyプレイリストがこちら。ぜひ、彼らの新たな魅力の発見にご活用いただきたい。

B’z、DEEN、ZARD、Mr.Children、宇多田ヒカル、小室哲哉、中森明菜、久保田利伸、井上陽水、Perfume、RADWIMPS、矢沢永吉、安全地帯、GLAY、SOUL’d OUT、Dragon Ash、吉田拓郎など……本連載の過去記事はコチラからどうぞ

TOMC(音楽プロデューサー/プレイリスター)

Twitter:@tstomc

Instagram:@tstomc

ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスター。
カナダ〈Inner Ocean Records〉、日本の〈Local Visions〉等から作品をリリース。「アヴァランチーズ meets ブレインフィーダー」と評される先鋭的なサウンドデザインが持ち味で、近年はローファイ・ヒップホップやアンビエントに接近した制作活動を行なっている。
レアグルーヴやポップミュージックへの造詣に根ざしたプレイリスターとしての顔も持ち、『シティ・ソウル ディスクガイド 2』『ニューエイジ・ミュージック ディスクガイド』(DU BOOKS)やウェブメディアへの寄稿も行なっている。
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とむしー

最終更新:2023/09/02 12:01
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