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あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#21

安全地帯とニューウェイヴ~ファンク~アンビエント 国民的バンドの「先進的」な音楽性に迫る

 ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスターのTOMCさんが音楽家ならではの観点から、アーティストの知られざる魅力を読み解き、名作を深堀りしていく本連載〈ALT View〉。今回は、デビュー40周年を迎え、新曲「あなたがどこかで」を発表したばかりの安全地帯の音楽性について、その先進性にフォーカスして語っていただきます。

 

安全地帯とニューウェイヴ~ファンク~アンビエント 国民的バンドの「先進的」な音楽性に迫るの画像1
安全地帯

 この秋、SNS上で「安全地帯のテクノ化」が静かな話題を呼んだ。彼らの往年のナンバー「真夜中すぎの恋」(‘84)のライブ映像がまるでテクノ・バンドのようだと紹介され、反響を呼んで拡散されたのだ。前奏で太いマシンビートが鳴り響くなか、サポートメンバーたちがエフェクターを捻り、ヴォコーダーで言葉を発し、さらにはテルミンまでをも操作する。これは、2010年にリリースされた過去楽曲の再録企画盤『安全地帯 Hits』に収録されたバージョンを元にしたアレンジだ。

 この「真夜中すぎの恋」は、2020年の甲子園球場でのスタジアムライブでも、玉置浩二のソロ活動への参加でもおなじみのターンテーブリストDJ 1,2を招き、さらにブラスセクションをも交えたテイクが残されている。安全地帯はかねてより既存曲にライブならではの大胆なアレンジを施してきたバンドだが、この曲はとりわけ彼らの冒険心・遊び心に満ちた側面をわかりやすく伝えてくれる。

 今になって「安全地帯のテクノ化」が注目を集めたのは、世に広く知られる安全地帯の音楽性が言わば「テクノ」という音楽とはかけ離れたもの――「1980年代の日本で歌謡曲的なポップスで一時代を築いたバンド」という先入観から来る意外性も少なからずあったのではないかと思う。

 しかしながら、私にとっては全く意外なことではなかった。というのも、安全地帯は1980年代のデビュー当初より、サウンド~アレンジ面で日本国内では頭一つ抜けたこだわりを見せていた、非常に先進的なバンドだった……という印象を持っていたからだ。玉置の歌唱力が今なおテレビやウェブ媒体などで頻繁に話題となる一方、安全地帯のサウンド面について顧みられる機会は、これまであまりにも少なかったように思える。この記事はその魅力を、なるべく平易な表現でわかりやすく解き明かそうという試みである。

「ワインレッドの心」に潜むニューウェイヴ性

 まずは、安全地帯の音楽性にまつわる“定説”を覆していきたい。例えば、彼らのブレイクについてはしばしばこのようなエピソードが語られる。彼らはデビュー当初のロックバンド色の強い音楽性ではヒットが出ず、そこから玉置浩二が奮起して歌謡曲など当時の国内メインストリームを志向したソングライティングを行った結果、「ワインレッドの心」(‘83)が大ヒットに至り、これを期に、玉置が本来志向する音楽性とは異なる楽曲をリリースしていった――というものだ。このような言説はファンの間でも広く知られている印象があるし、何より他ならぬ玉置本人が語っているものでもある。だが私には、少なくともサウンド面では「ワインレッドの心」以後も、全く歌謡曲的ではなく、むしろ超・最先端を走っていたように思えるのだ。

 そもそも「ワインレッドの心」のギターひとつ取っても、彼らの先進的な志向が分かりやすく表出している。リードギターの矢萩渉によるチョーキングの効いたギターのイントロについ耳が行きがちだが、そのバッキングや、玉置が歌うメロディラインの裏に挿入されるオブリガード~カウンターフレーズの、キラキラと澄んだ音色にぜひ注目してほしい。

 もう一人のギタリスト、武沢豊によるこうしたサウンドは、かつての安全地帯が志向した70年代のアメリカン・ロック的なものではない、同時代(80年代)のニューウェイヴの音楽性を強く想起させるところがある。アンディ・サマーズ(ザ・ポリス)やパット・メセニーをも連想させるこうした空間的で柔らかいサウンドデザインこそ、安全地帯が当時の日本のロックやポップス(ニューミュージック)、歌謡曲の文脈だけでは語ることができない大きな所以である。

  そして武沢と矢萩の対照的なプレイは、表層のみならず、その背後にあるカルチャー的にも「アメリカン・ロック~ハード・ロック」と「ニューウェイヴ」という点で対照的であり、この2つがこの時期のほとんどの楽曲で違和感なく共存している安全地帯は、同時代の国外のバンドと並べても非常にユニークな存在だと言っていい。

 武沢はこの時期、当時最新鋭の機材だったギターシンセサイザーに傾倒していき、キーボードがメンバーにいないにもかかわらず、非常にきらびやかで多彩な魅力を持つ「安全地帯のバンドサウンド」を形作っていく。そして、そのアプローチが最初に結実したアルバム『安全地帯III ~抱きしめたい』(‘84)は、リズムアレンジのアイデアの豊富さに驚かされる作品でもある。連打されるバスドラムのパターンを軸にハイハットをほぼ全編使用しない「エクスタシー」や、曲展開に応じてさまざまなリズムアレンジを使い分ける「Lazy Daisy」などはその筆頭だ。

 彼らの代表作『安全地帯IV』(‘85)にも、「サビで倍速のハイハットを入れつつ4拍目を抜く」という非常にテクニカルなリズムアレンジが楽しめる「合言葉」が収録されている。こうしたある種突飛なリズムは当時玉置が傾倒していたとされるが、ドラマーとしてこのアレンジに携わり、ライブでも再現を行なっていた田中裕二の貢献ももっと評価されるべきだろう。(1/2 P2はこちら

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