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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > Dragon Ashと「内省と情熱」のゼロ年代
あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#24

Dragon Ashとドラムンベース~ラテン音楽 “ミクスチャー”が加速した「内省と情熱」のゼロ年代

 ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスターのTOMCさんが音楽家ならではの観点から、アーティストの知られざる魅力を読み解き、名作を深堀りしていく本連載〈ALT View〉。今回は、1997年にメジャー・デビューし、「Let yourself go, Let myself go」「Grateful Days」「Life goes on」「Fantasista」など数々のヒットを飛ばしたミクスチャー・ロックバンドの雄・Dragon Ashについて、ヒップホップ以外における“ミクスチャー”的要素と彼らの音楽的変遷について解説していただきます。

 

Dragon Ashとドラムンベース~ラテン音楽 “ミクスチャー”が加速した「内省と情熱」のゼロ年代の画像1
2006年のDragon Ash・Kj(写真/Getty Imagesより)

 皆さんは、Dragon Ashという名前からどのような音楽性を想像するだろうか。おそらく多くの方がイメージするのは、ヒップホップとロック(パンク)を融合させた「ミクスチャー・ロック」の代表格として名を馳せた、デビューから2002年頃までの作品ではないかと思う。2010年代中盤~現在の音楽性はよりロックバンド色が強いが、さまざまなジャンルを折衷して作品を構築している点では、彼らを今なおミクスチャー・ロックバンドと呼ぶこと自体は決して間違いではないだろう。

 ただ、彼らの音楽性の構成要素として、ヒップホップ、ロック以外のものが挙げられる機会がこれまであまりにも少なかったように思う。例えば、ブレイクした90年代後半の時点ですでに取り入れていたレゲエ。2000年代前半から傾倒し始めたドラムンベースやダブ、エレクトロニカ。そして現在のDragon Ashのスタイルを語る上で欠かすことができないラテン・ミュージック。彼らは(特に2000年代以降)絶え間なく音楽性のアップデートを続けることで、流行に左右されない唯一無二の個性を確立していったように思える。本稿は、そうしたDragon Ashの「もっと光が当たるべき」音楽的な冒険に光を当てる試みだ。

「内省的なドラムンベース」をバンドサウンドで鮮やかに描いた『HARVEST』

 まずはドラムンベースとの関係について触れよう。ドラムンベースは、90年代にジャングルの流れを汲んで勃興した、当時最先端のビートミュージックのひとつ。ジャングルについては、小室哲哉プロデュースでメガヒットしたH Jungle with t「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~」(‘95)を通じてここ日本でも親しまれた歴史があるが、Dragon Ashはこうした高速ビートが持つある種の「攻撃性」をハードコア・パンクと融合し、加速させていく道を選ぶ。この表現を2001年作『LILY OF DA VALLEY』収録の「Revolater」で血肉化した上で、翌年に満を持して放たれたシングル「Fantasista」は日本テレビ系列放映の『2002 FIFAワールドカップ』のタイアップも奏功し、2週連続でオリコンチャート1位を記録。当時ここまでアッパーかつヘヴィな楽曲を幅広い層に届けたという点で、この曲の功績は非常に大きいものがある。

 だが、彼らとドラムンベースの関係はこれだけでは終わらない。前述の「Fantasista」を含むアルバム『HARVEST』(‘03)では、彼らはドラムンベースを「アッパーで攻撃的な音楽」としてだけでなく、掴み所のない浮遊感を醸す表現としても用い始める。テンションのピークを避けるようなコード感の中でディレイの効いたギターや電子音がループする「House of Velocity」はその筆頭だろう。この曲がイントロトラックに続く2曲目に置かれていること、そして一層クリアトーンのギターを軸に据えたタイトルトラック「Harvest」がラストに配されている点は、このアルバムのテイストを分かりやすく表している。

 また本作は、折々でエレクトロニカ(フォークトロニカ)~アンビエントにも通ずる柔らかなサウンドのトラックを織り交ぜており、こうした点も含め、Dragon Ash史上でも特に内省的なテイストに満ちている。アンビエントの源流のひとつと目される音楽家、エリック・サティの代表曲を取り上げた「Gymnopedie #1」はその象徴的な一曲だ。

 それでいてほぼ全編に渡り、一般的にアッパーで攻撃的な音楽と受け止められやすいドラムンベースが登場する──という点で、『HARVEST』は実にユニークなアルバムだ。ドラムンベースを内省的表現・浮遊感とともにポップミュージックに導入した例としては、近い時代であればエブリシング・バット・ザ・ガール『Walking Wounded』(‘96)があり、この2020年代においてもピンクパンサレス(PinkPantheress)の諸作に見られるものであるが、ギターを軸にしたバンドが90年代後半以降のポストロックの流行ともシンクロするテイストでドラムンベースを消化したという点で、この時期のDragon Ashの先進性は色褪せないだろう。

 この時期、ファンもよく知るキングギドラ「公開処刑」(‘02)での批判を受けてバンドおよびKJは試練の時代を迎えていたが、復活シングル『morrow』(‘03)を経てリリースされた本アルバムで、彼らは確実にネクストレベルへと到達した。しかしながら、彼らの音楽的な進化はこれだけに留まらない。(1/2 P2はこちら

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