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『100よか』井上真央とシム・ウンギョン、元天才子役たちが演じる「失った者同士」の絆

『100よか』井上真央とシム・ウンギョン、元天才子役たちが演じる「失った者同士」の絆の画像
ドラマ公式サイトより

 井上真央主演のTBS系金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』で、主人公・相馬悠依の友人となるソン・ハヨン(宋夏英)役として存在感を放っているのがシム・ウンギョンだ。子役として数々の韓国ドラマで主人公やヒロインの幼少期役を演じキャリアを積んでいたが、2017年に日本でも活動をスタート。日本語も堪能で、2019年の映画『新聞記者』では松坂桃李とW主演を務め、第43回日本アカデミー賞優秀主演女優賞及び最優秀主演女優賞を獲得した。『100よか』では夫を亡くした脳神経内科医という役柄を演じている。

 主人公・相馬悠依(井上真央)が、運命の相手だと思っていた恋人・鳥野直木(佐藤健)を突然失い、そこに幽霊となった直木を見ることができるという刑事・魚住譲(松山ケンイチ)が現れ、3人で直木の失踪の理由を追っていく本作。第4話ではついに遺体が発見され、直木の死亡が確定。一方で、直木が何らかの形で関わっていることが警察に疑われている高原涼香(近藤千尋)殺害事件では、涼香の学生時代の友人で、悠依と直木とは同じ里親のもとで一時期を共に過ごした仲である尾崎莉桜(香里奈)の疑惑が増していく。そんななか、悠依は里親だった広田勝(春風亭昇太)の家に事件の手がかりを探しに行き、そこで自分と莉桜、涼香の3人が仲良く遊園地で一緒に写った写真を発見する。悠依の記憶にはない写真だった。

 第4話ラストでは、家の振り子時計の音が鳴った瞬間、直木が突然苦しみだし、床に倒れてしまう。その続きとなった第5話、時計の音が鳴り止むと直木の苦しみは収まる。遺体にあった刃物で刺された場所と、直木が痛みを感じた場所は一致していた。遺体の手にあった花も、勝の家にあったものと品種が一致。居間の床に残っていた血液反応、見当たらなかったカーペットが焼却された痕跡もあり、どうやら直木は勝宅の居間で何者かに殺されたようだ。

 一方で、悠依の目の前に莉桜が突然現れる。悠依の首を締めるように壁に抑えつけながら、一方的に「もう何も思い出さないで」「こっち来ないでよ」と言い残して立ち去ったが、悠依にはまったく意味がわからない。

 高原涼香殺害事件は、さらに謎が深まっていく。防犯カメラに映っていた宅配業者の身なりをした男(永島敬三)は、偽物だったことが判明。この男が犯人ではと警察が疑うなか、ドラマは莉桜がこの謎の男と会っているシーンを映す。莉桜が「こんなところに来てていいの?」と問うと、男は「勝手なことされても困るんで」と、莉桜を監視しているかのように答える。すると莉桜は、「私は何も話さない。だから安心してって伝えて」と男に伝えるのだった。

 遺体が発見されたことで、直木も悠依も、いつ直木が“成仏”するか不安を抱えていた。直木の葬儀に出席する悠依だが、たえられず悠依は飛び出してしまう。落ち込む悠依を励まそうと、直木は魚住を通して悠依をデートに誘う。悠依はささいなことでも思い出したほうがいいと考え、莉桜たちと一緒に写真を撮っていた遊園地へ行くことにした。魚住も誘ったため、はた目には魚住と悠依の2人のデートに見え、嫉妬をあらわにする直木。魚住に気を遣われ、観覧車で直木と2人きりになった悠依は「このまま消えちゃったりしないでね」と直木に話しかけるが、直木は「NO」を意味する口笛2回で答える。

 観覧車から降りた悠依は怒っていた。状況がよくわからない魚住だったが、悠依に遊園地デートを最後まで楽しませてやろうと直木に提案する。しかし、いつ自分が消えるのかお互いに不安を抱えたままで遊園地なんて楽しめないと憤慨する直木。すると直木は久しぶりに魚住の体に乗り移ることに成功。悠依は、この形で直木とこのまま生きていきたいと話すが、魚住の体を借りた直木は、「こんな不自然なの、いつか行き詰まる」と、いつまでも幽霊でいられないと悲観的に語り、「俺たちにこの先はない」「俺はもういないんだよ」と訴える。悠依に新しい人生を送って欲しいと願うがゆえだったが、2人が思い描く未来は真逆を向いていた。

 直木とケンカしてしまった悠依だが、これをきっかけに19年前に莉桜たちと遊園地に来た記憶が蘇る。このときもケンカになったのだ。悠依は突然、莉桜に「悠依はもう帰んな」「こっからはちょっとあんたが邪魔なの」と一方的に言われる。ひとりで帰ろうとした悠依は、白いバンに乗った莉桜と目が合う。莉桜が今にも泣き出しそうな笑顔を浮かべたあと、バンは走り去っていった。莉桜は別れ際、「あんたはこっち来んな」とも言っていた。直木は、莉桜が悠依を何かから逃がそうとしたのではと気づく。莉桜が当時持っていた謎の500万円は、「こっち」に関わっているのか。

 さらに謎が謎を呼んでいく展開の『100よか』。今回もシム・ウンギョン演じるハヨンの出番は多いとはいえなかったが、かつて夫を亡くした経験のあるハヨンの発言は、本作の展開を示唆する内容に満ちている点も注目したい。第5話でも、悠依に幽霊の存在を認めろと言われたハヨンは、「死んだ人と生きている人は住む世界が違います。いつでもそばにいるなんて簡単には思えない。それぐらい死は悲しいものです」と冷静に返す。そして「残された時間があるなら、お別れはちゃんとしたほうがいいよ。私はできなかった」と助言したことで、悠依は直木の葬儀に行けたのだろう。だが、悠依は遺体に花を添える花入れの儀式すらできず、葬式場を飛び出す。一方、直木は自分の体が火葬場に運ばれていくのを見守っていた。遊園地で今後に対する2人の考えがぶつかったのは、悠依は“お別れ”がまだできていないのに対し、直木は“お別れ”を済ませてしまったからだろう。

 また、最愛の恋人である直木を失った悠依との「大切な人を失った者同士」が心を開きあっていくシーンは、悠依の心境を左右する非常に印象的なものとなっている。悠依を演じる井上真央もまた、かつて天才子役として名を轟かせた。天才子役から時代を牽引する俳優に育った2人の共演シーンは、サスペンス要素が強まっていく『100よか』において、“ヒューマン”要素を強調するものとしてますます重要になっていきそうだ。

 ハヨンは、亡くなった夫が魚住に声も見た目もそっくりであったりという設定も気になるキャラクターだが、“先輩幽霊”の樋口昌通(板倉俊之)が“幽霊しぐさ”で驚かせる場面では目を丸くして驚くなど、ユーモラスで愛らしい姿も見せてくれる。静謐で奥行きのあるシム・ウンギョンの演技は劇中の癒しだ。日本の連続ドラマや映画への出演が増えているシムだが、『100よか』でまたファンを増やしそうである。

■番組情報
金曜ドラマ『100万回 言えばよかった
TBS系毎週金曜22時~
出演:井上真央、佐藤 健、シム・ウンギョン、板倉俊之、少路勇介、穂志もえか、近藤千尋、桜 一花、平岩 紙、春風亭昇太、荒川良々、松山ケンイチ ほか
脚本:安達奈緒子
音楽:河野伸
主題歌:マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」
警察監修:志保澤利一郎
里親監修:岩朝しのぶ
医療監修:冨田泰彦、藤田浩
プロデュース:磯山晶、杉田彩佳
演出:金子文紀、山室大輔、古林淳太郎
編成:中西真央、吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:tbs.co.jp/100ie_tbs

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/02/17 12:00
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