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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 家康「最後の大敵」毛利輝元と上杉景勝
歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

『どうする家康』では上杉景勝の影が薄くなる? 毛利輝元の「裏切り」はどう描かれるか

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

『どうする家康』では上杉景勝の影が薄くなる? 毛利輝元の「裏切り」はどう描かれるかの画像1
石田三成(中村七之助)と徳川家康(松本潤)| ドラマ公式サイトより

 『どうする家康』第40回は、松本潤さん演じる徳川家康が本格的な老けメイクで登場し、このドラマも間もなく最終回(残り8回)なのだということを改めて感じさせられました。

 第40回では、老獪になる一方の家康に対し、「私は間違ったことはしておりませぬ」というセリフを繰り返す石田三成(中村七之助さん)の器の小ささがハッキリしてしまいましたね。ドラマの三成はデスクワークには優れた官僚ではあるものの、戦の現場をほとんど知らず、武将たちからの人望が薄い人物として描かれています。朝鮮からようやく内地に引き揚げてきた加藤清正(淵上泰史さん)、黒田長政(阿部進之介さん)らを出迎えた三成が「戦のしくじりの責めは不問といたしますゆえ」「京に帰ったら盛大な茶会を開いて……」とことごとく地雷を踏む発言をしたせいで、長政らがその場で激高、清正が目に涙をためて怒りをこらえながら「お主はわしらがどんな戦をしてきたか、わかっておるのか?」と訴えたシーンは印象的でした。しかし三成は、清正たちの想いを理解できぬ様子で、後には清正たちを「やつら」呼ばわりし、「やつらが私の考えを理解したことはございませぬ」と話すシーンまでありましたね。五大老の毛利輝元(吹越満さん)が三成のことを「そなたは極めて頭が切れる。……が、人心を読むことには長けておらぬと見受ける」と評していましたが、劇中の登場人物たちだけでなく、視聴者もそのとおりだと同意せざるをえない描かれ方で、三成ファンにとっては手厳しい、もしくは一面的すぎると感じる内容だった気もします。

 史実の三成には多くの敵対者がいたものの、一方で毛利輝元などの有力者の協力を(家康の目を盗みながら)得ることにも成功しており、佐和山城に蟄居謹慎中も、徳川家康の覇権を覆すべく暗躍を続けていました。次回・第41回は「逆襲の三成」と銘打たれており、そういった内容が期待できるかもしれません。

 ちなみに第41回のあらすじには〈家康の決断で、佐和山城に隠居させられた三成〉とあり、三成を隠居させる判断は家康が下したかのように表現されていますが、史実では、毛利輝元が主導していたことがわかっています。しかし、輝元と三成は、毛利家の軍師として有名な安国寺恵瓊(えけい)という学僧を介してひそかに結託していたのです。

 第41回のあらすじの続きには〈会津の上杉景勝に謀反のうわさが広がる。家康は茶々から天下泰平のため、成敗に向かうべきと諭されるが、大坂を離れることに一抹の不安を感じ、留守を鳥居元忠に預けることにする〉とありますが、すべては三成と輝元、そして上杉景勝が、家康討伐のために仕組んだワナであった……という描かれ方になりそうですね。

 毛利輝元と上杉景勝は、家康にとっては最後の大敵と言ってもよい実力派大名でしょう。ただ、今回のドラマでより大きな存在感を見せそうなのは輝元でしょうか。

 上杉景勝を演じる津田寛治さんは、これまでの大河ドラマでも、出演するたびに違う印象の演技を見せてくれた俳優です。津田さんが景勝を演じると聞いたとき、ややエキセントリックな徳川慶喜をなだめていた『西郷どん』(2018年)での松平春嶽の演技が印象的だったので、今回もそのような方向性になるかと思っていたのですが……実際の放送を見て驚かされました。「徳川殿は狸と心得ておくがよい」と三成に助言するなど、『どうする家康』の景勝は頭の切れる人物ではあるようですが、台詞回しなどからはやや直情的な印象を受けました。無口でドッシリと構えていたとされる史実のイメージとは異なる方向の演技が、意識的になされていたように思います。家康目線のドラマである『どうする家康』にはいまだに直江兼続も登場しておらず、このドラマにおいて、景勝どころか上杉家中全体の扱い自体、やや軽いのかもしれません。

 それに対し、毛利輝元を演じる吹越満さんは、本心と行動はあくまで別という怪しげな雰囲気をぷんぷんと漂わせており、登場時間こそ短かったものの、存在感は抜群でした。史実の輝元の言動にも見られた、二転三転の「裏切り」を見せてくれるのではないかと期待したいところです。

 輝元はその度重なる「裏切り」が露見した際、安国寺恵瓊などに責任を被せるつもりでしたが、結局は本人も責任を取ることになりました。徳川家の全盛期だった江戸時代には、こうした逸話を持つ輝元は、「裏切り者」だけでなく「愚か者」という低評価まで受けることになります。秀吉はこのドラマにおいても「戦には勝たんでも、戦から利益を得る方法はいくらでもある」との言葉どおりの離れ業を見せつける姿が描かれましたが、史実の輝元は「戦に負けて、うまく立ち回ったつもりの外交でも実はボロ負けしていた」という悲惨な運命に泣くことになるわけで、ドラマの輝元がどんな立ち回りを見せるか楽しみです。(1/2 P2はこちら

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