Netflix配信『ルーシー・ブラックマン事件』 日本社会の闇に消えた元英国客室乗務員
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館 #Netflix
外国人をめぐるトラブルは事件化されにくい
治安がよく、礼儀正しく、安全な国というクリーンなイメージで語られがちな日本で起きた「ルーシー・ブラックマン事件」。ルーシーさんの母国・イギリスでもセンセーショナルな話題となった。
山本「ルーシーさんが六本木の外国人バーでホステスとして働いていたことが、事件当初の英国では大きく取り上げられていたようです。ホステスという職業が欧米にはないため、いかがわしい性風俗ではないのかという関心があったのでしょう。また、英国のタブロイド紙は憶測だけで書かれた記事が多く、『ルーシーさんは性奴隷として売られた』など、ルーシーさん一家の気分を害するような記事も出回っていました」
日本ではルーシーさんの安否を気遣うティム・ブラックマン氏の言動をテレビカメラが追い、マスコミ報道は加熱していった。
山本「ルーシーさんは観光ビザで日本に入国し、六本木で働いていました。当時の警察は不法就労している外国人にそれほど厳しくなかったのですが、逆に外国人をめぐるトラブルは事件化もされにくかったんです。それもあってティムさんたち家族は、日本の警察が本気で捜査をしているのかどうかが気がかりだったようです。日本の警察は捜査の進行状況を教えてくれないため、ティムさんは自分がマスコミに出続けることで、警察にプレッシャーを与え、世間が事件を忘れてしまうことを防ごうとしたんです。ティムさんの目立つ行動は、日本の警察との間に軋轢を生むことにもなりましたが、娘の無事を願う父親の心情としては理解できるものがあります」
あまりにも意外だった裁判の判決結果
外国人バーに通う常連客たちの身元調査、薬物を使ったレイプ被害に遭った外国人女性がメモしていた携帯番号などを手掛かりに、高級マンションで暮らす資産家の織原城二が2000年10月に逮捕される。織原の自宅からは、昏睡した女性たちを陵辱する織原が映った大量のビデオテープや違法薬物が見つかった。
山本「六本木で、ここまで大きな事件が起きたことはかつてなかったんじゃないでしょうか。外国人女性たちへの聞き込みも多く、英語に慣れない捜査官はかなり苦労したようです。それでも、『もしも、自分の娘が被害者だったら』という気持ちや、『日本に来たばかりで事件に巻き込まれたルーシーさんを早く見つけたい』という思いで、捜査官たちは懸命に捜査に当たりました。女性捜査官や警視庁初の科学捜査官の活躍なしでは、事件解決には至らなかったでしょう」
捜査官たちの熱心な捜索によって、バラバラになった姿でルーシーさんは発見された。ルーシーさんだけでなく、織原によって1992年に同じ手口でオーストラリア人女性カリタ・リッジウェイさんが亡くなっていたことも分かった。裁判の結果、織原には有罪判決が下る。
ルーシーさんの失踪事件が表面化したことで日本の警察が動き、長年にわたる織原の凶行は終わりを告げることになった。もしこの事件が発覚していなければ、織原による犠牲者数はもっと増えていたに違いない。織原はカリタさんら9人の女性に対する準強姦致死罪、準強姦罪、強制わいせつ罪などによって無期懲役となった。だが、ルーシーさんに対する殺人罪は問われないという予想外の判決だった。
山本「裁判の結果に、捜査官はみんな驚いたそうです。ルーシーさんの切断死体が見つかり、織原がチェンソーを購入した記録も残っていたのですが、ルーシーさんのことも撮っていただろうビデオテープは見つかりませんでした。決定的な証拠がないことから、肝心のルーシーさんの事件に関しては無罪になったんです。この事件に関わった捜査官たちは、性犯罪を立件化することの難しさを痛感したそうです。200人以上の性被害者がいながら、立件に同意した被害者女性は8人。性犯罪を立件する難しさは、今もほとんど変わっていない状況です。マスコミで大きく取り上げられただけでなく、いろんな意味で当時の捜査官たちにとって忘れられない事件になっているんです」
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事