吉岡里帆主演、“理想の街”をデザインした新感覚ムービー『アイスクリームフィーバー』
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館 #吉岡里帆 #松本まりか
映画製作をデザインする。そんなユニークなコンセプトから生まれたのが、映画『アイスクリームフィーバー』だ。芥川賞作家・川上未映子の短編小説「アイスクリーム熱」を原案に、吉岡里帆、モトーラ世理奈、松本まりか、詩羽(水曜日のカンパネラ)といった旬のキャストを迎え、ノンジャンルな映画として完成した。
本作を企画したのは、広告、企業ブランディング、CDジャケット、装丁、テレビドラマなど多彩な分野でアートディレクターとして活躍する千原徹也監督。初めて映画製作に挑んだ千原監督は、従来の映画づくりの常識に縛られることなく、自由に映画を撮り上げている。その結果、コロナ禍から明け、活気を取り戻しつつある東京の街の雰囲気がリアルに伝わる作品に仕上がった。
舞台となるのは渋谷。美大を卒業した後、デザイン会社に就職した菜摘(吉岡里帆)だったが、職場にうまくなじむことができずに退職。今はアイスクリーム店「SHIBUYA MILLION ICE CREAM」で働いている。このままアルバイト生活を続けるのか、それともデザイン業界に戻るのか。悩む菜摘の前に現れたお客が、ミステリアスな雰囲気を漂わせた佐保(モトーラ世理奈)だった。自由奔放な佐保の言動ひとつひとつが、菜摘は気になって仕方ない。
もう1人の主人公となるのは、アイスクリーム店の近くにある銭湯に通う会社員の優(松本まりか)。疎遠にしていた姉の愛(安達祐実)のひとり娘・美和(南琴奈)が突然上京し、優のマンションで居候を始める。ずいぶん前に家を出ていった父親を探すつもりらしい。慣れない共同生活に戸惑う優だったが、姪っ子の父親探しを手伝うことになる。
一見するとまったく関係なさそうな菜摘と優の日常生活だったが、意外なタイミングで2つの物語は軽妙にミックスすることに。見慣れていたはずの東京の景観がポップに切り取られ、甘くて淡いストーリーが奏でられる。
失敗に終わった最初の製作委員会
売れっ子アートディレクターである千原徹也監督に、彼が代表を務めるデザインオフィス「れもんらいふ」にて、映画製作の工程について語ってもらった。金髪姿の千原監督はいかにもクリエイターっぽいルックスだが、彼の話を聞くと『アイスクリームフィーバー』は単におしゃれなだけの映画ではないことが感じられるはずだ。
幼い頃から映画が好きだった千原監督は「映画製作をデザインする」というコンセプトで企画を立ち上げたものの、当初はうまく進まなかったという。
千原「映画監督であることを意識しすぎて、映画製作委員会に対して遠慮してしまっていたんです。アートディレクターの場合は、自分がいいなと思ったキャストや楽曲を自由に選び、自分からクライアントに連絡して、OKをもらっていたんです。でも、自分で動こうとすると、『それは映画監督の仕事じゃない』と言われるし、製作委員会からは『もう少し、今の客に寄せた楽曲のほうがいいのでは』とか『感動のポイントがあと2つは欲しい』などと言われました。製作委員会の方たちは映画業界のプロですから、僕もひとつひとつ許可をもらいながら進めようとしたんですが、それだと思うような映画づくりにはならなかった。そのうちコロナで中断することになり、1社が抜けると他の会社も抜けて、一度チームは解体することになったんです(苦笑)」
スタートにつまずいてしまった千原監督だが、そこで仕切り直し、「映画製作をデザインする」という最初のコンセプトに立ち戻った。映画監督という立場に囚われず、アートディレクターとして培ってきたスキルと人脈を活かして、独自の映画づくりを始める。撮影にはフォトグラファーの今城純を起用。川上未映子からも、そのスタイルを後押しされた。
千原「川上未映子さんの著書の装丁をしたり、以前からお付き合いはあったのですが、僕が『ウンナナクール』のアートディレクションをするようになり、キャッチコピーを担当する川上さんと仲良くなりました。川上さんにとって、これが初めての映像化作品です。オファーはいろいろと来ていたはずですが、川上さんもこだわりがあって、安易な映像化は許可してこなかったんです。今回、川上さんは『アイスクリーム熱』を原案として提供してくれただけでなく、『千原くんの考えはいいと思うよ』とも言ってくれた。川上さんに後押しされたのは大きかった。『アイスクリーム熱』はわずか22ページの短編小説ですが、それをどう膨らましていくのかを考えるのがすごく楽しかったですね」
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事