Netflix配信『ルーシー・ブラックマン事件』 日本社会の闇に消えた元英国客室乗務員
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ブロンドヘアにブルーアイズ、身長は175cm。六本木にある外国人バーでホステスとして働いていたルーシー・ブラックマンさん(当時21歳)が行方不明になる事件が、2000年7月に起きた。ルーシーさんは来日して、まだ2カ月足らずだった。シドニー五輪を9月に控え、ルーシーさんの消息を求めるポスターが都内各地に張り出されたことを覚えている人は多いのではないだろうか。
ルーシーさんは日本に来るまでは英国航空の客室乗務員だったことから、日本のマスコミは「元スチュワーデス失踪事件」と大々的に報じる。ルーシーさんの父親ティム・ブラックマン氏をはじめ、ルーシーさんの家族も次々と来日し、マスコミを通じてルーシーさんに関する情報提供を求めた。沖縄サミットに出席していたトニー・ブレア英国首相(当時)からの要請もあり、国際問題として異例の大規模捜査が進められた。長引く捜査の結果、2001年2月に三浦半島にある小さな洞窟で、バラバラ死体となったルーシーさんが発見される。
逮捕された織原城二(おばら・じょうじ)の犯行手口も、大きな波紋を呼んだ。織原は高級車を乗り回し、バーなどで知り合った女性を葉山のリゾートマンションへと連れ込み、睡眠薬やクロロホルムを使って昏睡状態にした上で、陵辱していたのだ。しかも、その様子をビデオテープに収めていた。織原の性犯罪の犠牲者数は200人以上に及ぶ。
日本最大の性犯罪事件と称される「ルーシー・ブラックマン事件」の捜査の全貌に迫ったのが、7月26日(水)よりNetflixにて独占配信されるドキュメンタリー『警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件』。髙尾昌司氏のノンフィクション小説『刑事たちの挽歌 警視庁捜査一課「ルーシー事件」』(文春文庫)を原案に、事件解決に尽力した捜査官たちを取材し、23年前に起きた猟奇的殺人事件が今なお日本社会に大きな課題を残していることを明かしている。
現場を知る捜査官の視点から描いたドキュメンタリー
本作を撮ったのは山本兵衛監督。ニューヨーク大学で映画制作について学んだ山本監督は、世界的な大企業・オリンパス社で起きた不祥事を題材にしたドキュメンタリー映画『サムライと愚か者 オリンパス事件の全貌』(18)で劇場デビューを果たした。Netflixドキュメンタリー『逃亡者 カルロス・ゴーン 数奇な人生』(22)ではプロデューサーを務めており、日本と異文化との軋轢をテーマにした作品で注目されている。山本監督に、企画の経緯やルーシー・ブラックマン事件の特異性について語ってもらった。
山本「事件当時の僕は、まだニューヨーク大学の学生でした。夏休みで日本に戻っていたこともあり、ルーシーさんの父親であるティムさんが連日のように日本のマスコミに出ていたことが印象に残っています。その後、事件について強く関心を持つようになったのは、2015年に日本語版が発売された『黒い迷宮──ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実』(早川書房)を読んでからです。英国人ジャーナリストが書いたノンフィクションで、事件の全体像をようやく知ることができたんです」
英国紙「タイムズ」の東京支局長リチャード・ロイド・パリー氏が執筆した『黒い迷宮』は、ルーシーさんの生い立ちから始まって、事件の詳細を記述した内容となっている。
山本「ルーシーさん一家の視点が中心となっていたので、『黒い迷宮』を読んだときはドキュメンタリーではなく、劇映画にしたほうがいいだろうなと思いました。でも調べてみると、すでにメジャー系の映画会社が権利を持っていると分かったんです。そんなときに出会ったのが、2013年に刊行された髙尾昌司さんの『刑事たちの挽歌』でした。こちらは捜査官たちの視点で描いたもの。『黒い迷宮』では日本の警察側の内情はあまり語られていなかったこともあり、当時の捜査官たちがこちらの取材に応じてくれたら、『黒い迷宮』とは違った視点での見応えのあるドキュメンタリーになるなと思ったんです」
英国では『黒い迷宮』のドラマ化が進んでいるが、山本監督による本作は、当時の捜査官たちやティム・ブラックマン氏らが事件を振り返る日本独自のドキュメンタリー作品となっている。
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