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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.747

東映ビデオが放つ非キラキラ系青春映画『神回』『17歳は止まらない』

東映ビデオが放つ非キラキラ系青春映画『神回』『17歳は止まらない』の画像1
タイムループする5分間を描いた青春ファンタジー『神回』

 安藤サクラが体を張ってボクシングに挑戦した『百円の恋』(14)、池松壮亮と門脇麦が地下風俗で出逢う『愛の渦』(14)、兄弟間の近親憎悪を描いた窪田正孝主演の『犬猿』(18)……。東映の子会社である東映ビデオは、メジャーな配給会社が手を出さないひと癖もふた癖もある作品をこれまで手掛けてきた。その東映ビデオが、新人監督たちのオリジナル企画の映画をこの夏に2本続けて劇場公開する。

 タイムループという人気ジャンルに挑んだ『神回』(7月21日公開)と、農業高校に通う女子高生を主人公にした『17歳は止まらない』(8月4日公開)がその2本。東映ビデオが新しい才能を発掘することを目的に2021年に始めた「TOEI VIDEO NEW CINEMA FACTORY」の公募に309本の企画が寄せられ、そこから厳正な審査によって選ばれた第1回製作作品だ。

 “青春映画”をテーマに、制作費は1500万円、撮影日数は10日間という条件で映画制作に挑んだ『神回』の中村貴一朗監督、『17歳は止まらない』の北村美幸監督は、どちらも今回が初めての劇場公開作となる。だが両監督はすでに社会経験をしっかりと積んでおり、その作風は一時期流行したキラキラ系映画とはずいぶんテイストが異なる。

 屈折した青春映画が好きな人におススメしたいのが『神回』だ。同じ時間が繰り返される「タイムループ」という形式を使い、ままならない学生時代を過ごす主人公の葛藤を描いている。

 高校生の沖芝 樹(青木柚)は文化祭の実行委員になったため、夏休みも打ち合わせのために登校する。同じクラスの実行委員・加藤恵那(坂ノ上茜)と午後1時に教室で待ち合わせしていた。机の上で居眠りしていた樹は、恵那に起こされて目覚める。だが、2人っきりの打ち合わせは、5分間を過ぎると午後1時になぜか戻ってしまう。

 異変に気づいた樹はこの状況から抜け出そうと、校舎から飛び出したり、手掛かりを求めて生徒会室を訪ねたりするが、わずか5分間では謎の解決には至らない。何度も失敗を繰り返すうちに、樹は自暴自棄に陥ってしまう。恵那を巻き込む形で、樹は暴走を始める。

高校時代の鮮明な記憶をモチーフにした『神回』

東映ビデオが放つ非キラキラ系青春映画『神回』『17歳は止まらない』の画像2
樹(青木柚)は繰り返される5分間から抜け出そうとするが……

 大林宣彦監督の『時をかける少女』(83)、押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84)など、青春映画の定番にもなっている「タイムループ」ものでデビューを果たす中村貴一朗監督。普段は最新技術を使った映像の企画制作、撮影、ポストプロダクションなどを手掛ける「ソニーPCL」の社員として働いているが、劇場映画を撮ることが長年の夢だったそうだ。タイムループものの企画を思いついた経緯について語ってもらった。

中村「人間の内面を深掘りするようなシナリオをそれまで書いていたんですが、コンクールでは結果が残せなかった。そこでジャンルもののスタイルを取り入れることで、よりエンタメ性をアップできるんじゃないかと考えたんです。そんな折、コロナに感染して、ホテルで隔離生活を送ることに。公然と仕事を休んで、シナリオを書く絶好のチャンス。こんな機会は人生にそうそうありません(笑)。ホテルの一室に閉じ込められた環境で、学校に閉じ込められた状況の高校生の物語を3日間ほどで書き上げたんです」

 閉塞的な状況から抜け出すことができないという「ループもの」のアイデアには、中村監督自身の学生時代の体験も投影されている。

中村「東映ビデオが募集したテーマが『青春映画』だったわけですが、応募時の僕は35歳になっていました。この年齢になると、青春時代の繊細な記憶はあまり残っていません(笑)。唯一、残っていたのは休み時間の記憶でした。学生時代の僕は人とコミュニケーションするのが苦手で、授業と授業の合間の休み時間は自分の机に突っ伏して過ごしていたんです。寝たふりをしていれば、人と会話せずに済むわけです。寝たふりをしている間、いつもいろんなことを妄想しました。好きな女の子にアプローチするにはどうすればいいだろうとか、隣のクラスの生徒がゾンビになったらどうしようとか。そんな休み時間を繰り返していたんです。主人公の樹は、学生時代の僕自身が投影されているんです」

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