東映ビデオが放つ非キラキラ系青春映画『神回』『17歳は止まらない』
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館 #青木柚
屠殺シーンの撮影はパニック状態に
農業系女子の青春を描いた『17歳は止まらない』でいちばんのキモになるのは、畜産科の生徒が自分たちでヒナから育ててきた鶏を屠殺し、精肉化するシークエンスだろう。主人公の瑠璃(池田朱那)は教師の森(中島歩)への恋心を募らせる一方、授業のカリキュラムとして屠殺を体験することになる。まさにエロスとタナトスが交差する青春ドラマだ。
北村「僕が調べたところ、ほとんどの農業高校の畜産科では、家畜を屠殺し、精肉にするまでを生徒が体験することをカリキュラムにしていました。キャストに演じてもらう前に、監督である僕が知っておく必要があると思い、福島の農家に行って屠殺を体験しました。鶏の首を締めて、羽をむしると、食べられるお肉の部分はほんのわずかです。自分たちが普段どれだけの命をいただいているのか考えさせられました。オーディションで選ばれた生徒役のキャストは、脚本を読んで内容を知っていたはずなのに、撮影当日はパニック状態でした。R指定作品ではないので流血シーンにはなっていませんが、その日の撮影は困難を極めましたね(苦笑)」
主人公の瑠璃は、シングルマザーとの生活を支えるためにコンビニでアルバイトしている。他校の男子生徒・マサル(青山凱)から「デートしよう」と誘われるも、「同年代の男子には興味がない」と突き放してしまう。かなり気の強いキャラとなっている。
北村「観る人によっては、瑠璃は嫌われかねないキャラクター。瑠璃役の池田朱那さんとは、面談のときはかなり話し合ったんですが、役に決まってからは話し合えずにいました。撮影初日は僕の記憶がまるでないくらい忙殺されてしまったんですが、撮影2日目になって僕も少し落ち着いたところで、瑠璃が森先生のいる夜の学校へ押し掛けるシーンを撮ったんです。池田さんが瑠璃役に自分を乗せて、勢いよく演じているのが感じられたので、『よし、彼女のキャラに乗っていこう』と僕も腹を括ることにしました」
編集まで手掛けた『17歳は止まらない』について、北村監督は「自分がイメージしていたものの、2割も形にできなかった」と自己評価は厳しい。それだけ、映画監督という仕事に強い思い入れがあったようだ。北村監督のイメージどおりではないかもしれないが、池田朱那ら若手キャストの自由奔放な演技が本作の魅力となっているのは確かだろう。
これからが楽しみな若手キャストの可能性と実社会を経験してきた監督が感じる人生の苦味とが絶妙に混じり合った『神回』と『17歳は止まらない』。共に不思議な余韻を残す、異色の青春映画となっている。
『神回』
監督・脚本/中村貴一朗
出演/青木柚、坂之上茜、新納慎也、桜まゆみ、岩永洋昭、平山繁史、渡辺綾子、横江泰宣、井上想良、日下玉巳、三浦健人、平山由梨、藤堂日向、岡部ひろき、森一、南一恵
配給/東映ビデオ 7月21日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開
©2023 東映ビデオ
toei-video.co.jp/kamikai
『17歳は止まらない』
監督・脚本/北村美幸
出演/池田朱那、片田陽依、白石優愛、大熊杏優、青山凱、中澤実子、ジョカベル美羽、安部夏音、三好紗椰、中島歩
配給/東映ビデオ 8月4日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開
©2023 東映ビデオ
toei-video.co.jp/17sai-ha-tomaranai
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