『らんまん』主人公の“自分勝手さ”をちゃんと周囲がツッコむ朝ドラ（第12週）

2023/06/26 06:00

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『らんまん』主人公の“自分勝手さ”をちゃんと周囲がツッコむ朝ドラ（第12週）の画像 — イラスト／渡辺裕子

　第11週は神週だったと書きましたが、第12週も神週認定じゃないですか？　このまま毎週「あら神週だ」「これも神週だ」って進むんでしょうか。らんまん、恐ろしい子……！

　「槙野さん、私、来ました！」と寿恵子（浜辺美波）が万太郎（神木隆之介）に抱きついた先週金曜日。お姫さまがやってくるロマンチックなエンディング、おとぎばなしならここで「めでたしめでたし」で本を閉じるところですが、現実はそうはいかない。抱擁から一転、「人のこと散々ほったらかして、今まで何してたんですかー！」と、万太郎をポカポカ殴る寿恵子、わかるわー、万太郎はひどかったよね。

　標本などが散乱して座る場所もない万太郎の部屋に通されたけれど、聞かされるのは、植物図鑑は自費出版するから金がかかるし、これから苦労をかけるという予告。つまり寿恵子との結婚は、研究しかできない万太郎の、日々の世話をすべてしてくれという意味では。今の竹雄（志尊淳）が「相棒」という名のもとに、家事をして働いて万太郎を支えていたポジションに、寿恵子が「妻」として組み込まれるだけでは。それでいいのか寿恵子ちゃん……と、はらはらしていたら、「それって万ちゃんの都合だよね」と、盗み聞きしていた丈之助（山脇辰哉）がズバッと指摘してくれてよかった。いや、盗み聞きも、隣室の穴からにょろーっと乱入するのもよくはないけど。自分勝手に生きる万太郎を見て「万太郎～！」と思うシーンが多々あるんだけど、寿恵子ちゃんのポカポカ殴りを含め、ちゃんと周りの人が「よくないぞ！」と言ってくれるから、その都度「だよねー！」ってストレスが消滅するの、安心。

　丈之助の指摘通り、ダメダメな万太郎の結婚と暮らしについて問題は山積みだけど……ふたりの愛の言葉を聞いたら応援するしかない。「わしは、寿恵子さんを好きながです！　どうしようもなく。花が日ざしを待つように、水を欲しがるように、わしという命にはあなたが必要ながです！」「あなたとなら、毎日、今日を生きるだけでひたすら大冒険なんです。私、あなたが好きなんです」　大好きな「植物」「冒険」と、同じくらい相手が好き。そういう人に出会ったら、もう離れられないですもんね。

　そしてここから始まる「完結した物語は生き続ける」という、寿恵子と丈之助のオタクトーク、これもまたよかった。「仕事が終わったら次の話を読もう」「どうか私が生きているうちに書き終えてください」って心の支えになる長い物語って、ありますよね。万太郎の図鑑も、丈之助の「シェイクスピア全作翻訳」も、やり遂げられますように。

　しかし、どんなに好きでも、どんなに望んでも、手に入らないものもある。佐川へと帰郷した万太郎と寿恵子を見て、あの、いつもしゃんとしているタキさん（松坂慶子）が、病気を治してくれと医師に頭を下げるなんて。そのくらい、ふたりの子どもを抱きたかったんですね。けれどもそれは当時の医学では叶わない。その言葉に泣き崩れることもなく「あさましいことを」と静かに微笑むタキさんは、やっぱり強い人でした。せめて、万太郎と寿恵子に近くで暮らしてほしいという願いも、ロシアからの万太郎宛の手紙で消える。マルバマンネングサが万太郎の発見した新種として、「マキノ」の名前もつけて認められたという大ニュースに、自分の望みを叶えるより、外国まで届こうとしている万太郎の黄金の道を応援するタキさん。タキさんの深い愛に、胸が苦しくなるエンディングでした。

　万太郎と寿恵子の大冒険はどんな道のりになるのか。竹雄の綾（佐久間由衣）への思いは「呼んでみただけ」で終わるのか。すべての望みが叶わないのが人生だけど、せめていちばん大事な想いだけは、届きますように。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』
[NHK総合]　月～金 8:00-8:15 / 月～金 12:45-13:00（再放送）
[BSプレミアム・BS4K]　月～金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00（再放送）
[見逃し配信] NHKプラス

出演：神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、笠松将、中村里帆、島崎和歌子、寺脇康文、広末涼子、松坂慶子、牧瀬里穂、宮澤エマ、池内万作、大東駿介、成海璃子、池田鉄洋、安藤玉恵、山谷花純、中村蒼、田辺誠一、いとうせいこうほか
作：長田育恵
音楽：阿部海太郎
主題歌：あいみょん「愛の花」
語り：宮﨑あおい
制作統括：松川博敬
演出：渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
プロデューサー：板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
植物監修：田中伸幸
制作：NHK
公式サイト：nhk.jp/ranman