トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > Dragon Ashと「内省と情熱」のゼロ年代
あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#24

Dragon Ashとドラムンベース~ラテン音楽 “ミクスチャー”が加速した「内省と情熱」のゼロ年代

ドラムンベースとラテン音楽をリズムで接続した『Río de Emoción』

Dragon Ashとドラムンベース~ラテン音楽 “ミクスチャー”が加速した「内省と情熱」のゼロ年代の画像2
Dragon Ash

(2/2 P1はこちら
 『HARVEST』から2年以上を経てリリースされた『Río de Emoción』(‘05)は、タイトルにも表れているとおり、ラテン・ミュージックのテイストが全面に取り入れられている点でファンを驚かせた。

 とはいえ、前作からの連続性も随所に見られる。例えば引き続き多くの楽曲でドラムンベースが用いられている点がわかりやすいが、しかし今作では2・4拍目を強調したギターカッティングを導入したり、ベースのミキシングを強めることでダブ/レゲエのテイストを強め、ジャングル的な方面へと先祖返りしたような内容になっているのが面白い。こうした点は、MC陣のフロウにもジャングル的な影響が垣間見える「Resound」や、ラヴァーズ・ロック的な甘いテイストを纏った「夕凪Union」に顕著である。

 また、音数を大きく削ぎ落とすことでドラムンベースのミニマル性を強調しつつ、アンビエント的な背景音の輪郭を際立たせた「See you in a Flash」も忘れてはいけない存在だ。

 こうした連続性もありながら、前作との決定的な差をもたらしているのがラテンの要素だ。特有の叙情的なコード進行とリズムの躍動感が同居するラテン・ミュージックは元来日本の歌謡曲・J-POPとは相性がよく、古くは雪村いづみ「マンボ・イタリアーノ」(‘55)や西田佐知子「コーヒー・ルンバ」(‘61)といった日本語カバー曲、2000年以降もポルノグラフティ「サウダージ」(‘01)や福山雅治「HEAVEN」(‘01)といったヒット曲が生まれているのは多くの音楽ファンがご存知かと思う。このラテン要素は、「Fantasista」までのDragon Ashに顕著であった、時に声を張り上げ、時に熱くメッセージを打ち出すエモーショナルな側面を取り戻す役割を果たしており、この点は「Scarlet Needle」に顕著に表れている。

 彼らがラテンへと向かった理由はさまざまだろうが、そのひとつにドラムンベースとラテン・ミュージックの親和性があると思われる。ラテン・ミュージックは、例えば12拍子を軸にリズム展開の自由さが許容されるフラメンコや、訛りのある16ビートのサンバをはじめ、単にリズミカル/パーカッシブなだけでなく、時に緩急入り混じる複雑なリズムが用いられることが多い。この点で、倍速/ハーフテンポの感覚が入り混じり、シンコペーションも多用されるドラムンベースとの親和性は非常に高いのだ。「Los Lobos」はこのことを示す格好の例となっており、この曲がイントロトラックに続くアルバム2曲目――実質上の1曲目に配されたことからも、彼らはドラムンベースとラテンの相性の良さに自覚的だったと思われる。

ラテン~ロックが「情熱」を呼び覚ます『INDEPEMDIENTE』と、その後の“ミクスチャー”の確立

 次作『INDEPEMDIENTE』(’07)ではドラムンベースやダブ/レゲエ、エレクトロニカの要素を後退させつつ、パーカッシブな側面はそのままにラテンおよびロックの側面を強調することで、時に熱く、時にハートウォーミングな歌モノのテイストが前景化してくる。熱さ・激しさをたたえた例としては「Develop the music」「El Alma」、暖かさ・優しさが表れたものでは「few lights till night」「夢で逢えたら」などが代表格だろう。また、前作までに見られた内省的な空気がほぼ霧散し、ポジティブなムードに満ちている点も特筆に値する。このアルバムをもって、Dragon Ashは『HARVEST』以来の長い「内省の時代」を抜け出したように思える。

 その後、『FREEDOM』(‘09)ではさらにロック色が強まり、「Mixture」というかつてのDragon Ashを象徴するような名前の楽曲も収録されている。そして、その次作のタイトルはまさに『MIXTURE』(‘10)と銘打たれ、それまでの音楽遍歴をロックを軸に見事にまとめ上げた、文字通り「ミクスチャー・ロック」の雄としてのDragon Ashの帰還を告げる内容となった。以降の彼らの音楽性が、基本的にこの『MIXTURE』で確立されたバランス感覚の上に成立しているように見える点からも、このアルバムは彼らにとってある種のマスターピース的な作品だろう。

 前述したキングギドラ(Zeebra)からのディスが影響したのか、Dragon Ashはブレイク以来の武器であったヒップホップ色を大きく後退させ、その分、新しい音楽性を次々に取り入れていった。この時、Kjおよびバンドが音楽活動を止めることなく続ける道を選び、結果として日本のメジャーバンドとしては(2020年代以降の視点から見てもなお)極めて異色で独自性が強い作品群を生み出していったことは、もっと称賛されるべきであり、まだまだ評価が足りていないように思える。

 本稿では音楽的な側面に光を当てるというテーマ上、共同体や周囲・オーディエンスとの関係性をテーマにしてきた彼らのリリックや、ライブ活動を通じて築かれたファンとの強固な信頼関係についてはあえて触れなかったが、彼らはこの先も、自身の価値観・信念を大切にした活動を続けていくことだろう。そしてその先に、さらなる音楽的進化があるのか注目していきたい。

♦︎
本特集のきっかけのひとつとなった、Dragon Ashのポストロック~ダブ~アンビエント方面の楽曲をまとめたSpotifyプレイリストがこちら。ぜひ、Dragon Ashの新たな魅力の発見にご活用いただきたい。

B’z、DEEN、ZARD、Mr.Children、宇多田ヒカル、小室哲哉、中森明菜、久保田利伸、井上陽水、Perfume、RADWIMPS、矢沢永吉、安全地帯、GLAY、SOUL’d OUTなど……本連載の過去記事はコチラからどうぞ

TOMC(音楽プロデューサー/プレイリスター)

Twitter:@tstomc

Instagram:@tstomc

ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスター。
カナダ〈Inner Ocean Records〉、日本の〈Local Visions〉等から作品をリリース。「アヴァランチーズ meets ブレインフィーダー」と評される先鋭的なサウンドデザインが持ち味で、近年はローファイ・ヒップホップやアンビエントに接近した制作活動を行なっている。
レアグルーヴやポップミュージックへの造詣に根ざしたプレイリスターとしての顔も持ち、『シティ・ソウル ディスクガイド 2』『ニューエイジ・ミュージック ディスクガイド』(DU BOOKS)やウェブメディアへの寄稿も行なっている。
Spotify
Apple Music

とむしー

最終更新:2023/04/29 11:00
12
ページ上部へ戻る

配給映画