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天海祐希『合理的にあり得ない』ただの痛快エンタメではない? 散りばめられた数々の謎

天海祐希『合理的にあり得ない』ただの痛快エンタメではない? 散りばめられた数々の謎の画像
ドラマ公式サイトより

 天海祐希の月10ドラマ初主演作品となるカンテレ・フジテレビ系ドラマ『合理的にあり得ない ~探偵・上水流涼子の解明~』の第1話が4月17日に放送された。

 ドラマの舞台はとある探偵事務所。傷害事件をきっかけに弁護士の資格を失った過去をもつ女探偵・上水流涼子(かみずる・りょうこ)と、その相棒で、IQ140の頭脳をもつ貴山伸彦(きやま・のぶひこ)が、現代の“あり得ない”敵を“あり得ない”手段で成敗する極上痛快エンターテインメントだ。涼子を天海、貴山を松下洸平が演じており、確かな実力で評価される両俳優が個性をぶつけ合うバディものとなる。『孤狼の血』シリーズなどで知られる小説家・柚月裕子の同名小説が原作だ。

 異色の2人によるバディ作品といえば、2022年1月期に放送されたフジテレビ系月9ドラマ『元彼の遺言状』が記憶に新しい。綾瀬はるか演じる野心の強い女弁護士と、大泉洋演じる作家志望の謎の男がタッグを組んで数々の事件を解決していく作品だが、『合理的にあり得ない』は玄人好みのメインキャストも相まって、筆者は重厚感のあるストーリーを期待していた。

 だが、その予想はさまざまなかたちで裏切られる第1話だった。冒頭は、弁護士時代の涼子が傷害事件の被疑者として警察の取調室で追及されているシーンから始まり、涼子は「記憶にないんです」と戸惑う。美人女弁護士として世間から注目を集める存在から一転、しがない探偵へと転落するきっかけとなったエピソードだが、何が起こったのか断片的にしかわからず、謎めいている。涼子の、現代パートでの自信に満ちあふれた姿とのギャップに、事件の深い闇を感じた視聴者は少なくないはずだ。それと同時に、本作がキャッチコピーである「極上痛快エンターテインメント」だけにとどまる作品でないであろうことを予感させた。

 とはいえ、その謳い文句どおり、第1話の物語はエンタメ感たっぷりに進行。標的となるのは、私利私欲にまみれた暮らしを送る不動産ブローカー・神崎恭一郎(高嶋政伸)で、神崎に騙されて工場を奪われ、夫を自死で亡くしてしまった女性の依頼を受け、涼子と貴山は神崎から2000万円を奪い取ろうと動き回る。飲み物に精力剤を混ぜ、秘書の愛人と不倫しているところを盗撮して脅そうとするが、面の皮が厚い神崎には効果なし。そこで神崎の妻・朱美(戸田菜穂)をハメようと、涼子は占いのあたるヨガ講師に扮し、占いを信じた朱美に2000万円を遣わせる。貴山の友人で、歌舞伎町にたむろす“裏社会”グループの若きリーダー・有田浩次(中川大輔)の協力を得、風俗店を急いでヨガレッスンの場に整え、怪しい占いで朱美を“洗脳”していくコメディテイストは『コンフィデンスマンJP』っぽくもあった。

 神崎は妻の使い込みにさすがに気づき、妻を山小屋に監禁し、貴山を拉致する。貴山を臓器ブローカーに売り飛ばすという神崎。一転して劣勢となったかと思いきや、事前に神崎の携帯電話に仕込んでいたGPSアプリのおかげで朱美の監禁場所も貴山の居場所もすぐに判明する。さらに、涼子は朱美を騙していたのではなく、朱美はすべて承知のうえで、それでも引きこもりの息子との関係の再構築を手助けてくれた涼子への感謝の思いで金を支払っていたことがわかる。そして、さんざん朱美にモラハラをかまし、不倫し放題で息子のことも省みなかった神崎は、ついに朱美から見放される。過去のさまざまな悪事の証拠も朱美に握られていたことから、離婚と慰謝料3億5000万円を条件に証拠は破棄すると突きつけられ、神崎は観念。朱美は息子とともに自由の身となるのだった。

 痛快エンターテインメントにふさわしい“成敗”はまだ続く。警察にも追われる立場となった神崎がなりふり構わず殴りかかると、涼子はカウンター一閃。まさに身も心もへし折る懲らしめ方だ。朱美を救い出す際のショベルカー突撃など、“あり得ない”手段での事件解決が今後も見ものとなりそうだが、一方で、天海演じる涼子の七変化も目玉となるだろう。第1話ではゴルフのキャディやマッサージ師、ヨガ講師に扮する程度で、冒頭のパーティシーンだけ華やかなドレス姿を見せてくれたが、次回は“バブリー”な姿への変身も楽しめそうだ。また松下演じる貴山もさらに多彩な扮装を見せてくれそうである。

 「やってる?」「ショック!」など涼子のゆるいキャラクターと、バディを組む貴山とのやり取りがユーモラスさを打ち出しているが、一方で第1話で描かれた事件とその背景にあったのは、悪徳ブローカーに騙されて自死した夫と遺された妻、モラハラ夫に悩む妻、父親の悪事三昧が週刊誌に暴かれたことでいじめに遭った子ども……といったシリアスなものばかり。そして涼子の過去の事件と、そんな涼子になぜ「IQ140」の貴山が協力しているのかもまだ謎に包まれている。特に貴山は、“裏社会”グループのリーダーである浩次から「のぶりん」と呼ばれるなど旧知の仲である点もあり、真相に迫るにつれ、作品のトーンはよりシリアスに、よりダークに変化していくかもしれない。

 見どころにあふれた第1話だったが、突出してインパクトがあったのはオープニングに映し出された、涼子が無表情で気を失った男性を殴り続けるシーンだろう。しかも、涼子はその状況を覚えていないというだから恐ろしい。痛快エンターテインメントか、はたまたサイコサスペンスか。第1話ラストの涼子の右目だけマスカラが落ちていたのは、伏線なのか、それともただのものぐさなキャラクターを表しているだけなのか。『合理的にあり得ない』は想像もしていないジャンルへと“あり得ない”変異を見せる可能性も秘めていそうだが、まずは今夜放送の第2話を見届けたい。

■番組情報
月曜ドラマ『合理的にあり得ない ~探偵・上水流涼子の解明~
フジテレビ系毎週月曜22時~
出演:天海祐希、松下洸平、白石聖、中川大輔、丸山智己、仲村トオル ほか
原作:柚月裕子『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』(講談社文庫)
脚本:根本ノンジ
音楽:眞鍋昭大
主題歌:ざきのすけ。「彼は誰どき」(ソニー・ミュージックレーベル)
プロデューサー:萩原崇、清家優輝
演出:光野道夫、二宮崇、倉木義典
制作協力:ファインエンターテイメント
製作・著作:カンテレ
公式サイト:ktv.jp/arienai

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/06/02 03:15
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