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BBCのジャニ―喜多川氏追及ドキュメンタリーは国外でどう受け止められているのか

ジャニー喜多川の性加害問題を報じない日本メディア、欧米にもある不可解な報道の画像1
ジャニーズ事務所

 イギリスの公共放送BBCが、ジャニ―喜多川氏の所属タレントに対する性加害疑惑を追うドキュメンタリー『Predator: The Secret Scandal of J-Pop』を3月7日に放送した。

 日本でも、『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』のタイトルで3月18日にBBCワールドニュースで放送されたほか、反響の大きさを受け、3月27日から4月18日までAmazonプライム・ビデオで無料配信している(※プライム・ビデオとBBCワールドニュースチャンネルの契約が必要、後者は14日間の無料体験あり)。

 predatorという単語は同名映画で日本でも有名になったが、「捕食者」はやや直訳的だ。この場合、他人を(金銭的に、あるいは性的に)食いものにする人間のことを指している。特にこの単語は性犯罪者を指す比喩として用いられることも多い。つまり、このドキュメンタリーはタイトルの時点でジャニ―氏の疑惑について“クロ”だと考えていることがわかる。

 ブリトニー・スピアーズの成年後見人問題を取り上げた『The Battle for Britney』などでも知られるジャーナリストのモビーン・アザー氏が取材者となり、日本のアートを紹介するBBCの番組『The Art of Japanese Life』などのメグミ・インマン氏が監督・プロデュースを務めた。ドキュメンタリーに登場する元ジャニーズJr.の平本淳也によれば、5年ほど前から進められていた企画のようだ。日本での取材・撮影は昨夏行われている。

 『J-POPの捕食者』は主に「週刊文春」(文藝春秋社)が過去に展開したジャニ―氏追及キャンペーンの記事と、その後のジャニーズ事務所との裁判を「元ネタ」とし、「文春」の記者や、当時の「文春」側の弁護士などに話を聞いていく。そして後半では、元ジャニーズの面々に取材をし、彼らが疑惑を認めながらもジャニ―氏をいまだ慕っているような様子を映し出し、グルーミング(被害者と信頼関係を結ぶことで加害者が性的虐待を行うのを受け入れさせる洗脳的行為)ではないかと訴えている。日本での放送後には、本編では放送尺の都合上収まらなかった、性的虐待の被害を受けた男性を専門に支援するセラピストにグルーミングについて解説してもらった内容の記事がBBCジャパンで公開されている。

グルーミングとは……性的被害専門のセラピストに聞く ジャニーズ事務所取材のBBC記者

 ジャニ―氏に関する疑惑や、ジャニーズ事務所と関係の近いメディアが沈黙を保っていることなどは、すでに知られたことではある。ゆえにドキュメンタリーとしては、“被害者”たちの証言部分が重要な要素といえるだろう。元「They武道」の高橋竜や、元関西ジャニーズJr.の吉岡廉も顔出しで取材に応じており、2012年退所の高橋、2019年退所の吉岡がそれぞれジャニ―氏がジャニーズJr.たちに“手を出している”ことを認めたことは、1999年の「文春」報道後も性加害が続いていたということであり、視聴者の中には衝撃を受けた人も少なくないようだ。また、仮名で取材を受けたハヤシ氏は、被害について話が及ぶと言葉を詰まらせるという、心が痛む場面もあった。

 このドキュメンタリーについて、NHKを始めとした大手国内メディアは基本的に沈黙を保っており、批判の声が上がっている。ジャニ―氏はすでに亡くなっており、刑事事件にもなっていないことから慎重になるのもやむを得ないとの論調もあるが、たとえばアンジャッシュ・渡部建の性スキャンダルの際は行為の子細まで伝えられるなど報道が過熱気味であったことを考えると、優越的地位による性暴力といえる今回の件に対して静観している状況なのは不自然としか言いようがないだろう。

 では日本国外ではどう受け止められているのだろうか。しかし、これが筆者の観測した範囲ではあるが、あまり反響は起こっていないように見える。

 その理由のひとつは、ジャニーズ/J-POPという、世界的にはマイナーな存在の問題を取り上げたこのドキュメンタリーへのアクセスが、まだまだ限られているからだろう。BBCのウェブサイト(iPlayer)でも配信されているが、イギリス国内在住者でないと視聴ができない。英語圏のJ-POPファンのブログをいくつか見たが、イギリス在住でない者は、仕方なくBBCのニュース記事をもとにこの件について議論しているのがほとんどで、なかには合法ではないが視聴できる方法を紹介するものもあった。オンデマンドで気軽に世界中から視聴できる状態になれば、もっと反響は起こるだろうと考える。「文春」とジャニーズ事務所の裁判について(当時の英語圏のメディアでは珍しく)報じていたニューヨーク・タイムズも、現状はこのドキュメンタリーを取り上げていないが、環境が整えば記事にするのではないだろうか。

 海外の反応が薄いもうひとつの理由は、ドキュメンタリーのクオリティにもあるように思われる。BBCのお膝元である英国では、ガーディアン紙やインディペンデント紙などが取り上げているが、5点満点中3点をつけた前者はやや辛口だった。ガーディアン紙の批評家は、この性加害問題について驚きをもって受け止めつつも、取材対象者に対するアザー氏の反応が概ね、「子供じみた怒り方」であったり、最初から疑ってかかり、礼儀や恥といった日本文化をあまり考慮していなかったことを「残念」としている。また、ジャニーズ事務所に正面から突撃した際の態度も「プロらしからぬ」としており、取材姿勢が感情的であると受け止めたようだ。

 ドキュメンタリーというものは、演出や、製作者の思想が混ざってしまうことはどうしても避けられないが、しかし、ジャニ―氏を「神様」とする“一般人”の発言(ガーディアン紙を始め、多くの海外メディアでもこの部分は象徴的に引用されていた)など、あまりに恣意的に感じられるシーンも少なくない。おそらく、大半の日本人がジャニ―氏について「神様」などと過剰に崇めてはいないだろう。また、一応はジャニーズ事務所とメディアの関係についても言及されているが、ジャニーズについて取材したいと言うと断られ続けるという状況について、“日本人は波風を立てないことが重要”と結論づけていたのもやや短絡的に感じられた。その背景にある事務所の強大な影響力について、もっと踏み込むべきではなかっただろうか。

 証言者についてもそうだ。元ジャニーズJr.たちが口々にジャニ―氏を嫌っていない、むしろ尊敬していると言うと、アザー氏はすぐにグルーミングだと結論づけていたが、本当にそうなのだろうか。高橋竜はジャニー氏が一線を超えそうになったところで「これ以上はだめだよ」とハッキリ断ったと話しており、「僕にとってはそこまで(ジャニ―氏の行為は)大きな問題じゃないから、笑って話せている」としている。平本淳也も同様に、「そこまでやられてないんで。被害にも何にも遭ってない。ただマッサージしてもらったレベルの、ほんの少しの延長」と笑いながら話し、ジャニ―氏は犯罪者には当たらないとしていた。吉岡廉については被害に遭ったかどうか言及されていないが、ジャニ―氏の行動について「めっちゃ悪いとは思わん」と、あっけらかんとした態度だった。一方で、仮名で証言したハヤシ氏は声を震わせて被害を話し、「性犯罪」とはっきり断言していた。無論、いずれにせよ権力者が未成年の所属タレントの体を触る行為が問題なのは間違いないが、はたしてこの態度の違いは何なのだろうか。

 平本は「小中学生って未経験な子が多かった。『初体験はジャニ―さんだ』って今でも笑い話で言うぐらい」とも話していた。筆者には、平本や高橋らは被害がそこまで深刻でなかったことと、番組中で記者の中村竜太郎氏が指摘していたように、男性同士の関係など“ありえない”とする(特にヘテロセクシャルの)日本人男性の意識によって、ジャニ―氏の行為を“笑い話”“大したことない話”として昇華し、そうすることで“プライド”を保っているという構図のようにも見えた。

 それに平本は、かつて数々の暴露本を出版したにもかかわらず、「オレのメッセージは番組の方針と異なる」とし(※SNSでの発言)、番組での発言もジャニ―氏を擁護する立場だった。「元ジャニーズ」として現役ジャニーズについての記事を一部メディアで執筆したり、元ジャニーズJr.を集めたトークイベントなども行っている平本は、BBC側に対し「ネタを持っている業界人のアテンド」もやったと公言するほど取材に協力的だったわけだが、それでもジャニ―氏を「ファミリー」だとして責めなかったのは、やはりグルーミングによるものなのだろうか。

 もっとも、証言者はいずれもジャニー氏の行為自体があったことは否定していない。このドキュメンタリーとは別に、2011年~2018年頃までジャニーズ事務所に在籍した前田航気も、2021年1月に公開された海外メディア「ARAMA! JAPAN」のインタビューで「彼(ジャニ―氏)との性交渉を望んだジャニーズJr.も中にはいた。なぜなら、誰がデビューするかの決定権を握っていたから。これが虐待のうちに入るのかどうかはわからないが、ジャニーズJr.(の一部)との間で性行為があったことは確か」と発言しており(のちに該当部分が記事から削除)、晩年までジャニ―氏による性加害行為が続いていた可能性は十分高いといえるだろう。

 リベラルなアジア系英国人で、同性愛者であることを公言しているアザー氏が、元ジャニーズJr.に「有名になれるなら(ジャニ―氏の行為を)受け入れる」と言われ、思わず言葉を失うさまは、確かに日本の“異様さ”の一端を示しているだろう。このドキュメンタリーが「感情的」となったのは、疑惑の人物がすでに亡くなっており、刑事事件にもなっておらず、取材に協力してくれる人もほとんどいないがゆえの「選択」だったのかもしれない。ジャニ―氏が今も守られている状況に日本社会が沈黙していることこそ、もっとも残念だと訴えていたアザー氏。その意味では、国内で議論を起こせたことだけでも制作した甲斐があったといえそうだが……。次にアザー氏が突撃すべきは、NHKなのかもしれない。

宇原翼(ライター)

雑誌、ウェブメディアの編集を経て、現在はエンタメ系ライター。

うはらつばさ

最終更新:2023/04/05 11:00
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