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バカリズムは人生何周目? 『ブラッシュアップライフ』“航空学校編”の巧妙さ

バカリズムは人生何周目? 『ブラッシュアップライフ』“航空学校編”の巧妙さの画像
ドラマ公式サイトより

 今夜、12日夜にいよいよ最終回を迎える、安藤サクラ主演の日本テレビ系ドラマ『ブラッシュアップライフ』。安藤は10日に授賞式が開かれた第46回日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞(『ある男』)に輝き、スピーチも話題になったことで、いっそう注目度は増しているだろう。

 『ブラッシュアップライフ』が今期もっとも成功したドラマであることは疑いようがない。世帯視聴率こそ、第9話時点で全話平均6.24%で、民放ゴールデン・プライム帯冬ドラマではワースト3位となる水準だが、第7話以降は右肩上がりで、自己最高を更新し続けており、第9話では7%台に到達と勢いがある。12日放送の最終回は、テレビ朝日でのWBC生中継がどこまで延長されるかにもよるが、22:30スタートの『ブラッシュアップライフ』は影響を受けにくく、自己最高をさらに更新する気配もある。

 さらに、コア視聴率では第9話で5%を記録し、これまでコア視聴率で圧倒的1位だった『大病院占拠』(日本テレビ系)を抜いて今期1位となったという。TVerのお気に入り登録者数も118万人を超えており、冬ドラマ2位の『100万回 言えばよかった』(TBS系)のおよそ100万人に大差をつけている。オリコンによる「ドラマ満足度ランキング」でも3週連続1位を達成。視聴者からは最終回を前に早くも「ロスになりそう」との声が上がっているが、それだけ好評だということだ。

芦田愛菜は人生2周目?

【※以降、『ブラッシュアップライフ』第9話までの内容を含みます】

 そんな『ブラッシュアップライフ』ファンの間で、最近よく使われる表現が「人生●周目」だろう。

 『ブラッシュアップライフ』は主人公の近藤麻美(安藤サクラ)が33歳で事故死したのをきっかけに、それまでの記憶を保ちながら近藤麻美としての人生を赤ん坊からやり直していくという「タイムリープ・ヒューマン・コメディ」で、第6話で人生4周目へ、そして第8話終盤で5周目となる。前の人生の記憶があるため、幼少期から麻美の精神年齢は高く、4周目では研究医の道に進むなど、努力を続けて目標を達成していく。そんな“優秀”な姉に対し、妹の遥(志田未来)が「てかさぁ、お姉ちゃん、人生2周目でしょ?」と訊く場面がある。遥にも「2周目疑惑」が浮上しているのは置いておくとして、あまりの優秀ぶりに人生2周目ではないか、という冗談を(表向き)飛ばしているのだ。

 また、4周目の人生では、同級生の「まりりん」こと宇野真里(水川あさみ)や、1週目の人生で麻美が働く市役所の後輩だった河口美奈子(三浦透子)もタイムリーパーであることが発覚するが、「何周目?」と訊くのがお決まりになっている。ちなみにまりりんも、学生時代はあまりに完璧だったために、あくまで冗談としてではあったが、麻美たちに人生のやり直しを疑われていた。

 第9話が放送された今月5日には、芦田愛菜が慶應義塾大学の法学部政治学科に進学すると一部で報じられたが、『ブラッシュアップライフ』の影響か、「芦田愛菜ちゃんは人生何周目かなって考えてしまう」「愛菜ちゃん、人生2周目でしょ」といった声も上がった。7月期の日本テレビ系土曜ドラマに出演予定とも囁かれており、芸能活動と勉強の見事な両立をしている芦田の優秀さに「芦田愛菜タイムリープ説」が出てしまうのは仕方ないのかもしれない。だとすれば、芦田もオオアリクイやニジョウサバ、ムラサキウニへの転生を避けるために徳を積んでいる最中なのだろうか……。

『舞いあがれ!』航空学校編を“1周目”かのように感じさせるパイロット編

 しかし、もっとも「2周目(以降)」を疑われているのは、ほかならぬ脚本のバカリズムかもしれない。

 最後の「やり直し」となる5周目の人生に突入した麻美は、搭乗した飛行機の墜落で死亡してしまう「なっち」こと門倉夏希(夏帆)と「みーぽん」こと米川美穂(木南晴夏)を救うため、真里とともにパイロットを目指す。事故が起こる937便に機長、副操縦士として乗り込むため、(すでに前の人生でパイロットになっている)真里の指導のもと、幼少期から努力してきた麻美は、航空学校に入学・卒業し、弱冠29歳で機長デビューといった困難なキャリア形成を、タイムリーパーである強みを最大限に生かして成功させていくのだが、視聴者を驚かせたのが、このパイロット編で、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の「航空学校編」のパロディが見受けられたことだ。

 『舞いあがれ!』では、主人公の舞(福原遥)がプロシージャ(コックピットでのスイッチ操作や確認事項の手順)を覚えるために、ダンボールでお手製のコックピットをつくっていたが、真里も同様にフライトシミュレーターをつくり、小学生の頃から麻美に叩き込む。真里はすでに前の人生でパイロットを経験済みなため、よりリアルな出来になっているところがおもしろい。そしてあっという間に終わった航空学校でのシーンについては、「航空学校は舞いあがれで履修済」「舞いあがれの航空学校編がこのための予習だったんじゃないかってくらいに頭使わずストンストン入ってくる」といった視聴者の声もあり、視聴者に“2周目”を体感させる仕掛けなのではとも疑ってしまう。

 また、地元のうどん屋の名前が、『舞いあがれ!』で目黒蓮が演じた柏木弘明を想起させる「柏木うどん」であったり、売れないミュージシャンをやっている同級生の「ふくちゃん」こと福田俊介(染谷将太)が路上で聞かせたオリジナル曲のタイトルは「アイラブユーが世界を救う」で、back numberによる『舞いあがれ!』の主題歌が「アイラブユー」であることを思い出させる。

 ただ、視聴者を驚かせたのは、『舞いあがれ!』にはなかった「航空学校あるある」も詰め込まれていたことだ。それが実際にどれだけ普遍的なルールであるかはさておき、「先輩と同室の寮では、先輩が先に就寝している場合、先輩を起こさないよう細心の注意を払って二段ベッドのカーテンを閉めなければならない」「食堂はサラダ取り放題だけどお代わりは禁止」「お茶は一回しかくんではいけないが、1回で何杯か持ってくるのは問題ないので、複数杯持ってくる人もいる」「厳しい教官らに叱られることを“ツボられる”という」といった、妙に細かい小ネタが繰り広げられる。無事にパイロットとなってからも、航路の希望を通すためにスケジューラーに根回しをしたり、空港資格といったディテールが描かれ、実際に取材をした形跡がうかがえるのだ。

 プロデューサーの小田玲奈氏は、1周目に出てくる市役所について実際に市役所で勤める人間にバカリズムとともに取材をしたと明かしている。おそらく2周目の薬局、3周目のドラマ制作、4周目の医学部研究室、5周目の航空学校や航空会社などに出てくる細部の描写も、そうした取材から生まれたものだと思われる。

 『舞いあがれ!』の航空学校編については脚本家交代が賛否を呼んだが、制作統括の熊野律時チーフプロデューサーは「極めて専門性の高い学校」を1年かけて取材する必要があり、「準備段階からの作業が大変なので専門チームを結成」したと弁解した。だが、バカリズムは『ブラッシュアップライフ』において、“航空学校編”のみならず、さまざまな職業について、細かなエピソードを盛り込んでリアルさを演出することに成功しており、どれだけの準備や取材をしたのかと思いをめぐらせ、バカリズムこそ人生2周目(以降)で、『舞いあがれ!』の内容も最初から知っていたのではといぶかる声も出ているようだ(なお、『ブラッシュアップライフ』の撮影が始まったのは昨年12月上旬頃とみられ、この時点で『舞いあがれ!』は航空学校編の折り返しに突入している)。

 バカリズムの弁によれば、どんな結末になるかまったく考えずに第1話を書き始めたといい、真里がパイロットになることや、5周目がパイロット編になることは第1話の時点ではまったく考えていなかったという。巧妙に張り巡らされた伏線の数々――特に麻美の1周目が真里の2周目という絶妙なズレ設定――に、バカリズムの発言を思わず疑いたくなってしまうが、バカリズムならオオアリクイへの転生くらい、受け入れてしまいそうでもある。

 「あくまでコメディ」だとバカリズムが言い切る『ブラッシュアップライフ』。視聴者によるさまざまな考察は当たるのか、それともまったく斜め上の展開があるのか。泣いても笑っても今夜が最終回。麻美の「最後の人生」の顛末を見届けよう。

新城優征(ライター)

ドラマ・映画好きの男性ライター。俳優インタビュー、Netflix配信の海外ドラマの取材経験などもあり。

しんじょうゆうせい

最終更新:2023/03/12 07:00
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