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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > SOUL'd OUTという“異端”のグループ
あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#23

SOUL’d OUTはなぜ異端か サザン、ジャム&ルイス、アウトキャストが融合する“過剰さ”

サザンとジャム&ルイスの融合から、アウトキャスト的な境地へ

SOUL'd OUTはなぜ異端か サザン、ジャム&ルイス、アウトキャストが融合する“過剰さ”の画像2
2006年のSOUL’d OUT(Getty Imagesより)

(2/2 P1はこちら
 Diggy-MO’とBro.Hiの共通の影響源に、生音によるヒップホップ・バンドでは初めて大々的な商業的成功を納めたバンド、ザ・ルーツがある。加えて、デビュー前のDiggy-MO’は、ハードコア・パンクを織り交ぜたスタイルで知られるヒップホップ・ユニット、ビースティ・ボーイズにも惹かれていたとも語っており(「bmr」2002年12月号 No.292、ブルース・インターアクションズ)、Bro.Hiもミクスチャー・バンドでの活動歴があるなど、彼らはSOUL’d OUT結成以前の段階で、ソロのMCとしてでなく「バンド的な形態で活動すること」自体に非常に意欲的であった。

 Bro.HiのラップはDiggy-MO’に比べると取り上げられる機会が少ないが、「Shut Out」(‘03)などで聴けるように、ラップのスピード感はDiggy-MO’と一切遜色ないと言ってよいだろう。何よりもっと多くの方に知ってもらいたいのは、彼がヒューマンビートボックスの名手だということだ。代表曲のひとつ「ウェカピポ」の後半で聴けるスクラッチサウンドが、レコードではなく彼の声によるものだと知らない人も多いかもしれない。また、「Dream Drive」(‘03)のヴァースでは、そのヴォイススクラッチとラップを織り交ぜる高度なスキルを披露している。

 Diggy-MO’はメジャーデビュー直前、その非常に癖の強いファンキーな声質を「和製アンドレ3000」と評されている(「bmr」2002年12月号 No.292)。当のDiggy-MO’本人はそうした意見を受けて初めてアウトキャストを聴いたと語っており、直接影響を受けていたわけではないが、多彩なアレンジ、そして自身の歌唱によるメロディックなフックを織り交ぜるSOUL’d OUTのスタイルは、アンドレ3000が所属するヒップホップユニット、アウトキャストになぞらえることもできるかもしれない。

 ヒップホップがアメリカの東海岸(ニューヨーク等)・西海岸(ロサンゼルス等)を軸に語ることが半ば前提のようになっていた90年代に、南部のアトランタ発のヒップホップグループとして登場し、ソウルやファンクの強い影響下にある個性的なトラック/ビートを積極的に採用しながら大きな成功を勝ち取っていったアウトキャスト。もちろんアウトキャストとSOUL’d OUTの出自・キャリアは大きく異なるが、SOUL’d OUTがJ-POPや日本のヒップホップ界において築いた独特なポジションは、“のけ者”を名乗るアウトキャストが全米チャート1位というメインストリームでの成功を収めた姿と、どことなく通ずるものがあるように思えてくるから不思議だ。「Ms. Jackson」のいなたいフック、「B.O.B.」のコズミックなイントロからの急展開、そしてヒップホップの範疇を大きく逸脱したメガヒット曲「Hey Ya!」──こうしたポイントに注目して、改めてアウトキャストの曲を聴いてみてほしい。

 なお、Diggy-MO’は2005年にm-floの楽曲「DOPAMINE」にフィーチャーされているが、m-flo側のこのアッパーなビートの選択も、どことなくDiggy-MO’≒アウトキャスト(のアンドレ)的なイメージからチョイスされたようにも思える。

 こうしたDiggy-MO’の個性がShinnosukeのディスコ~シンセブギー調のトラックと最高の相性を発揮した楽曲は「TOKYO通信~Urbs Communication~」だろう。SOUL’d OUTが目指したサザンの80年代ヒット「ミス・ブランニュー・デイ」にも通じるミニマルなシンセフレーズが導くイントロから、120bpm越えのダンスビートの上でスムーズにラップ/歌唱を行き来し続けるさまは痛快だ。「SOUL’d OUTは、サザンとジャム&ルイスの融合を目指し、アウトキャスト的な境地に至ったユニットである」という超・冒険的な仮説を立てるならば、この曲は格好のサンプルだろう。

3人の個性がぶつかる過剰さが、唯一無二のオリジナリティに

 2000年代中盤という時期に、国内屈指のラップスキルを持ち合わせたラッパーがここまでディスコ~シンセブギー的なトラックを選ぶ例はほかにほとんどなかったと思われる。先行するアーティストで近い音色・ムードのサウンド用いてキャッチーな音楽性を展開した例としてm-floを挙げることもできるだろうが、SOUL’d OUTはm-floとは異なり、専任のシンガーを置いた時期もなければフィーチャリング・ボーカルを入れることもほぼなく、Diggy-MO’の歌を軸のひとつに置いた楽曲制作を最後まで貫いた。歌ごころのあるフック、“ヒップホップ”的イメージに囚われないポップなトラックという観点ではRIP SLYMEも同時期に活躍していたが、RIP SLYMEがあくまでヒップホップのフィールドからメジャーデビュー後に幅を広げていったのに対し、SOUL’d OUTは前述のように元々の立ち位置からヒップホップの領域をはみ出していた。非常にスキルフルなラッパーが堂々とポップス的なスタンスに立ってもよい、というキャリアの自由を日本で知らしめた彼らの功績には非常に大きいものがあり、R-指定(Creepy Nuts)をはじめ、直接的~間接的に彼らの影響下にあるアーティストは少なくないと思われる。

 ジャム&ルイスやディスコからの影響を軸に、「時代の流行」に背を向けて果敢なサウンドを展開したトラックメイカー。ザ・ルーツに衝撃を受け、ひとりはアンドレ3000ばりの個性を持つ超高速ラップの使い手、もうひとりはミクスチャーバンドにも出自を持つヒューマンビートボックスの巧者という2MC。そんな1人ひとりが強烈な個性派であるSOUL’d OUTは、どの楽曲にも全員の個性があまりに色濃く反映され、過剰ともいえる情報量を持つ。音数や展開を抑えたシンプルなトラックメイク・作曲が主流になって久しい昨今、SOUL’d OUTのオリジナリティは相対的にますます強まるばかりだ。彼らはこの先も当面、唯一無二の存在であり続けるだろう。

♦︎
本稿で紹介した楽曲を含む、SOUL’d OUTのファンク/ディスコ色が強い楽曲を集めたプレイリストをSpotifyに作成したので、ぜひご活用いただきたい。

B’z、DEEN、ZARD、Mr.Children、宇多田ヒカル、小室哲哉、中森明菜、久保田利伸、井上陽水、Perfume、RADWIMPS、矢沢永吉、安全地帯、GLAYなど……本連載の過去記事はコチラからどうぞ

TOMC(音楽プロデューサー/プレイリスター)

Twitter:@tstomc

Instagram:@tstomc

ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスター。
カナダ〈Inner Ocean Records〉、日本の〈Local Visions〉等から作品をリリース。「アヴァランチーズ meets ブレインフィーダー」と評される先鋭的なサウンドデザインが持ち味で、近年はローファイ・ヒップホップやアンビエントに接近した制作活動を行なっている。
レアグルーヴやポップミュージックへの造詣に根ざしたプレイリスターとしての顔も持ち、『シティ・ソウル ディスクガイド 2』『ニューエイジ・ミュージック ディスクガイド』(DU BOOKS)やウェブメディアへの寄稿も行なっている。
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とむしー

最終更新:2023/04/28 16:51
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