城定秀夫監督が映画界で高評価される理由とは? 映画愛溢れる『銀平町シネマブルース』
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館
生命の喪失と再生、夢の終わりと現実との対峙。文字にすると仰々しいが、そんな普遍的なテーマをユーモアと祝祭感をたっぷりに描いたのが、ただいま絶賛ブレイク中の城定秀夫監督の新作映画『銀平町シネマブルース』だ。埼玉県川越市に実在する創業60年を迎える老舗映画館を舞台に、生きづらさや貧困ビジネスといった社会問題を盛り込みつつ、ホロリとさせる群像劇コメディが繰り広げられる。
イケてない高校生たちの青春映画『アルプススタンドのはしの方』(20)をスマッシュヒットさせ、年明けにはシスターフッドムービー『恋のいばら』が公開されたばかりの城定監督。コメディ、エロス、アクション、サスペンスなど、あらゆるジャンルの作品を撮り上げる城定監督に、上質の脚本を提供したのは、『れいこいるか』(20)が「映画芸術」日本映画年間ベスト1位に選ばれた鬼才・いまおかしんじ監督。共にピンク映画出身の2人がタッグを組むのは、本作が初となる。コロナ禍で喘ぐ、町の映画館にエールを贈る作品として企画された。
城定ワールドといまおか節の融合は、素晴らしい相乗効果を生み出した。20人に及ぶ登場キャラクターたちの個性が、それぞれくっきりと映し出された愛すべき物語となっている。
物語の舞台となるのは、小さな町・銀平町に昔からある映画館「銀平スカラ座」(ロケ地は川越スカラ座)。この劇場で映画を観て育った男・近藤猛(小出恵介)が、無一文状態で帰ってきた。
どこにも行き場のない近藤に、「銀平スカラ座」のお人好しの支配人・梶原(吹越満)が手を差し伸べる。劇場でバイトとして働き始める近藤だった。
劇場には変わり者たちが、次々と現れる。売れない俳優の渡辺(中島歩)、売れないミュージシャンの白川(黒田卓也)、映画が大好きな中学生の川本(小鷹狩八)、自主映画を上映したいと懇願する新人監督の谷内(小野莉奈)……。
ひときわ強烈なのは、ホームレスの佐藤(宇野祥平)だ。劇場に置いてある映画のチラシを1枚100円で売るセコい佐藤だが、生涯ベストワン映画に『カサブランカ』(42)を挙げるなど、深い映画愛の持ち主でもある。
そんなダメダメな人たちが映画に注ぐ愛情に触れ、近藤は少しずつ生きる気力を取り戻していく。
面白い脚本を、演出でより面白くする城定監督
「城定作品にハズれなし」という言葉が映画マニアの間にはあるが、映画館と映画づくりをモチーフにした『銀平町シネマブルース』は、いつも以上に城定監督の魅力が詰まった作品となっている。オリジナルビデオ映画の傑作『デコトラ☆ギャル奈美』(08)など、城定監督と長年タッグを組んでいる制作会社「レオーネ」の久保和明プロデューサーに、城定作品の魅力を聞いた。
久保「城定監督が助監督だった頃から彼の仕事ぶりを見てきましたが、どうすれば作品がより面白くなるかを常に考えている人ですね。低予算映画だとスタッフも少なかったので、彼が小道具や美術までやって、それができちゃう人でした。監督になり、予算も少しずつ増え、担当のスタッフに任せるようになりましたが、どの作品も面白いものにしようという姿勢は変わりません。低予算の作品であっても、予算のある作品の場合でもそうです。一作一作が勝負のつもりで、決して手を抜くことがないのが城定監督です」
城定監督は脚本家としての評価も高い。近年も今泉力哉監督に『猫は逃げた』(21)、安川有果監督に『よだかの片想い』(21)のシナリオを提供している。逆に他の脚本家から提供されたシナリオの場合は、そのシナリオのよさを損なうことなく、現場での演出でより面白くしてしまう。城定マジックがひと振りされた映画は、多くの人を心地よく酔わせる。
久保「脚本は映画にとっての設計図なので、脚本を尊重するのは当然ですが、城定監督は撮影現場の状況を見て脚本を変えることもありましたし、映画がよくなると思えばキャストがしゃべりやすいように台詞を変えることも多々あります。今回だと、映写技師役の渡辺裕之さんと小出さんが男同士でダンスを踊るシーンがあります。いまおかさんが書いた準備稿では1回だけですが、ダンスシーンがとても印象的だったことから、別のシーンでもう一度踊ってもらっています。撮影稿にする際に、城定監督が加筆したんです。撮影後に亡くなった渡辺さんのことが偲ばれる、とても感慨深いシーンになったと思います。ホームレス役の宇野祥平さんがいい映画を観た後は必ずある仕草をするというくだりも、いまおかさんの脚本にはなかったものです。撮影現場の様子を見極めて、より面白くするのが城定監督です」
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