城定秀夫監督が映画界で高評価される理由とは? 映画愛溢れる『銀平町シネマブルース』
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館
アクシデントを活かすことで、現場が盛り上がる
ピンク映画やオリジナルビデオ映画も含めると、監督としてこれまでに撮った作品数は100本を軽く超える城定監督。ここ数年も年間4~5本ペースで劇場映画を撮り続け、映画ファンはもちろん、映画業界での評価もますます高まっている。業界内評価が高い理由も、久保プロデューサーは語ってくれた。
久保「城定監督のすごいところは、どんな状況でも決して諦めないということですね。予算の少ない作品の場合は準備期間も短く、現場ではいろんな想定外のことが起きがちです。そんなときこそ、監督の力量が試されると思うんです。城定監督は現場でアクシデントが起きても諦めることなく、逆にアクシデントをうまく活かして撮影を進めてしまう。そんな離れ業を数多く見てきました。
これは長年、撮影スケジュールのタイトなオリジナルビデオ映画を撮り続け、磨かれてきた能力なのかもしれません。たまにしか撮らない監督だと、このへんは難しいように思います。
予定通りに撮影できないとその日は撮影が中止になってしまうこともありますが、予備日を使える余裕のなかった現場で地力を付けたからこそ、城定監督は結果的に納期も守ることになる。アクシデントも悲観しすぎず、常にベストを探りながら撮り上げるので、現場の士気が高いんです。ようやくメジャーな映画会社も城定監督に注目しているようで、うれしく思います」
映画館を舞台にした『銀平町シネマブルース』は、映画館シーンを埼玉県川越市の川越スカラ座で、それ以外のシーンは千葉県木更津市などでロケ撮影している。主要キャラクターだけで20人が登場する群像劇を、12日間で撮り切ったのも城定監督ならではの手腕だろう。
久保「スカラ座で上映される劇中映画が2本ありますが、この劇中映画2本も城定監督自身が撮影初日にまとめて撮っています。劇中映画も手を抜かず、細かいところまでしっかり撮るところが城定監督らしいですね。その分、無駄なシーンはいっさい撮らない。彼が助監督として育ってきた頃のピンク映画は、フィルム撮影でした。余計なシーンを撮ると、フィルム代が嵩んでしまいます。だからなのか、台本の段階から無駄なシーンは省き、無駄なカットは撮らず、撮影現場でも必要以上に悩まない。撮影現場でシーンの繋がりも頭の中では構築されているので、編集でも悩むことが少ないのだと思います。城定監督は編集作業もとても早い」
「城定監督は早撮りが得意」と言われているのは、これまでの制作環境がそうさせていたようだ。環境という意味では、出演者たちから自然な演技を引き出すことにも優れている。オリジナルビデオ映画では、演技経験のほとんどないグラビアアイドルやセクシー女優たちを魅力的に撮り上げてきた。城定作品のヒロインたちは、みんな名女優に思えてくる。ベテラン俳優も新人俳優も、城定ワールドではみんなキラキラと輝くことになる。
見終わった後に、明るい気持ちになれるJOJO作品
主人公の近藤猛を演じた小出恵介は、俳優デビューする前は渋谷のイメージフォーラムに通い、自主映画を撮っていたそうだ。つまずいた者も優しく受け入れる映画館を舞台にした物語は、小出にとって再スタートを切るのにふさわしい作品だろう。
物語後半、近藤は映画を通して「過去の自分」と向き合うことになる。大切な人たちとの別れもあった。近藤の脳裏に、苦い記憶が蘇る。だが、映画自体は決して重くなりすぎず、ユーモアとペーソスが程よくブレンドされたエンタメ作品として仕上がっている点も城定作品らしい。
久保「学生時代から映研で映画を撮り、名画座やピンク映画館に通っていた城定監督なので、彼の作品は自然と映画への愛が溢れたものになっているのだと思います。それでいてあまり湿っぽくならず、さらりと描いていても、観た人それぞれに何かしら伝わってしまうのが城定作品の摩訶不思議なところです。映画を見終わった後には、少し前向きな気分になれる。明日もがんばろうかなという気持ちになる。それが城定作品のいちばんの魅力だと思います」
城定作品は面白い作品が多すぎるため、何から観ればいいか悩む人もいるかもしれない。本作と同じように映画制作を題材にしたコメディ映画『ホームレスが中学生』(08)やピンク映画の秀作『悦楽交差点』(16)や『犯す女 ~愚者の群れ~』(19)などはAmazon Prime Videoでも配信中なので、未見の人はぜひチェックしてみてほしい。きっと、JOJO作品の虜になるだろう。そして、「銀平スカラ座」にも足を運びたくなってしまうに違いない。
『銀平町シネマブルース』
監督/城定秀夫 脚本/いまおかしんじ
出演/小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、日高七海、中島歩、黒田卓也、木口健太、小野莉奈、平井亜門、守谷文雄、関町知弘、小鷹狩八、谷田ラナ、さとうほなみ、加治将樹、片岡礼子、藤田朋子、浅田美代子、渡辺裕之
配給/SPOTTED PRODUCTIONS 2月10日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©2022 「銀平町シネマブルース」製作委員会
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