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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 高齢者専門の売春組織事件に着想を得た映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.723

「高齢者売春組織」は善か悪か? シニアの性問題を描く『茶飲友達』

もっとオープンに語られるべき高齢者の性問題

「高齢者売春組織」は善か悪か? シニアの性問題を描く『茶飲友達』の画像3
マナ(岡本玲)と松子(磯西真喜)は家族同然の仲となる

 人間の性欲は、生命力と密接に結びついている。死ぬまで枯れることのない高齢者もいるという。また、性欲の解消以上に、精神的な触れ合いを求める会員もいる。対応する「ティー・ガールズ」はそんな会員たちの悩みを受け止め、ひとときの安らぎを与えることで彼らの不安やストレスを解消していく。

外山「日本では高齢者たちの性問題は、ずっとタブー視されてきました。明け透けに語ることを避けたがる国民性もあるのかもしれません。たまに高齢者を主人公にした映画があっても、生命の尊厳や生きる意味を問いかける作品ばかりです。韓国にはベテラン売春婦を主人公にした『バッカス・レディ』(16)といった作品がありますが、日本にはこうした作品はありませんでした。映画の後半、マナたちは高齢者施設へと出張サービスするシーンがあり、実際の高齢者施設をお借りして撮影させてもらっています。施設で働く人たちにとっては、高齢者の性問題は日常的なもので、撮影への理解がありました。今はもう令和の時代です。高齢者たちの性問題も、もっとオープンに語られていいんじゃないでしょうか」

 マナと懇意になる松子を演じたのは、演劇集団「円」に所属し、豊富な舞台経験を持つ磯西真喜。他にも個性豊かな「ティー・ガールズ」たちがワークショップを経て本作に参加している。実在した高齢者向け売春クラブをモチーフにしているだけに、ベッドシーンもしっかりと撮影されている。だが、決してイロモノ的な描写にはなっておらず、ベテラン俳優たちの恥じらいや艶っぽさが伝わってくる美しい官能シーンになっていることも特筆したい。

外山「ディスカッションを重ね、アットホームな雰囲気で撮影が進んだ現場でした。映画出演経験の多い渡辺哲さんがうまく現場の空気をつくってくれたおかげで、とてもスムーズな撮影になりました。あるベテランのスタッフから言われたことが印象に残っています。『監督がその人たちをどう見ているかが、ベッドシーンには現れる』という言葉でした。とても尊いものとして監督が見ていれば、美しいシーンになると。今回のベッドシーンが美しく仕上がり、ほっとしています」

何もせずに、少しずつ傷ついていく若者たち

「高齢者売春組織」は善か悪か? シニアの性問題を描く『茶飲友達』の画像4
順調に会員数を増やしていく「茶飲友達」だったが……

 人生の酸いも甘いも噛み分けた美熟女たちと、クラブを運営する若いスタッフたちとの交流シーンも見逃せない。「ティー・ガールズ」をホテルへ送迎するスタッフのひとり・良樹(鈴木武)は、自分が本当にやりたいことが見つからずにいる。脱サラした父親はパン屋を開業したものの、不景気にあおられて廃業してしまった。父の失敗を間近に見て、良樹は夢を追って失敗することを恐れるようになった。

 そんな良樹に対し、「ティー・ガール」として働くカヨ(岬ミレホ)は「傷つきたくない奴って、何もしないくせに少しずつ傷ついていくんだよ」と指摘する。パチンコ依存症で、他人に助言できる立場ではないカヨの言葉が、良樹の胸に突き刺さる。

外山「私が普段思っていることを、本作に込めました。バブル崩壊後の挫折した大人たちを見てきているので、失敗するくらいならチャレンジしないほうがいいと考える人が少なくない。でも、若い情熱がそれを許さない。葛藤しているはずです。やりたいことがあるのに我慢して何もしないことは、傷つくことと同じだと思うんです。今は映画一本観るのも、時間もお金も無駄にしたくないから、ネット上の星取表などを確かめてから劇場に行く人が多い。自分には合わないなと感じた映画に遭遇した体験も、広い目で見ればいずれは豊さにつながるはずです。失敗しちゃダメ、という風潮が若者たちの閉塞感や生きづらさを招いているようにも感じます」

 最後に、なぜ外山監督が高齢者たちをテーマにした映画を撮るようになったのか、その理由について答えてもらった。

外山「若い監督に求められるものって、その時代を映し出す瑞々しい作品です。当時20代が終わろうとしていた頃、そのカテゴリーには入れず、途方に暮れました。その頃は、行き場のない高齢者たちが社会問題になっていて、私が街をふらついていても、高齢者たちが立ち尽くす姿を多く見ました。そのときの自分の心情とすごくシンクロしたんです。こうした人たちが劇場に足を運びたくなるような映画を撮りたい、と思うようになったんです。私自身は核家族で育ったので、おじいちゃんやおばあちゃんと深い思い出があるわけではありません。近年は若手俳優を起用した『ソワレ』なども撮っていますが、今後もベテラン俳優たちと一緒に映画をつくっていきたい。ベテラン俳優は人生経験が豊富な分、表現力が優れているし、今回のような企画にも果敢に挑戦してくれるし、普段の会話もとても面白いですから」

 超高齢化社会を迎える、これからの日本。外山監督が活躍する機会はますます増えていくに違いない。

『茶飲友達』
監督・脚本・プロデューサー/外山文治
出演/岡本玲、磯西真喜、瀧マキ、岬ミレホ、長島悠子、百元夏繪、クイン加藤、海江田眞弓、楠部知子、海沼未羽、中山求一郎、アサヌマ理紗、鈴木武、佐野弘樹、光永聖、中村莉久、牧亮佑、渡辺哲
配給/EACHTIME 2月4日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
©2022茶飲友達フィルムパートナーズ
teafriend.jp

【パンドラ映画館】過去の記事はこちら

最終更新:2023/03/30 19:30
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