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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 高齢者専門の売春組織事件に着想を得た映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.723

「高齢者売春組織」は善か悪か? シニアの性問題を描く『茶飲友達』

「高齢者売春組織」は善か悪か? シニアの性問題を描く『茶飲友達』の画像1
高齢者の介護施設の許可をもらって撮影が行なわれた

 事件が発覚したのは、2013年10月だった。高齢者専門の売春クラブが東京都内で摘発され、クラブの経営者が逮捕された。一般新聞に三行広告を掲載し、集まった男性会員は約1000人。女性会員は約350人で、82歳になる女性会員も在籍していたという。

 この事件に着想を得たのが、外山文治監督のオリジナル映画『茶飲友達』だ。独居老人やシニア世代の性問題といった社会問題に鋭く斬り込んでいる。孤独さを埋めようとする高齢者たちの心情を赤裸々に描くだけでなく、売春クラブを運営する若者たちの視点も交えた群像劇となっているのも本作の大きな特徴だ。

 若い世代も働く場所がなく、グレーゾーンの仕事だと認識しつつも会員制クラブの運営に関わっていく。高齢者も、若者も、どちらも寂しい。心に空洞を抱えた者同士が、引き寄せられ合う。劇中で描かれる会員制クラブは、社会からはみ出した者たちにとってのセーフティーネットの機能も果たすことになる。

 妻に先立たれた男性・茂雄(渡辺哲)が、ある新聞広告に目を止めたところから物語は始まる。新聞広告には「茶飲み友達、募集」と書かれていた。時間を持て余している茂雄は、広告に出ていた電話番号に掛けてみる。

 指定された喫茶店に茂雄が向かうと、そこで待っていたのは会員制クラブ「茶飲み友達(ティーフレンド)」の代表を務める若い女性・マナ(岡本玲)と彼女の母親くらいの年齢の女性コンパニオン、通称「ティー・ガールズ」だった。おしゃべりを楽しむ「煎茶」コース、その先のサービスが待っている「玉露」コースがあるという。

 迷わず「玉露」コースを、茂雄は選ぶ。同世代の「ティー・ガール」にエスコートされ、近くのホテルで久々の快楽を味わう。仏壇に手を合わせるだけの毎日だった茂雄は、生きる気力を取り戻すことに。肌と肌との触れ合いが、茂雄を孤独感から解放してくれた。

 ひとりぼっちの老人は想像以上に多く、マナたちは忙しく働く。「ティー・ガールズ」として働く女性たちの事情もいろいろだ。年金では暮らせない者もいれば、人と触れ合うサービス業に生き甲斐を感じている者もいる。事務所には彼女たちをマネージメントする若いスタッフも集い、シェアハウスのような賑わいだった。マナが街で声を掛けた松子(磯西真喜)が、「ティー・ガールズ」に新たに加わる。両親の介護に追われ、婚期を逃してしまったマジメそうな松子だった。

 実の母親と折り合いの悪いマナは、あれこれと松子の世話を焼く。「茶飲み友達」は、彼女たちにとっての家族代わりとなっていく――。

正しいことだけが、幸せではない

「高齢者売春組織」は善か悪か? シニアの性問題を描く『茶飲友達』の画像2
ひとり暮らしの茂雄(渡辺哲)は会員登録することに

 本作を企画・プロデュース・脚本から手掛けた外山監督は、日本映画界において独特な存在だ。老老介護を題材にした短編映画『此の岸のこと』(10)が海外の映画祭で高く評価され、シニア世代の婚活事情を描いた吉行和子主演作『燦燦 さんさん』(13)で長編映画デビューを果たしている。若手俳優の村上虹郎と芋生悠が主演した『ソワレ』(20)は、介護施設が物語の発端となっていた。ここまで高齢者たちに着目し、劇映画化している監督は珍しい。

 1980年生まれの外山監督に、本作を企画・制作した経緯を語ってもらった。

外山「長編デビュー作『燦燦』の劇場公開を1カ月後に控えていた頃、高齢者専門の売春組織が摘発されたニュースをテレビで知りました。シニアの婚活事情を描いた『燦燦』で高齢化社会に斬り込んだつもりでいたんですが、現実は映画よりも遥かに先を行っているなとニュースを見ながら痛感しました。それと同時に、1000人以上いた会員たちはこれからどうなるんだろうと気になったんです。会員になることで、孤独を解消していた人もいたはずです。もちろん売春組織の摘発は法律に則ったものですが、“正しさ”とは何だろうとも思ったんです」

 このとき外山監督が感じた「正しいことだけが、幸せなことではない」という考えが、今回の映画の重要なモチーフになっている。法律や社会規範は風紀を取り締まりはするが、人間個人の孤独さまでは埋めてはくれない。ではその孤独さを埋めるのは、セックスなのか、あるいはコミュニケーションなのか。映画化まで10年の歳月を要したが、その分だけ見応えのあるヒューマンドラマとして完成した。

外山「10年の間に閉塞感や孤独感といった問題は、高齢者だけのものではなく、若者たちにとっても切実なものになってきました。私自身も年齢を重ね、若者と高齢者との間の立場になりました。また、私の作風も、この10年で変わってきました。人間をより生々しく、人間くさい部分も包み隠さず描くようになってきたんです。群像劇を束ねる力も、少しは付いてきたんじゃないでしょうか。このタイミングで撮れてよかったと思います」

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