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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.715

“特殊効果の神”が描いた地獄めぐり…甘美なり、世界の終焉『マッドゴッド』

創造主であるフィル・ティペットの狂気と情熱

“特殊効果の神”が描いた地獄めぐり…甘美なり、世界の終焉『マッドゴッド』の画像2
包丁を振り回すシー・イット。不気味なクリーチャーが次々と登場する

 宮崎駿監督がTVアニメ『未来少年コナン』(NHK総合)で描いた文明社会の末路 ・インダストリアのようなディストピアが、『マッドゴッド』の舞台だ。暗い闇に覆われたディストピアには、三角塔を彷彿させる巨大なタワーがそびえている。空からロケット状の物体が舞い降り、巨大タワーはその物体を撃ち落とそうと砲撃する。砲弾を縫うように物体は着地に成功し、防毒マスクをした搭乗者・アサシンは地底へと降りていく。

 巨大タワーの地下は、多くの兵馬俑が眠る始皇帝陵のようだ。何層にもなっており、アサシンはより深い地下へと向かう。

 ある層では、巨人たちが拘束されている。彼らは高圧電流を浴びせられ、滝のような汚物を下半身から垂れ流していた。その巨人たちの下にはさらに大きな巨人が口を開け、大量の汚物を飲み干している。地下工場では、シットマンと呼ばれる大量生産された顔のない労働者たちが働かされている。シットマンたちは次々と事故で死んでいくが、気に留める者は誰もいない。搾取地獄がどこまでも続く。

 フランシス・F・コッポラ監督の『地獄の黙示録』(79)のように、アサシンは暗黒の世界をめぐる。彼はいくつものトランクが積み重なった丘に時限爆弾を設置しようとするが、うまく作動しないうちに、モンスターに拉致されてしまう。主人公が物語途中であっさり退場するあたりも、悪夢的世界ではないか。

 物語中盤、医者と看護師が姿を見せる。手術台に載せられた男は生きたまま人体解剖された挙句に、頭に穴を開けられ、脳内にケーブルが挿入される。どうやら、この男の生前の記憶、もしくは死に際のビジョンを我々は観せられているらしい。

 死の世界を彩るように、奇妙なクリーチャーたちが続々と登場する。包丁を振り回す凶暴なモンスターであるシー・イット、そのシー・イットに捕食されるクリープ、赤ちゃんクリーチャーのミートボール……。不気味すぎて愛おしい、フィル・ティペット世界の住人たちだ。クリーチャーたちに混じって、人類最後の男・ラストマンを、『レポマン』(84)や『シド・アンド・ナンシー』(86)で知られるアレックス・コックス監督が演じている。

 人形をひとコマずつ動かすストップモーション・アニメは、気が遠くなるような手間と情熱を必要とする表現だ。日本のベテランアニメ作家をかつて取材したことがあるが、1秒間にビデオなら30フレーム分、フィルムなら24コマ分動かす必要があるという。1秒につき、およそ1時間の撮影時間を要する。凝った演出や複数のキャラクターが登場するシーンは、さらに時間がかかる。堀貴秀監督の『JUNK HEAD』(21)は、制作に7年の歳月が費やされている。

 何もない無の状態から世界を創造するアニメーション監督は、まさに作品世界の創造主と呼ぶにふさわしい。唯一無二の創造主であるフィル・ティペットの狂気と情熱が、本作の細部にまで宿っていることが分かる。

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