瀬戸内寂聴がモデルの大人の恋愛映画 寺島しのぶが剃髪で挑む『あちらにいる鬼』
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井上荒野が原作小説を書いた理由
原作者の井上荒野が両親と寂聴との関係を小説にしようと考えた要因のひとつは、母・郁子の存在だった。子どもたちの前ではいつも落ち着いていた郁子だが、井上光晴名義で小説をいくつか代筆していたことを彼の死後にこっそり明かし、荒野を驚かせている。寂聴いわく「井上光晴より文才があった」そうだ。では、なぜ母は実名で小説を発表しなかったのか。なぜ父の不義を黙認し続けたのか。
すでに他界した母が語ることのなかった心情を知るため、荒野は自由に生きた寂聴とは対照的だった母の生き方を描くことで、その内情に迫ってみせた。荒野が小説を書くのを、寂聴が後押ししている。
1973年(昭和48年)、みはるは篤郎との不倫関係を清算するために出家し、2人の男女の関係は終止符が打たれることになる。セックスという行為はなくなったが、2人はそれまで以上に深く結ばれていく。小説を書くという行為によって、お互いの魂の深い部分に触れ合うようになる。笙子とみはるも、同じ男を愛した者同士という不思議な連帯感が生じることになる。
人間の心に根づく業を見つめ、物語にまとめてみせるのが小説家ならば、いくつもの修羅場を潜り抜け、篤郎という小説家をプロデュースする役割を担っていた笙子も、篤郎とみはると同じ側に立つ人間だった。笙子は篤郎の一部であり、篤郎もまた笙子の一部だった。みはるは、別の人生を歩んだもうひとりの笙子でもあったのだと思う。
男女の関係は当事者同士の問題であり、まして異なる時代の価値観や世間的なモラルで断罪することは意味がない。そして、本作を観た人は自分の心の中にも「鬼」が潜んでいることに気づくだろう。心の中にいる「鬼」はとても憎たらしく、また誰よりも優しく笑い掛けてくる。
『あちらにいる鬼』
原作/井上荒野 脚本/荒木晴彦 監督/廣木隆一
出演/寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子、高良健吾、村上淳、蓮佛美沙子、佐野岳、宇野祥平、丘みつ子、夏子、麻美、高橋侃、片山友希、長内映里香、輝有子、古谷佳也、山田キヌヲ
配給/ハピネットファントム・スタジオ R15+ 11月11日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
©2022「あちらにいる鬼」製作委員会
happinet-phantom.com/achira-oni
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