有村架純“石子”の背景も描いた神回 『石子と羽男』は「些細なこと」を丁寧にすくい上げる
#有村架純 #石子と羽男
TBS系金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』、8月26日放送の第7話は、製作陣の気概が込もった“神回”だった。
トー横ならぬ山ヨコキッズたちをめぐる物語と、石子の過去
第7話は、羽男(中村倫也)がキッチンカーの店主からサイドミラーの器物破損について相談を受けたことをきっかけに、家庭内暴力や売春に焦点を当てたストーリーが展開された。
石子(有村架純)と羽男が聞き込みへ行ったのは、「山ヨコ」と呼ばれる若者の溜まり場だ。ドライブレコーダーに映っていた犯人の姿を見せて聞き込み回ると、「山ヨコキッズ」たちのリーダー的存在であった「K」ではないかと証言を得る。そんな石子と羽男を横目に、隠れるようにその場を立ち去った二人の少女がいた。川瀬ひな(片岡凜)と東美冬(小林星蘭)だ。
「山ヨコ」のモデルとなっているのは、ドラマ終盤に流れる実在のニュース映像にも出ていたとおり「トー横」である。新宿歌舞伎町のシンボル・東宝ビルの周辺ということから「トー横」と呼ばれるようになり、そこに集う未成年を含む若者たちは「トー横キッズ」と呼ばれている。居場所のない子どもたちは生活に困っていることも多く、付け込みやすいため、薬物や性犯罪の温床と化している一面もあり、ドラマでも指摘されていたように社会問題化している。
カフェ「KNIGHT」のオーナーであるKだが、2週間ほど連絡がつかない状態だと従業員に言われ、手詰まりとなる羽男と石子。そこに山ヨコキッズのひなが、羽男が残していった名刺に載っていた電話番号に連絡をしてきて、突然SOSを求めてくる。美冬は父・辰久(野間口徹)の暴力から逃れるために家出していたが、辰久に見つかり、追いかけられていたのだ。石子と羽男は急いで現場に駆けつけるも、そこで目にしたのは、歩道橋の階段上から転落してしまい救急搬送されていく美冬と、美冬のカバンを抱きしめて泣くひなだった。ひなとともに、搬送先の病院へ付き添う石子と羽男。集中治療室に入った美冬の前に現れた辰久に、ひなは「お前のせいだ! 美冬のこと殴ってただろ」と訴える。とぼける辰久に今にも殴りかかりそうなひな。しかし「手を出したら負け!」と羽男たちに止められたひなは、石子により半ば強制的に事務所で保護されることになる。
事務所にひなを連れ帰った石子は「児童相談所はご存知ですか? 女性専用シェルターっていうのもあって」とさりげなく選択肢を示すも、「大人は信用できない」と跳ね除けられてしまう。普段は、人助けのために無償で世話をする弁護士の父・綿郎(さだまさし)に苦言を呈し、正式な依頼がないと動かない石子だけに、羽男は「金にならないことはやらないんじゃなかったの?」とからかい気味に尋ねるが、石子は「今回ばかりはルールを破ることを自分に許します」と言う。
石子と羽男、また快く迎えてくれた綿郎の姿に、次第に心を開いていくひな。そんな折、Kが山ヨコキッズの利権争いに巻き込まれて殺されていたというニュースが流れる。ドラレコにKらしき人物が映っていた前日にすでにKが死亡していたとの報道に、頭を抱える羽男。するとひなは、ドラレコに映っていたのは実はKのいつもの格好に扮装した美冬であり、Kが斡旋した売春中に隠し撮りされた映像を取り戻すのに失敗し、逃げている最中の出来事だったと打ち明ける。
器物破損の犯人が美冬だったため、未成年で入院中の美冬の代わりに親に賠償金を請求できるというロジックで、石子と羽男は美冬の両親を訪ねる機会を得た。辰久への賠償請求の中で、美冬への暴行の証拠も見つけようと意気込む羽男たち。しかし、石子が柄にもなく先走り、「美冬さんにも家にいられない事情があったのでは?」と追及。女に対して尊大な態度を取り、パラリーガルの石子の言葉を「ただの事務員」として聞く耳を持たない辰久に、石子は喧嘩腰で「端的に言わせていただきますと、原因はお父様の暴力では?」と決めつけた発言で食って掛かってしまい、門前払いとなってしまう。
「思ってた展開とちが~う」とたしなめる羽男に、石子は「これをきっかけに美冬さんとひなさんの人生が変わるかもしれないから、少しでもお手伝いができればと、強く思いました!」と熱く主張する。落ち着かせようと「『人生』って……大げさ」という羽男に、石子は「人生って……些細なことで変わると思うんです」と目を伏せる。そして、初めての司法試験に向かう最中、試験会場のすぐそばで交通事故を目の当たりにしてしまい、頭が真っ白になって不合格となり、その後も司法試験に挑戦するたびに思い出してしまってずっと合格できずにいると打ち明けた。
ルールにこだわる石子が、ルールを破る
東大法学部卒だが、5回までしか受験できない司法試験に4回落ち、あとがない“崖っぷちパラリーガル”という設定の石子だったが、頭は堅いものの優秀で、羽男をいつも上手にサポートしていただけに、司法試験に落ち続けているというのは正直不思議であった。だが、実はずっと抱えているトラウマが影響がしていたのだ。
今回は“石子回”と言えそうな回だった。少し前から交際することになった大庭蒼生(赤楚衛二)の家に上がる際は「お付き合いしている方の家には上がってもいいというルールですので、ええ」と自分を納得させるように説明し、ロマンティックな展開になることもなく大庭に仕事の手助けをお願いするというあたりはいかにも石子だったが、一方で、今回はそんな石子の“ルール破り”の回でもあった。
父の事務所のために金にならない仕事はやらないという主義を曲げただけでなく、いつも羽男に「弁倫、弁倫」と弁護士倫理を問う石子は、弁護人の利益相反になりかねないところまで踏み込んだ。羽男たちはそもそも、キッチンカーの器物損壊の件で店主から依頼を受けて動いている。その犯人である美冬は、依頼者である店主にとって「敵」にあたるため、美冬のために動くことは依頼者に不利益をもたらす可能性があるのだ。それでも石子は「助けたい」と訴える。自らにがんじがらめに課した“ルール”をここでも破っている。その決断が、ラストの美冬の言葉につながる。
また、石子が大庭を好ましく思う理由の一端もうかがえた気がする。第4話で大庭が石子の調査を手伝いたいと申し出た時、遠慮する石子に対して大庭は、自分が後悔していることを話す。10年前、クリーニングのタグを付けたままスーツを着ていた女性に声を掛けられなかったことを今でも思い出すと言い、夜間の調査で石子に何かあったら「死ぬまで後悔すると思う」と話を導いて、どうしても一緒に行きたいと訴えるのだ。タグが付いたままであることを指摘できなかったことなど、それこそ「些細なこと」だが、そんなことに後悔を覚える大庭。そして石子もまた、目の前で起きた交通事故に、自分が気づいてあげていたら……と後悔の念を抱いているのではないだろうか。無論、そんなものは結果論であることはわかっているだろうが、繰り返し思い出すたびに、そんな思いが浮かんでも不思議ではない。「些細なこと」でもしっかりと後悔し、二度とそんなことはないように生きようとする大庭が、石子には眩しく見えたのかもしれない。
虐待、売春のシーンはちゃんと配慮されて描かれる「倫理観の徹底」
虐待、売春、事故・災害に直面した際のトラウマ……社会派ドラマである『石子と羽男』が扱ったテーマは今回も重かった。同時に、製作に携わる映像人の気概が感じられる回でもあった。その理由のひとつは、虐待や売春に関する描写だ。SNSで「少女たちが傷つけられたり搾取される描写も最低限にとどめた上でテーマをきちんと伝えてくれたことがとてもありがたかった」という声もあったように、虐待は拳を振り上げる父親の姿と体に残る大きなアザで表現。また「裸が映ってる」とひなが証言した売春中の映像も、実際に映されたのは服を着ているシーンのみだ。
こうした配慮が、意図的であることは明らかだ。第7話を演出した塚原は、以前同枠で手がけたドラマ『MIU404』でも、女子高生の拉致シーンに関して「絶対におかずにされないように撮る」と宣言していたというエピソードが、脚本家・野木亜希子から語られており、大いに支持されていた。そうした倫理観が徹底された作品は、見ていて余計なストレスがない。それこそ「些細なこと」だと思われるかもしれないが、暴力や性被害を否定する文脈で、かえって弱者を傷つけるのでは元も子もない。
最後は石子と羽男の作戦により、美冬の父親が暴力を認め、意識不明の状態から目を覚ました美冬自身によって訴えられることになる。そしてひなと美冬は手を繋ぎ、石子と羽男に見送られながら保護シェルターに入っていく。
作中で「ちょっとした何かとの遭遇で、私たちとの遭遇で、彼女たちの人生を変えられるかも」と石子は言った。それに対して羽男は「そうだね」「でもこの仕事、叶わないことが多すぎる」と答えた。もしかするとこれは製作陣の気持ちであり、現実は羽男の言う通りかもしれない。だが『石子と羽男』というドラマをきっかけに、誰かの人生がわずかでも良い方向に向かっていればと願わずにはいられない。
美冬は、実の父親を訴えるという重大な決断について綿郎から意志を確認されると「もう……逃げないで戦います」と病院のベッドの上で宣言した。その言葉は、病室の外で見守っていた石子にも確かに響いたはずだ。美冬たちのために“ルール”を破った石子の人生もまた、彼女たちとの出会いによって少し変わったのだろう。
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金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』
TBS系毎週金曜22時~
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし ほか
脚本:西田征史
音楽:得田真裕
主題歌:RADWIMPS「人間ごっこ」(Muzinto Records / EMI)
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子、山本剛義
編成:中西真央、松岡洋太
製作著作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/
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