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中村倫也×有村架純『石子と羽男』 “恋愛至上ドラマ”とは一線を画す絶妙な三角関係

中村倫也×有村架純『石子と羽男』 “恋愛至上ドラマ”とは一線を画す絶妙な三角関係の画像
Paravi配信ページより

 この夏、話題のドラマとなっているTBS系金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』への視聴者の支持が衰えない。

 本作の主人公は、東大法学部卒だが、5回までしか受験できない司法試験に4回落ちてあとがないパラリーガルの「石子」こと石田硝子(有村架純)と、見たものを写真のように記憶する能力・フォトグラフィックメモリーで司法試験をパスしたが、想定外の事態が起こると固まってしまう、高卒弁護士の「羽男」こと羽根岡佳男(中村倫也)の二人である。

 石子の父親が営む「潮法律事務所」に舞い込む大小さまざまなトラブルから展開していくストーリーは、テーマ選びからして秀逸だ。第3話の「ファスト映画」に続いて、8月5日に放送された第4話で取り上げられたネタは「電動キックボード」。2年以内に予定されている法改正で運転免許が不要に、ヘルメット着用が努力義務となることが議論を呼んでいる話題の乗り物だ。ちなみに現行の道交法上では、個人所有のものは原則的に「原動機付自転車」、いわゆる原付バイクとして扱われるが、シェアリングサービスのものは政府の特例措置により、「小型特殊自動車」として運用されている。

 第4話は電動キックボードに乗っていた堂前一奈(生見愛瑠)が路上駐車していたワゴン車の影から飛び出した新庄隆信(シソンヌ・じろう)に衝突したところからはじまった。一奈は新庄に駆け寄り、警察や救急車を呼ぼうと声を掛けたものの、新庄に「何もしなくていい」と断られたため、連絡先の交換もできずに帰宅。その後心配になった一奈が警察に相談に行ったところ、ひき逃げの現行犯で緊急逮捕されてしまった。新庄は帰宅後に容態が急変、意識を失っており、「運転手が自分を置いて逃げた」と聞いていた妻が訴えていたのだ。

 被害者と加害者で食い違う証言。真実を語っているのはどちらなのか。流行りの話題を切り口にスタートしつつ、今回は証拠集めに奔走する石子と羽男が違法カジノへ潜入するというスリルも加わり、視聴者は大いに惹きつけられた。『石子と羽男』はともすればお堅くなってしまう法律や社会問題を扱うが、登場人物たちのウィットに富んだ会話劇が楽しいリーガル“エンターテイメント”として成り立っており、また、ピンと背筋が伸びるような結末もすんなりと染み入る。

恋愛に発展しない絶妙な三角関係

 第4話まできて順調に“相棒”としての仲を深めていく石子と羽男だが、そんな二人に対して別の感情を大きくしている人物が、潮法律事務所でアルバイトとして働く大庭蒼生(赤楚衛二)だ。

 明言こそされていないが、大庭は石子に対して恋愛感情を抱いている。第4話でも、夜間に事故の証拠集めのための聞き込みに出かけようとする石子に対し、就職の採用面接が終わった後に合流すると申し出る。「いやいや今日はいいですよ」「でも悪いですよ」と気を遣って断る石子に、大庭は10年前の“後悔”を今でも思い出すと語ったあと、「俺が何かすれば防げたのに何もしなかったっていうこと、ずっと忘れらんないタイプなんです、俺。だから、石子先輩が危ない目に遭うかもしれないのに何もしなかったら、ホントに死ぬまで後悔すると思うんで。俺、行きます!」と食い下がる。あまりに必死さに石子は笑いながら「でしたら……うん、お願いします」と頭を下げるのだが、ホッとした大庭の“年下のワンコ感”といったらない。

 石子と羽男の関係にも、大庭はいちいち反応する。羽男が姉で検事の優乃(MEGUMI)に厳しい言葉をかけられて内心落ち込んでいる姿を見かね、石子が飲みに誘うシーンでは、大庭は複雑そうな顔で二人を見ている。また、違法カジノから石子たちを見事救出した直後は晴れやかな表情を見せた大庭だが、石子が逆方向の大庭には別のタクシーを呼び、負傷した羽男を家まで送るため一緒のタクシーに乗り込むと、大庭は「お疲れさまでした」と言って微笑みらしい表情を作って見送るものの、先ほどの晴れやかさとは一転した暗い目を見せる。

 対して、石子と羽男はあくまでも仕事上の相棒。家まで送り届けてもらった羽男が、ふるさと納税でドラフトビールが届いたと遠回しな話をしながら「だから、一緒に飲まない?」と石子を誘うシーンに、恋愛的な意味合いはない。介抱してくれたお礼であり、仕事のパートナーとして自分が抱えているコンプレックスを打ち明けるくらいに石子に対して心を開くようになったからだ。

 二人がビール瓶を片手に飲む場所として選んだのは、朝焼けに包まれたマンションの非常階段。「ってか部屋でよくない?」と言う羽男に、石子は「いえ、気軽に男の人の家には上がりませんよ」と当然のように答え、これに羽男も「そっか」とすんなり納得する。SNS上には「ただの仕事仲間ですし、じゃなくそこはちゃんと『男の人』として認識してホイホイ家には上がらない石子マジ解釈一致」「階段で飲むビールのように(中略)恋愛だけじゃない男女の尊い関係性を大事にしたいと思うし、そういうものが見られる作品にもっと出会いたい」など、視聴者からの賞賛が集まった。

 恋愛至上主義の世であれば、石子の“貞操感”は堅く、「塩対応」と言われてもおかしくはない。しかし、そんな恋愛至上主義的なドラマ・映画が乱造されたことで、「ラブストーリーでない作品にまでいちいち恋愛を絡めなくていい」という感覚も広まっている。そんなアップデートされた感覚がきちんと反映された作品だからこそ、視聴者たちは『石子と羽男』を安心して継続視聴できるのだろう。

 石子と羽男の間に恋愛感情はまったくなく、あくまで「相棒」として絆を深めており、二人は「リーガルエンターテインメント」の軸をしっかりと担う。そこに、石子に片思いする大庭がひとり勝手に悶々としていることで生まれる“三角関係”感が絶妙で、滑稽でもあり、切なくもある。恋愛に重きを置かずとも、視聴者に適度なときめきを提供できる『石子と羽男』はやはりすごいドラマなのかもしれない。

■番組情報
金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー
TBS系毎週金曜22時~
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし ほか
脚本:西田征史
音楽:得田真裕
主題歌:RADWIMPS「人間ごっこ」(Muzinto Records / EMI)
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子、山本剛義
編成:中西真央、松岡洋太
製作著作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2022/08/12 12:00
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