高橋洋監督のホラー映画『ザ・ミソジニー』業深き女たちが呼び寄せる異界の恐怖!
#映画 #パンドラ映画館
何かが憑依したかのように別人となる女優たち
物語の舞台となるのは、人里離れた森の中にある年代物の洋館。劇作家であり、女優でもあるナオミ(中原翔子)はひと夏をここで過ごし、舞台用の新しい脚本を書き上げようとしていた。旧知の仲である年下の女優・ミズキ(河野知美)を呼び、稽古をしながら脚本を練り上げたいと伝える。
ミズキが一緒に暮らす夫・啓介は、ナオミの前夫だった。ミズキはナオミから啓介を奪ったという過去がある。確執がありながらも、ナオミの要望に応え、洋館を訪ねるミズキだった。若い男性マネージャーの大牟田(横井翔二郎)も一緒だった。
ナオミは、かつてテレビで観た奇妙な番組をモチーフにした舞台を考えていた。失踪者を特集した番組で、ひとりの女性は母親が自宅の庭先から突然姿を消したという体験談を語ったのだが、その女性は母親が失踪した20年後の同じ日に何者かによって殺害されたと番組は伝えたという(高橋洋監督が実際に視聴した報道番組が元ネタ)。どこまでが事実なのか、それともフィクションなのか。この謎めいた事件の真相を、ナオミは舞台化することで解き明かそうとする。
訳ありそうな洋館の怪しい雰囲気に加え、ナオミが「魔除け」としてスライド上映する“業深き”歴史上の女たちが怖すぎる。女としてのメンツを守るためにケネディ大統領暗殺に関与したと囁かれるベトナム王族のマダム・ヌー、ムッソリーニと共に処刑されたムッソリーニの愛人クラーラ・ぺタッチ、さらにはヒトラーの愛人だったエヴァ・ブラウン……。彼女たちの存在感に比べ、男はなんと薄っぺらいことか。
かつて起きた主婦失踪事件とその目撃者である娘が殺害された事件、ナオミとミズキとの夫をめぐる確執、そして忘れていたミズキの少女時代の記憶が、複雑に絡み合いながら舞台の進行と共に明かされていく。
ナオミ、ミズキ、大牟田が、それぞれ複数の役を演じた多重構造の物語となっており、観ている側は少なからず戸惑いを覚えるだろう。二重、三重に渦を巻く女優たちの心の迷宮に、迷い込んだような感覚に陥る。舞台の稽古として、失踪した母親の霊に怯える娘を演じるミズキ、母親の霊を呼び出す霊媒師を演じるナオミは、どちらも役にのめり込むあまり、別人のように変わっていく。まるで何かが彼女たちに憑依したかのようだ。
ナオミもミズキも、底知れぬ女優魂の持ち主であり、自分が演じる役にリアリティーがもたらせられるなら、地獄にまで足を踏み入れ、業火の熱さに触れてみたいと願うタイプの人間だ。女優という職業に就いていなかったら、彼女たち自身がヤバい事件を起こしていたかもしれない。ちなみに中原翔子演じるナオミという役名は、『旧支配者のキャロル』で中原が演じた、若い映画監督(松本若菜)を死に追い詰めたパワハラ女優と同じ名前だ。「心にスタンガンを持て」の名言を放ったナオミを、中原は11年ぶりに演じたことになる。
ナオミとミズキは、ひとりの男を奪い合った恋敵同士でもあるが、同じ女優道を邁進する“同志”でもある。憎悪と連帯感という相反する感情で、この女性たちはつながっていることが分かる。(2/3 P3はこちら)
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