高橋ヨシキ初監督『激怒』 相互監視社会への違和感が生んだバイオレンス作
#映画 #パンドラ映画館
全体主義に個人が飲み込まれる恐怖
“B級アクション”というジャンル映画の装いをしているが、本作は日常世界と地続きな不気味さも感じさせる。町内会の人たちは「安心、安全な町」「犯罪ゼロの町」を目指し、自分たちは100%正しいことをしていると信じている。町を浄化するために、不良やホームレスは一斉排除されていく。深間以外は誰も反対することなく、町はどんどん均一化され、グレーゾーンが排除されていく。清潔感と引き換えにして生まれたのは、のっぺりとした面白味のない町だ。
得体の知れない何者かによって、いつの間にか町が支配されてしまっているという状況は、ジョン・カーペンター監督のSF映画『ゼイリブ』(88)なども彷彿させる。
高橋ヨシキ「脚本を書いているときや撮影中はまったく意識していなかったんですが、編集している際に、自分はジョン・カーペンター作品が好きなんだなぁと改めて気づかされましたね。カーペンター作品の影響を受けているのは確かです。政治色の強い『ゼイリブ』とつながっている部分もあるかも知れません。『ゼイリブ』は“ボディスナッチャーもの”と呼ばれるSFジャンルのひとつで、昔から『未知空間の恐怖/光る眼』(60)や『SFボディスナッチャー』(78)など、知らない間にエイリアンにコミュニティーが乗っ取られていたという物語が数多くつくられてきたんです。米国とソ連との冷戦構造を揶揄したもので、全体主義に個人が飲み込まれてしまうという恐怖を描いているんです」
全体主義やファシズムを嫌悪するヨシキ監督だが、コンプライアンスに対する理解やポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)が広まることには賛成している。
高橋ヨシキ「ポリコレというと身構える人もまだまだいますが、差別や偏見に厳しい目が向けられるようになり、あらゆる人の人権が守られるようになるのはいいことに決まっていると僕は思っています。自分が育った70年代~80年代は、いまの目で見返すと非常に野蛮な時代だったと言わざるを得ません。自分も無意識に『そういうもの』だと思って、受け入れてきた。そんな野蛮さや無神経さに郷愁を感じることはないです。一方で、ヘンテコだったり、変わっていたりすること、みんなと違うことに対する警戒心のようなものが社会全体に高まりつつあることには、ヤバみを感じますね」
赤いドレッドヘアーに、全身にタトゥーを入れている高橋ヨシキ監督。そんな彼自身が現代社会に感じている心情が、『激怒』には率直に反映されているようだ。
高橋ヨシキ「例えば、海外から日本に戻ってきたときなど、いろんなところでジャッジメンタルな視線にさらされることが多いなと感じますし、職務質問を受けることもあります。『派手な髪型をして、タトゥーなんかしているからだ』と言われるけれど、その言葉を認めると、個人が好きな髪型やファッションを楽しむことが許されない社会を受け入れることになってしまう。それでもいいんですかと。いろんな人がいて、面白い人もいる。そんな世の中のほうが、ずっと暮らしやすいと僕は思うんです」
知らず知らずのうちに均一化されていく社会を、思考停止状態になった現代人は黙認してしまっているのかもしれない。デビュー作には、その監督のすべてが詰まっていると言われている。高橋ヨシキ監督の長編デビュー作には、現代社会に対する激しい怒りが込められている。
『激怒』
企画・脚本・監督/高橋ヨシキ 音楽/中原昌也、渡邊琢磨
出演/川瀬陽太、小林竜樹、奥野瑛太、彩木あや、水澤紳吾、松嵜翔平、松浦祐也、中原翔子、森羅万象
配給/インターフィルム R15+ 8月26日(金)より新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサ、横浜シネマ・ジャック&ベティ、テアトル梅田ほか全国順次公開
©映画「激怒」製作委員会
gekido-rageaholic.com
【パンドラ映画館】過去の記事はこちら
新藤まなみの初主演作『遠くへ、もっと遠くへ』 この夏はいまおかしんじ祭り!
時代の流れは、年を追うごとにスピードを上げていく。流れに乗り続けるのは容易ではないし、うまく波に乗ったつもりでも、後戻りできないところまで流されてしまいかねない。そん...ナチス体験者が語る『ファイナル アカウント』 怪物よりも恐ろしい存在とは?
この世界には、モンスターよりも恐ろしいものがいる。そんな現実世界に実在する、モンスターよりも恐ろしいものの正体を暴いてみせたのが、ドキュメンタリー映画『ファイナル ...サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事