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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.700

高橋ヨシキ初監督『激怒』 相互監視社会への違和感が生んだバイオレンス作

街に溢れる防犯ステッカーが、映画企画の発端に

高橋ヨシキ初監督『激怒』 相互監視社会への違和感が生んだバイオレンス作の画像2
暴力刑事の深間(川瀬陽太)は、米国で薬物治療を受けることに

 高校・大学時代は、8ミリフィルムによる短編・中編映画を自主制作していた高橋ヨシキ監督。念願の長編デビュー作となった『激怒』は、学生時代と変わらないバイオレンス映画に対する熱い情熱を感じさせる。

 2017年から具体的に動き出した本作の企画だったが、企画のきっかけとなったのは、街のいたるところに貼られるようになった「見てるぞ」という防犯ステッカーだった。こちらを睨みつける、歌舞伎の隈取りをイメージしたステッカーは、2005年に当時の石原慎太郎都知事がデザインに関わったものだ。シネコンで予告編と共に流れる「NO MORE 映画泥棒」のマナーCMと同様に、高橋ヨシキ監督はひどく違和感を感じたという。

高橋ヨシキ「あの防犯ステッカーは、街をただ歩いている人を潜在的な犯罪者と見なしているわけでしょ? 警察官は仕事の性質上、誰もが潜在的な犯罪者だと思っているわけだけど、一般市民がただの歩行者を疑いの目で見ていたら、それは恐ろしいこと。相互監視社会を認めることになる。『NO MORE 映画泥棒』も僕は大嫌いです。お金を払って映画を楽しみにきたお客を、やはり潜在的な犯罪者と見ている、とても失礼なものだと思います」

 誰もが「見てるぞ」という防犯ステッカーや「NO MORE 映画泥棒」というCMに違和感を内心では感じつつも、反対の声を上げることなく受け入れてしまっている。無自覚なまま、自分たちも管理社会の一員に組み込まれつつあるのかもしれない。

 バイオレンス映画には、自警団と化した主人公が街を牛耳るギャングや腐敗した警察組織に立ち向かう内容のものが多いが、『激怒』では暴力刑事として世間から嫌われていた男が、治安の維持を願う市民らによって組織された町内パトロール隊と激突する。逆転の構図となっている点がユニークだ。

 パトロール隊は、『キングダム』(19)にも出演した身長2mの元お笑い芸人・阿見201の存在がひと際目を引く。また、ピンク映画の上映中止問題をめぐる裁判で注目を集めたいまおかしんじ監督をはじめ、表現の自由を求める側である映画監督たちが多数参加しているのも諧謔精神を感じさせる。

高橋ヨシキ「数の力で町を支配しようとする町内会に対し、主人公の刑事は暴力で応じようとする。冷静に考えると、どちらも間違っているわけです(笑)。映画や小説などのフィクションの世界だからこそ、許される表現。法律や社会のモラルに従っている人間よりも、他者が決めたルールを破ってみせる主人公のほうが魅力的に感じられるのが、映画の面白さでしょう。映画を観てもらえれば、追い詰められた主人公が怒りを爆発させることも納得できるはずです」

 暴力衝動に再び目覚めた深間は、町内会長(森羅万象)が率いるパトロール隊と激しい流血戦を繰り広げることに。『アイアムアヒーロー』(15)や『キングダム』を手掛けた藤原カクセイが特殊造形を担当しており、従来のバイオレンス映画とはひと味違った痛みが伝わる生々しい格闘シーンとなっている点も見逃せない。(2/3 P3はこちら

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