一番の期待作は『石子と羽男』か『初恋の悪魔』か? 夏ドラマ序盤ランキング
#六本木クラス #純愛ディソナンス #石子と羽男 #競争の番人 #テッパチ #魔法のリノベ #初恋の悪魔
ガッカリドラマ3位 『テッパチ!』水曜22時~(フジテレビ系)
〈あらすじ〉
国生宙(町田啓太)は、高校時代はラグビー部のエースとして活躍したが、独りよがりで強引なプレーがもとでケガをしてしまい、チーム内で孤立したまま引退。卒業後は、ひとり暮らしを始めるも、定職に就かずその日暮らしの生活を送っていた。ある日、街中でのケンカが原因で警察沙汰になった宙は、工事現場の仕事をクビになった挙句、住んでいたアパートも家賃滞納で立ち退きを言い渡される。そんな宙に「お前にピッタリな仕事を紹介してやる! 寮完備で三食飯つき! 体力自慢のお前にはもってこい!」と声をかけてきたのが、陸上自衛隊の3等陸佐で、東部方面北東京駐屯地で教育中隊長をしている八女純一(北村一輝)だった――
もともとの期待度はかなり低かったものの、町田啓太らフレッシュな俳優陣、そして前期の『ナンバMG5』(間宮祥太朗主演)が思わぬ良作だったこともあり、ひょっとして期待できるかもと思ったのだが……。正直、俳優たちは頭を抱えながら現場に向かっているのではないかとすら思ってしまう。
陸上自衛隊の候補生たちを描く青春ドラマだが、私語の多さ、上官への口の利き方、訓練時の態度等々を筆頭とした「リアリティのなさ」は正直どうでもいい。それよりも、ドラマ全体から漂う雑さ、いい加減さ、そして価値観のあまりの古さは、視聴意欲をかなり削ぐ。
放送前から「町田の肉体ポテンシャル全開!」と謳っていたが、第4話までしつこくシャワーシーンを始めとした上裸の場面を無意味に挟んでいたものの、局内でも問題になっていたらしく(『週刊フジテレビ批評』で編成担当が「現場の若手スタッフからも疑問の声が上がっている」と弁明していた)、第5話では消滅。だがその第5話では、女性自衛官候補生との合同訓練に浮足立ち、面と向かってセクハラ的な発言を繰り返していた。現実では元自衛官の女性による性被害告発が取り沙汰されるなか、「防衛省全面協力」の本ドラマは自衛隊の内情を美化しているとの批判を受けているが、ある意味で第5話における主人公たちの女性自衛官(候補生)たちに対する態度は「リアル」だったと言えるかもしれない。物語上なんでもないこととして処理されていたが……。男の自衛官候補生(町田啓太)が常に女性自衛官(白石麻衣)を守るという構図が繰り返されるのも引っかかりを覚える。
それにしても心底呆れたのは第3話だ。父親からDVを受けて育ち、叱責などを受けるとフラッシュバックを起こしてしまう武藤(一ノ瀬颯)のPTSD“克服”のため、候補生たちが武藤を囲んで罵倒し続けるという「訓練」を行い、これを1時間耐えたことで武藤は、本当に幼少期の深い心の傷をあっさりと克服してしまう。さらに無口でろくに他人とコミュニケーションを取らなかった性格があっという間に一変、満面の笑顔を見せるようになる。フィクションといえど、さすがにムチャクチャすぎないだろうか。これを感動的なエピソードとする神経が正直理解できない。武藤の変化も、せめて数話をかけて少しずつ改善されていく、という描き方を選択できなかったのだろうか。
寮における男子校的なノリを見るに、題材が自衛隊ではなく、学生スポーツ系とかであったなら“バカな男子たちの物語”としてもっと普通のラブコメとなり、これほどのモヤモヤを感じることもなかったかもしれない(しかし学園モノだと町田啓太を主演にすることは年齢的に厳しそうだが)。第6話で「第1部」が終了するとのことだが、せめて「第2部」はもう少しだけでも主演の町田啓太が報われるような内容になっていることを期待したい。
ガッカリドラマ2位 『六本木クラス』木曜21時~(テレビ朝日系)
〈あらすじ〉
父子家庭で育った高校生の宮部新(竹内涼真)は、警察官になることを夢見ながら父と支え合い仲良く暮らしていた。ある日、父が本社へ栄転することに伴って、新は転校することに。しかし転校初日、クラスメイトが長屋龍河(早乙女太一)に執拗ないじめを受けているのを目撃する。教師すら見てみぬふりをする状況に居ても立っても居られず、新は龍河を殴ってしまう。しかし龍河は父が勤務する巨大飲食産業「長屋ホールディングス」の会長・長屋茂(香川照之)の長男だった。学校に莫大な寄付をしている茂の顔色を窺う校長は新を退学処分にすると告げるが、茂は新が土下座をして謝れば退学処分にせずに許すと言い出す。しかし、新は拒否。父はそんな新を誇らしいと言い、自らの退職も申し出る。父子で心機一転、前を向いて動き出すことを決意するが、この一連の理不尽な出来事は、やがて待ち受ける長屋ホールディングスとの壮絶な戦いの序章に過ぎなかった――
夏ドラマは期待値の高い作品がそもそも多くなかったため、ガッカリの度合いの大きい作品も相対的に少なくなり、「ガッカリ度」でワーストを選出するのは今回なかなか難しかったのだが……。全13話かけて描くという意気込み、秦基博や三浦透子など挿入歌で4組・4曲を起用するといったテレビ朝日の気合に反して、という意味で、いまひとつだったのが『六本木クラス』だ。
ドラマ版『梨泰院クラス』の制作会社、原作マンガの出版元が製作に関わっていることで生まれた制約なのか、アングルやカット割りまでもドラマ版『梨泰院クラス』をコピーしているが、それだけにどうしても安っぽさが目についてしまう。特に麻宮葵(平手友梨奈)がバイクから振り落とされ、宙を飛ぶ第2話のシーンの“合成感”には失笑してしまった視聴者も少なくないはずだ。主人公に下った実刑が「懲役三年以下」という部分に誰も疑問を抱かない(指摘できない)制作体制も困りものだ。
『梨泰院クラス』のリメイクなのでストーリー自体は(ダイジェスト的ではあるが)しっかりしているし、竹内涼真や早乙女太一、香川照之らの演技もいい。特に早乙女太一の“権力者の笠を着たクソ生意気な小者”っぷりは見モノだ。一方、ふたりのヒロインは役柄とあまり噛み合っていないのか、いまひとつパっとしない。第4話ではむしろ、トランスジェンダー役を好演しているさとうほなみ(ゲスの極み乙女。のほな・いこか)のほうが強く印象に残った。
主人公に土下座を求める際に香川照之が見せた「日曜劇場」的なくどい芝居のように、『梨泰院クラス』のコピーにとどまらない部分がもう少し目立ってくることを期待したいところだが……。
ガッカリドラマ1位 『競争の番人』月曜21時~(フジテレビ系)
〈あらすじ〉
刑事の白熊楓(杏)はミスをして、公正取引委員会審査局第六審査、通称「ダイロク」に異動となる。そこで小勝負勉(坂口健太郎)らダイロクのメンバーと顔を合わせる白熊。刑事から公正取引委員会という右も左も分からない場所へとやってきた白熊の教育係を任せられた小勝負だが、白熊に手取り足取り、公取委の仕事を教える気など一切ない様子。そしてダイロクは、栃木県のホテル間で行われるウエディング費用のカルテルの案件に着手。キャップの風見慎一(大倉孝二)は現地での調査をするよう小勝負と白熊に命じる――
前期の『元彼の遺言状』がいまひとつだったので、正直そこまで期待はしていなかったものの、やはり坂口健太郎&杏に小池栄子、大倉孝二、寺島しのぶらが加わるキャストの華やかさ、そして公取という舞台設定のおもしろさに期待する部分あったのだが……。『テッパチ!』のようにただつまらないということはないが、ガッカリ度は今期ドラマで一番大きいと考える。
初回はよかった。強敵・天沢雲海を演じる山本耕史を含めた「鎌倉殿の3人」(そして杏と小池栄子のW北条政子)なキャストの力は魅力的だったし、一筋縄ではいかない天沢雲海をどう攻めるかの試行錯誤、重要な証拠となりそうなノートパソコンの回収劇、天沢雲海がメディアを使って公取を批判するという戦略を取ったラストと、不正の証拠を押さえられるかどうかという展開をテンポよく見せていた。ただ、そこから勢いが落ちてきたように思う。原作小説を映像化するには、2話では足りなかったのだろうが、3話かけて1エピソードというのはどうしてもダレる場面があるし、それだけに第3話の毒入りどら焼きのドラマオリジナル(脚色)部分などは蛇足感が否めなかった。
特に、原作小説を消化してしまってからの第4話。これも1話完結ではなかったが、下請けいじめ、公取に押しかけてくる展開、圧力など、第1話~第3話で描いたウエディングカルテルの件をそのまま下敷きにしたようなオリジナルストーリーで、あまりに新鮮味に欠ける。加えて、今のところダイロクの他のメンバーがあまり生かされておらず、小勝負(坂口健太郎)の頭脳と、一度見て理解したものはすべて記憶できる特殊能力に頼り切りな印象だ。ドラマで描かれていない地味な調査部分では他のメンバーも大活躍しているようだが……。ウエディングカルテルの件でも、毒入りどら焼きの話を入れるぐらいなら、桃園千代子(小池栄子)がカルテルの一角を担う政岡一郎(春海四方)を味方に引き入れたことについて、セリフだけで説明するのではなく、どうやって篭絡したのかを描いてほしかったところだ。せっかくの豪華キャストがもったいない。
杏のインタビューからするに、原作小説の続編『競争の番人2』で扱う呉服業界への内偵の話も映像化されるようだが……。同じ原作者による前期の『元彼の遺言状』が、原作小説を2話で終え、そこからドラマオリジナルと短編集の映像化でつないでいったものの、失速していったことを考えると、今回の『競争の番人』もあまり期待できなさそうである。
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