『ちむどんどん』比嘉家は自ら変わろうとはせず、周囲に「変われ」と求める(第16週)
#朝ドラWATCH #ちむどんどん
美しいオルゴールの音色に囲まれて、中原中也の詩を愛する重子(鈴木保奈美)登場。オルゴールでいっぱいの部屋も、毎日訪れて朝食をとり詩集を読む喫茶店も、いわば彼女のお城、彼女の世界。予告の段階では「ラスボス」とか言われていた和彦の母・重子だけれど、登場してみたら、自分の美しくもささやかな世界と思い出を守り続けようと、毎日必死に同じことを繰り返して生きている弱い人に思える。
逆に、彼女の家をお弁当を持って「同じ世界を生きているんだから!」と毎日訪問する暢子(黒島結菜)は、重子が大事にしている世界を破壊する強い人に見えてしまう。お互いが混ざりあったひとつの世界になるのではなく、少し離れて、それぞれの世界を尊重するのではダメなのかしら。そして、特に好きでもなく親しくもない人の手作り料理、食べられますか? 私は無理だなあ。店で購入したお弁当や家族が作ったお弁当を何の疑問も感じず食べることができるのは、作った店や人を信頼しているからですよね。そんな信頼関係を作り上げることなく、ただひたすら「食べてください!」と、食べものを毎日押し付けられるのって、相手が毎日大事に繰り返している行動を無理に変えようとする、彼女の世界の境界線を乗り越える、暴力の一種に思えてしまう。「おいしいですよ!」と暢子はいうけれど、味の問題じゃない。けれど信頼関係が築かれる様子が描写されないまま、週の終わりには暢子のおいしい弁当はなぜか重子には食べてもらえる。
同時に、良子(川口春奈)のまずい「御三味(うさんみ)」は石川家のしかめ面と一緒に笑いのネタにされて終わる。しかしあの良子の扱いはひどくないですかね。彼女はあまりいい教師であるとは描写されず、家事もできず、料理の努力も実らないけど、突然現れた石川家のおばぁ(吉田妙子)の一言で、長年の問題が解決してめでたしめでたしとなってしまう。主人公たちが自分の弱さに苦悩して、変化しようと努力するのではなく、「あきらめない!」と言ってるうちになぜか相手が変わってくれるからうまくいく。あるいは強い誰かが何かしてくれて危機を脱する。それは物語としてあまりにつまらなくないでしょうか。主人公は何もしなくてもいいし、変わらなくてもいいんですもん。そして自分たち(つまり比嘉家)は「そのままで上等」と変わらない代わりに、重子や石川家、智(前田公輝)や愛(飯豊まりえ)など、関わった人たちに「変化しろ」と要求し続ける。
それにしても和彦(宮沢氷魚)からにじみ出てくる「この人は危ないぞ臭」が、日に日に増しているように感じるのはなぜなんでしょう。母に「母さんの子に生まれなければよかった」とキツイ言葉をぶつけて、翌日には笑顔で「言いすぎた、ごめん」と現れ、でもまたキツイ言葉の応酬となり……をずっと続けている。冷たさと優しさを交互にぶつけることで相手を不安にさせるの、こわいなあ。初めて家を訪問した時の母との言い合いのあと、暢子を置き去りにして自分だけさっさと部屋から出たのもこわかった。家に入る前に「暢子は詩なんて読まないでしょ」と、母と比較して教養のなさを笑ったのもこわかった。そしてあいかわらず相手の話を聞かず、自分の言いたいことしか言わない。もし私が暢子(あるいは愛ちゃん)の友人で、ずっとこんな様子なのを見てたら「あんたの彼氏、大丈夫?」ってつい声をかけてしまうかもしれない。このまま結婚したら、モラハラな夫になるんじゃない?と。
ただ、その「この人との結婚、大丈夫?」という匂いがするのは暢子についても同じで、いろいろと比嘉家について調べた重子が、賢秀(竜星涼)の借金癖と、今後も暢子へたかりつづけるであろうことまでは掴めてないのは惜しい、ぜひ教えてあげたい。ついでに「和彦の上司の田良島(山中崇)、母親の一番の不幸は息子と結婚できないことって言ってましたよ」も伝えて、「やだ、きもちわるーい!」ってそのままふたりで文句言いながらあの素敵な喫茶店でおしゃべりしたい。「これまでのちむどんどん」みたいな番組を一緒に見たらいちばん盛り上がれる相手な気がします、重子さん。
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NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス
出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon
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