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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 戦争の悲劇すら主人公カップルの恋の燃料?
朝ドラWATCHコラム『ちむどんどん』第15週

『ちむどんどん』重い過去の話すら恋愛の燃料にする暢子と和彦…(第15週)

『ちむどんどん』重い過去の話すら恋愛の燃料にする暢子と和彦…(第15週)の画像
イラスト/渡辺裕子

 重い口を開いて嘉手苅さんが語った、一緒に逃げていた小さな女の子の手を離してしまった戦時中の体験。深い後悔を抱えて遺骨収集を続けている方の話を、本当に聞かせていただいてるように思えるような時間でした。ドラマであることを忘れさせる津嘉山正種さんの生々しい語り口、演技、すばらしかったですね。

 しかしどうしてこの話から、和彦(宮沢氷魚)と暢子(黒島結菜)のラブシーンにつなげてしまったのか……。和彦は「僕はこの手を絶対に離したくない、嘉手苅さんの分まで」と言うけれど、握った手の重みがずいぶん違う気がする。母・優子(仲間由紀恵)が子どもたちにようやく語ることができた、失った家族や父との結婚までの話も、「幸せになりたくてなりたくて、ちむどんどんしてる」と、暢子が結婚を決めるためのきっかけ・あるいは略奪婚もかまわないという理由づけにされたような。和彦の婚約者の愛(飯豊まりえ)がなんの落ち度もないのに退場、その後たった数日で暢子が和彦にプロポーズという流れについて、「きゃー、おめでとう!……ってなるかーーい!」という視聴者からのツッコミを鎮めるために、今週の話は使われてしまったように思えてならない。

 せめてラブシーンが来週だったなら。あるいはストレートに、ふたりが自分の落ち度と欲を認めて、まっすぐ恋愛をしていてくれたなら。本当に、和彦と暢子のことを好きになりたいんですよ。美しい海でのキスシーンをドキドキしながら見たかった。いつか『あさイチ』の「朝ドラ胸キュン名場面特集」とかで「あの暢子からのプロポーズよかったよね」ってわいわいしたかった。でも、ここまでの恋愛編3週間で、「何年もつきあった恋人がいるのに、違う女をデートに誘う男」と「明らかに自分に好意を向けている幼なじみをはぐらかし続け、美しい夕日の前でプロポーズされてからこっぴどく振る女」というイメージがこびりついてしまい、ふたりが何をしても「あー……はい」と無表情で流すしかできなくなっちゃったんですよ。

 「朝ドラには清廉潔白な人だけ出せ」ということではなくて、ひどい人もたくさん出ていい。だけどそこに「うわ、この人ひどい、でも」という「でも」があってほしいんです。 今までの朝ドラでいうと「糸ちゃんひどい、でも、その行いについて他の人に毒だって言われた」「マッサンひどい、でも、彼にはウイスキーへの情熱があるから」みたいな感じ。ドラマ内で「でも」がないと、見ているこちらは「ひどい!」の気持ちの持って行き場がない。「ひどいよね、わかるわかる」と、テレビの向こうで受け止めてほしい。だけど、今の『ちむどんどん』には「ひどいって何が? そんなことより僕の話をします!」とするっとかわされてるような感じがする。ドラマ自体がリアル和彦。こっちの話を聞いてくれ和彦。

 あとそれとは逆に、最近増えてきた田良島(山中崇)による「和彦ほんとひどいよね、わかってるよ、はい叱るよ!」みたいなシーンも、「田良島さんさすがだわ、スッキリしたわー」とはならずに、なんだこれは……って気持ちで見ています。「若者ってだいたいこんなかんじでダメだよねー、彼らを優しく見守る俺ってかわいげある中年男でしょ?」と、ほめてもらいたそうにこちらをチラチラ見てくる視線を感じるんですが、気のせいかなあ。

 と、もやもやしたままで来週予告に登場してきたオーラたっぷりな和彦の母、鈴木保奈美さん。土曜日のまとめ放送でカビラさんは「ラスボス」と表現していたけれど、たぶん彼女も「愛ちゃんが去ったから」「嘉手苅さんに話を聞いたから」「お母ちゃんに幸せになれと言われたから」「オーナーの命令」と、すべて「だってあの人が」と人のせいにして突き進むカップルによって「この反対を押し切り、絶対結婚して幸せになります!」とよく燃え上がるための燃料のひとつにされるだけだと思うんですよねー……。そしてすぐ退場、善一さんの亡き妻とか、暢子の親友のはずの早苗のように、いつか存在さえ忘れられてしまいそう。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

テレビ大好きイラストレーター。
テレビや映画について書いてるnote → http://note.mu/satohi11

わたなべひろこ

最終更新:2023/02/04 23:39
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