放送法改正でひっそり「割増金制度」導入…NHKは「公共放送」なのか?
#NHK #受信料 #公共放送
NHK受信料の値下げの原資とする新たな積立金の導入などを盛り込んだ放送法と電波法の改正法が6月3日の参院本会議で可決、成立した。
NHK受信料の値下げの原資とする「還元目的積立金」の導入や、子会社の業務効率化を目的にNHKが中間持株会社を新たに保有できるようにすること、放送事業者に対して外資の出資状況などの届け出や定期的な報告を総務省に行うことを義務づけることなどが盛り込まれたが、それと同時に、正当な理由なく期限までに受信契約の申し込みを行わないテレビの設置者に対する「割増金制度」の導入も盛り込まれている。要は受信料を払わない世帯に割増金という名の罰金を課し、徴収できるというものだ。
イギリス政府が、「公共放送のモデル」たるBBCのライセンス料(受信料)の一律徴収の廃止を提案するといった動きを見せる中、今回の割増金制度の導入には当然、批判の声も上がっている。
「日刊サイゾー」では以前、『NHK解体新書』(WAC)などの著書で知られる早稲田大学教授の有馬哲夫氏に、スイスで2018年に行われた公共放送の受信料をめぐる国民投票の例を出していただきながら、NHKがはたして「公共放送」と呼べるものなのか、その矛盾点を突いていただいた。この記事を改めて再掲する。
(※本記事は、2021年3月15日掲載の記事を一部編集したものです。)
誰もNHKの「公共放送」についての説明に納得していない
NHKは受信料を徴収する理由として「公共放送」だからだという。例えば、NHKのホームページの「よくある質問集」の中の「民放は無料なのに、なぜNHKは受信料をとるのか」には次のような説明がある。
公共放送NHKは、“いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を分け隔てなく伝える”ことを基本的な役割として担っています。そして、その運営財源が受信料です。NHKが、特定の勢力、団体の意向に左右されない公正で質の高い番組や、視聴率にとらわれずに社会的に不可欠な教育・福祉番組をお届けできるのも、テレビをお備えのすべての方に公平に負担していただく受信料によって財政面での自主性が保障されているからです。
NHKは「公共放送」だから、受信料を払ってくれというのだが、その「公共放送」がどういうものだかわからない。上記の説明でわかるだろうか。
わからないのは自分の頭が悪いからだと思う方に安心してもらいたいのは、総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会」で議論をしているお偉い先生もわからないということだ。
令和2年(2020年)11月9日に総務省内会議室で行われた検討会にて、委員の新美育文氏はこう述べている。
この事務局のまとめた方向性について私も賛成しますが、その前に少し根本的なことを考える必要があろうかと思います。
それは何かというと、これまでは公共放送だから契約締結義務がありますということで、公共放送がまず前提にあって、いろいろな義務が議論されてきましたけれども、逆に、契約を締結することを強制するという効果をもたらす公共放送とは何ぞやということをきちんと議論しないといけないのではないか。国民の支持を得るためにはそれが避けられないのではないかと思います。
論理を詰めていく、あるいは構造的にシステムとしてつくり上げていくことは大事ですが、そうした点で整合性がとれたとしても、それを国民がしぶしぶであったとしても納得できる、あるいは正当性を持つことが一番大事なことだと思います。
新聞協会もおっしゃっていましたけれども、適切な業務範囲という議論の中に、そうした契約締結義務を妥当なものとする根拠が認められるかどうかがその究極にあると思います。公共放送の公共とは何ぞやということをきちんと議論しないと、全ての、これまでの緻密に構築してきた議論が基礎を失ってしまうのではないかと思います。
これを読むと「ああ、偉い先生もやっぱり同じことを考えているんだ。そうだよNHKはまずどこが公共放送なのか説明しなければ、受信料だけ払えといったって無理な話だ」と思う。
驚くのは、この会議では、受信料不払い者から割増金を取ることも話されていたことだ。それなら、新美氏もこんな割増金を取ることなんかに反対してくれればいいのにと思うのだが、ご存じのようにそうはならなかった。
新美氏のために弁護しておくと、ひとりの委員が言ったところで、NHKの説明員が全体の流れを作り、それを総務省が阿吽の呼吸で結論としてしまうので、彼にはどうにもならない。これは会議録を読めばわかる。こうやって、密室で、民意とは関係なく、学識者の意見とは関係なく、受信料の値上げや割増罰則金制度が決められるのだ。
総務省の受信料に関する検討会や審議会の会議録をいろいろ読んでみたが、委員は常に「公共放送とは何か」をNHKの説明員に訊いていた。ということは、誰もNHKの「公共放送」についての説明に納得していないということだ。ということは、NHKは「公共放送」ではないということになるのではないか。実は受信料徴収合憲判決を出した最高裁判所も「公共放送」をきちんと定義していない。(1/4 P2はこちら)
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