放送法改正でひっそり「割増金制度」導入…NHKは「公共放送」なのか?
#NHK #受信料 #公共放送
NHKに求められる「公共放送としての必要性」
2018年3月3日に国民投票が行われ、受信料廃止に反対が71.6%で、受信料の存続が決まった。意外なまでの大差だった。
その理由も、両者の主張を読めば明らかだ。スイス人はスイス公共放送協会が行っている放送が明確に公共放送であり、そのようなものとして明白な価値を持っていて、それゆえに自分たちの受信料で支えなければならないと判断したのだ。だから、廃止派が正論を述べていることは重々承知の上で受信料維持を選んだ。
スイス公共放送協会が明確に公共放送といえる要素は次の3つだろう。
1.4つの言語地域にスイスとしての放送サービスを行っている。
2.スイス人に国民として、市民として必要な情報を与え、直接民主主義に必要な意思形成に役立っている。
3.スイスのコンテンツ産業、スポーツなどにも貢献している。
1について説明しよう。スイスではドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンス語が主に話されている。しかも、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリアなどに挟まれた小国だ。したがって、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリアの電波が入ってくる。このため、実はスイス人は、スイス公共放送協会の放送をそんなに視聴していない。
2017年のテレビの視聴占拠率は、スイスの放送局が34.7%に対して、外国の放送局が65.3%だった。ラジオの聴取占有率はかなり善戦していて、64.5%対35.5%になっている。
つまり、スイス公共放送協会がなくなれば、あるいは弱体化すれば、スイス人は外国の放送ばかり視聴して、スイスのこと、特にほかの言語地域のことは、わからなくなってしまうのだ。
これは、2とも関連してくる。スイスのことがわからず、情報も不足している状態で、どのように意思形成して、直接民主主義において民意を示すのだろうか。スイスのメディア学者が指摘していることだが、スイスでは新聞が外国資本に次々と買い取られ、スイス人が民意を形成するために必要な情報が得られにくくなっている。それに比べれば、放送のほうはかなり健全なのだ。
3もまたスイスが日本と大きく違う点だが、受信料はスイス公共放送だけでなく、自治体の放送局や民間放送局、通信社にさえ分配されている。そして、スイス公共放送はこういったメディアとも一体化して事業を行っている。したがって、受信料がなくなりスイス公共放送がなくなれば、コンテンツ企業やメディア企業を志望の学生たちは外資系のメディア企業しか行き場がなくなる。スイスのジャーナリズムと言論の未来は暗くなる。
このようにスイス公共放送は、誰にも否定できないない公共放送としての必要性を持っている。だから、あまり視聴していないにもかかわらず、71.6%のスイス人が進んで受信料を払う意思表示をしたのだ。実は、これはヨーロッパのほかの国の公共放送の多くが持っている必要性でもある。
翻って日本のNHKはどうだろう。スイス公共放送協会のような「公共放送」としての必要性があるだろうか。民放にはない「公共放送」としての特質があるだろうか。そもそも、スイス国民がスイス公共放送協会を必要とするように、日本国民はNHKを必要としているのだろうか。
NHKはしばしばヨーロッパの国々の公共放送を例にとって受信料徴収の正当性を主張する。しかし、それらの国の多くは、スイスと同じような事情、多言語・多民族という実情から公共放送を必要としている。その事情は日本とはまったく違う。このような国情の違いを見ると、日本では「公共放送」なぞ必要ないのではないかと思わざるを得ない。
●著者プロフィール
有馬哲夫(ありま・てつお)
1953年生まれ。早稲田大学社会科学部・大学院社会科学研究科教授(メディア論)。著書に『NHK解体新書』(WAC)、『日本テレビとCIA』(新潮社)、『こうしてテレビは始まった』(ミネルヴァ書房)などがある。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事