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あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#12

小室哲哉はいかに革新的だったか 「渋谷系」も一目置いた、プロデューサーとしての絶頂期

音楽的探求とビジネス視点を両立させた「プロデューサー」のモデルケースを提示

小室哲哉はいかに革新的だったか 「渋谷系」も一目置いた、プロデューサーとしての絶頂期の画像4
左下に「PRODUCED BY TETSUYA KOMURO」と記されているTM NETWORK『RAINBOW RAINBOW』

 trfがブレイクの軌道に乗っていったのち、こうした実験性はH Jungle with tに代表される企画、もしくは小室の旗艦ユニットとなるglobeで実践される例が増えていく。

 中でもglobeについては、小室が「ニルヴァーナの崩壊」「グランジの終焉」をテーマにしたと語る2ndアルバム『FACES PLACES』(‘97)や、プログレッシヴ・ロックとクラブミュージックを融合させたような4thアルバム『Relation』(‘98)、そして本小室特集の第1回でも触れたR&B方面のシングルリリースからトランスへの接近に至るまで、非常に自由な活動を展開していくことになる。この点は、彼なりのリサーチ力や先見の妙によるところもあるだろうが、TM NETWORK時代から一貫している、彼の音楽全般に対する純粋な好奇心に掻き立てられた部分が何より大きいはずだ。

 小室の音楽的なルーツは、本特集の第1回で触れた生音のソウル/ファンクをはじめ、主に1970年代の洋楽にある。そして、そうした音楽を熱心に聴き込んだ中学生から高校生までの時期に、彼はすでに音楽作品を「レーベル」や「プロデューサー」の単位で聴くことにハマっていたという。2010年のインタビューで、彼はモータウン、クインシー・ジョーンズからの影響や、日本のプロデューサーである小杉理宇造(山下達郎ほか)や村井邦彦(荒井由実ほか)への賛辞を述べているほか、トッド・ラングレンが当時低迷期にあったグランド・ファンク・レイルロードのアルバム『We’re an American Band』(‘73)をプロデュースし、見事タイトル曲を全米1位に送り込んだプロデュース力に驚嘆したことなどを振り返っている。

 また、TM NETWORKのデビューアルバム『RAINBOW RAINBOW』(‘84)の発表に際し、彼は「『Produced by TETSUYA KOMURO』という文字を大きく入れてほしい」とレーベルに依頼しており、実際に発売されたレコードの裏ジャケットにははっきりとその表記が記載されている。これについて彼は「ステージに立ってセンターでピンスポットを浴びるようなことが嫌だった」「その頃から半分表で半分裏ぐらいのほうが居心地が良かった」と語っているが、極めて早い段階から自身の「プロデューサー」としての適性に自覚的だったことを物語る、興味深いエピソードだ。

 

 本特集では、今となっては意外にも見える小室の「R&Bプロデューサー」としての側面を足がかりに、90年代までの小室哲哉のプロデュースワークのあり方と、その変化を追っていった。こうして彼の仕事を紐解いていくと、各アーティスト/ユニットの活動の変化が相互に作用し合いながら、時に日本においてあまりなじみのないジャンルの市場を拡大させながら、各々のアーティスト/ユニットの音楽性をも確実に進化させ続ける――という、非常に有機的なプロデュース活動を行なっていたことが見えてくる。多数のアーティストの、しかも大部分の作詞・作曲・編曲に関与しながらも、こうしたバランスを保ち続けていたのはまさに超人的であり、その超越性ゆえに、今なお全くその仕事への評価が追いついていない印象さえある。

 「プロデューサー」という立場の重要性を世に知らしめた、当時の小室によるさまざまな試み・冒険を、現代の視点から俯瞰して追えるのは、音楽ファンとしてこの上なく贅沢なことだ。音楽という分野に限らず、あらゆるクリエイターにセルフプロデュースの重要性が説かれて久しい昨今。少しでも多くの方が彼の仕事を振り返り、次世代に繋がるさまざまな発見をしてくれることを願ってやまない。

♦︎
本稿における小室哲哉/TM NETWORKのレアな制作エピソードは、藤井徹貫氏の『TMN 最後の嘘』(ソニー・マガジンズ)を参考にさせていただいた。

本特集を始めるきっかけのひとつとなった、小室哲哉のR&B~チルアウト・ミュージック方面の楽曲をまとめたSpotifyプレイリストがこちら。ぜひ、小室哲哉の新たな魅力の発見にご活用いただきたい。

B’z、DEEN、ZARD、Mr.Children、宇多田ヒカルなど……本連載の過去記事はコチラからどうぞ

TOMC(音楽プロデューサー/プレイリスター)

Twitter:@tstomc

Instagram:@tstomc

ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスター。
カナダ〈Inner Ocean Records〉、日本の〈Local Visions〉等から作品をリリース。「アヴァランチーズ meets ブレインフィーダー」と評される先鋭的なサウンドデザインが持ち味で、近年はローファイ・ヒップホップやアンビエントに接近した制作活動を行なっている。
レアグルーヴやポップミュージックへの造詣に根ざしたプレイリスターとしての顔も持ち、『シティ・ソウル ディスクガイド 2』『ニューエイジ・ミュージック ディスクガイド』(DU BOOKS)やウェブメディアへの寄稿も行なっている。
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とむしー

最終更新:2023/04/28 16:53
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