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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.680

SNS上での評価が人生を大きく左右する? 美談の男が詐欺師に転落『英雄の証明』

お金やSNSでの評価よりも、もっと大切なもの

SNS上での評価が人生を大きく左右する? 美談の男が詐欺師に転落『英雄の証明』の画像3
ネットに悪い噂を流すヤツが許せない。ラヒムの怒りが爆発するが……

 子どもの目線が大きな比重を占めている点も、イラン映画ならではだろう。ラヒムの息子・シアヴァシュは両親のいない生活が続き、吃音症が治らない。ラヒムが久しぶりに刑務所から帰ってきても、ゲームに熱中しているふりをして、ラヒムに近づこうとしない。どうせすぐに別れるのなら、父親と仲良くしないほうがよいではないか。

 刑務所暮らしの長い父親・ラヒムとは距離を置いていたシアヴァシュだったが、ラヒムが詐欺師呼ばわりされるようになると「父は……父は……、嘘は……ついて、いない」と懸命に訴える。頼りない父親でも、彼にとっては唯一の肉親なのだ。堕ちた英雄となった自分を「父」と呼んでくれる息子を見て、ラヒムは決心する。

 お金よりも、顔が見えない不特定多数のネットユーザーたちの評価よりも、もっともっと大切なものがあるはずだ。その大切なものを守るために、自分は闘おうと。

 思いどおりに事が進まないと、ラヒムはすぐにキレてしまう。頭はいいが、短気な性格のために、結婚にも事業にも失敗した。刑務所送りになったのは、そのためだ。ラヒムは聖人君子にはなれそうにない。でも、ひとり息子のために、真っ当な父親になろうと努めるラヒムだった。

 アスガー監督の作品は、オープンエンドと呼ばれる思考の余白を残した形で終わることが多い。主人公たちにどんな結末が訪れたのかは、物語を追ってきた観客に委ねるというタイプのものだ。本作も観た人によって、答えが異なる結末となっている。苦味を伴うラストシーンとなっているが、ラヒムを待っているのは決して絶望だけのバッドエンディングではないように感じた。

 

『英雄の証明』
監督・脚本・製作/アスガー・ファルハディ
出演/アミル・ジャディディ、モーセン・タナバンデ、サハル・ゴルデュースト、マルヤム・シャーダイ、アリレザ・ジャハンディデ、サレー・カリマイ、サリナ・ファルハディ、フェレシェテ・サドル・アラファイ、エーサン・グダルズィ、ファッロク・ヌールバクト、モハッマド・アガバディ
配給/シンカ 4月1日(金)より渋谷Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開
©2021 Memento Production Asghar Farhadi Production ARTE France Cinema
synca.jp/ahero

最終更新:2022/05/17 15:40
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