見世物小屋の人気芸人は上流社会で成功するか? ギレルモ監督の心理劇『ナイトメア・アリー』
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人間は誰しも、他人には知られたくない過去を抱えている。普段は心の奥に慎重に隠しているが、誰かに打ち明けることで、身軽になりたいという願望もある。そんな心のダークサイドをノックする人物が現れたなら、あなたはどう対処するだろうか? ダークファンタジーの名作『パンズ・ラビリンス』(06)やアカデミー賞4冠の『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)などで知られるギレルモ・デル・トロ監督の新作映画『ナイトメア・アリー』(原題『Nightmare Alley』)は、人の心を読む「読心術師」を主人公にした犯罪ミステリーだ。モンスターは登場しないが、人間がモンスター化していく不気味さが描かれた心理劇となっている。
ブラッドリー・クーパーが読心術師を演じる『ナイトメア・アリー』は、かつてタイロン・パワーが主演した『悪魔の往く町』(47)と同じ小説を原作にしている。見世物小屋の世界に魅了された作家ウィリアム・リンゼイ・グレシャムが1946年に発表した『ナイトメア・アリー 悪夢小路』(扶桑社)が、その原作だ。ラストシーンも含め、ギレルモ監督は小説により忠実な形で映画化している。
物語前半は、アメリカ各地を巡業して回るフリークスショーの様子がディテールたっぷりに描かれる。ニワトリの生き血をすする獣人ショーをはじめ、いかがわしい見世物小屋の世界だが、どこか懐かしくも感じられる。流れ者のスタン(ブラッドリー・クーパー)は占星術師のジーナ(トニ・コレット)に気に入られ、一座の一員として働き始めることに。
ジーナの夫・ピート(デヴィッド・ストラザーン)はアルコール依存症だが、かつては一座の花形芸人だった。電気椅子ショーを披露する美女モリー(ルーニー・マーラ)には身寄りがない。怪力男のブルーノ(ロン・パールマン)が、彼女の父親代わりを務めている。スタンも過去を詮索されずに済んだ。どこにも行き場のない者たちにとって、旅回りの一座はとても居心地のよいコミュニティーだった。
ギレルモ監督は、実在した奇形者たちを登場させたカルト映画『フリークス』(32)などを参考にして、巡業一座を描いたそうだ。『フリークス』はホラー映画だったが、ギレルモ監督が見世物小屋の世界を描くと、異形の者たちへの愛情が強く感じられる。獣人、刺青男、怪力男、電流娘……。世間からのはみ出し者たちだが、そんな彼らが寄り合うことで、巡業生活が成り立っている。フェリーニや寺山修司が愛した世界が、夢のように美しくスクリーンに映し出される。
毎日がお祭りのよう。こんな日々がずっと続けばいいのに。だが、野心家のスタンは一座での生活に飽き足りず、より大きな成功を夢見るようになっていく。夢の世界が終わり、物語後半は悪夢へと転じていくことになる。
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