SNS上での評価が人生を大きく左右する? 美談の男が詐欺師に転落『英雄の証明』
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主人公の「あざとさ」がSNS上で反感を買うことに
日本円で400万円になる借金を抱えていたラヒムが、落ちていた金貨を持ち主に返したのは確かだが、グレーゾーンに抵触する部分も少なくない。実際に金貨を拾ったのは恋人のファルコンデだったが、話を分かりやすくするために、ラヒムが自分で拾ったことにしてしまった。
また、金貨が借金を全額返済できるほど高額だったら、そのままネコババしていた可能性が高い。さらに、張り紙に記した連絡先を刑務所にし、吃音症の息子・シアヴァシュ(サレー・カリマイ)に「お父さんを、刑務所に戻したくない」とテレビカメラの前でスピーチさせるなど、メディア向けの演出も行なっている。そうした「あざとさ」がSNS上で問題視される。そして、さらに決定的な「やらせ」疑惑が発覚することになる。
美談の持ち主として有名になったラヒムだが、SNS上の評判はいっきに反転し、詐欺師呼ばわりされるはめに。ラヒムのことを嫌い、刑務所送りにした前妻の兄・バーラム(モーセン・タナバンデ)がSNS上で悪い噂を流しているに違いない。ラヒムはバーラムの店に殴り込む。しかしその様子を映した動画もネットで拡散され、ラヒムは完全に「クロ」判定されてしまう。
ネット社会ではセルフプロデュース能力が必要とされるが、自己演出は果たしてどこまで許されるのか。演出と「やらせ」の境界線は、どこで引かれることになるのか。日本とは文化が大きく異なるイランだが、本作が扱っている「ネットリテラシー」は国境を越えて共通する問題であることが分かる。
宗教国家であるイランでは表現の自由は認められておらず、反体制的な言動は取締りの対象となっている。その分、匿名性の強いSNSの人気はとても高い。TwitterやFacebookは禁じられているものの、 LINEやInstagramなどのアプリを使った交流は活発だ。アッバス・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』(87)で描かれた牧歌的な時代のイランとは、ずいぶん変わったことを感じさせる。
物語後半には、SNSと同じくイランで大きな社会問題となっている、もうひとつのテーマが顕在してくる。イランは中国に次いで「死刑」が多い国としても知られている。イラン国内で上映禁止となったイラン映画『白い牛のバラッド』(現在公開中)は、人の命に直結する死刑制度の杜撰さを訴えた問題作だ。同害報復刑を採用しているイランの司法制度では、殺人を犯した者には絞首刑が待っている。
だが、この厳しい死刑制度には抜け穴がある。加害者側が遺族に対して、ブラッドマネー(血の代償)と呼ばれる賠償金を支払い、遺族が謝罪を受け入れることによって、死刑を免れることができるのだ。
ラヒムの善行を称え、募金を呼び掛けたチャリティー団体には、殺人罪に問われる夫を持つ妻が、まだ幼い子どもを連れて、賠償金のための寄附金を求めて通い詰めている。お金のあるなしによって、人の命まで左右される。そんな宗教国家イランの裏の顔を、アスガー監督はサブテーマとして盛り込んでいる。厳しい検閲にさらされるイラン映画だが、アスガー監督はギリギリのところを突くのがうまい。
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