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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.676

実在のセクハラ事件が題材の社会派ミステリー 被害者が追い詰められる『ある職場』

男性監督がセクハラ問題を描くことへの懸念

実在のセクハラ事件が題材の社会派ミステリー  被害者が追い詰められる『ある職場』の画像3
早紀の回想によるセクハラシーン。その後、セクハラ上司は部署異動することに

 企画を具体化していくうちに、舩橋監督は男性である自分がセクハラ問題を描くことに疑問を感じたそうだ。日本の映画界は完全なる縦社会だ。監督が指示したことを、スタッフやキャストは「あうんの呼吸」で映像化していく。男性である舩橋監督がもし間違った演出をしても、スタッフやキャストはそのまま従うことになってしまう。

舩橋「ハラスメントに対する問題意識を持って企画したんですが、男性である僕が監督することで男性的視点に偏ったものになりかねない可能性がありました。女性監督に依頼するか、女性の脚本家に参加してもらうことも考えたのですが、今回は女優陣も含めたキャストそれぞれに自分の演じる役の立場からセリフを考えて、演じてもらうことにしたんです。キャストは僕の映像演劇ワークショップの参加者たちから選んでいます。リハーサルは基本的にせず、ぶっつけ本番で撮っています。ですが、キャストとはそれぞれが演じるキャラクターについてはしっかり話し合い、そのキャラクターが腹の底でどんな本音を抱いているのかを明確にしておきました。脚本に書かれたセリフを読むのとは違って、生々しい言葉になっていると思います。誰がどのタイミングでしゃべるかも分からなかったので、キャストだけでなくカメラを回している僕もヘトヘトになりました(笑)」

 キャストのセリフは事前に用意せず、演じるキャラクターが腹の底で感じていることだけを決め、本番ではキャストに自由に演じさせる。この演出スタイルは、米国で演技指導者として著名なステラ・アドラーとジュディス・ウェストンによる演技メソッドを参考に、舩橋監督が日本人向けにアレンジしたものだそうだ。また、MeToo運動後のハリウッドでは、ベッドシーンやキスシーンのある作品にはインティマシーコーディネーターという専門家を雇うことが一般化しているとも、舩橋監督は語った。日本の映画界も、変革の時期を迎えつつあるようだ。

舩橋「今回の撮影ではセクハラシーンがあったので、早紀役の女優・平井早紀さんとマネージャーには事前に書面にして、セクハラシーンを撮影してもいいかどうかの意見を聞きました。平井さんが同意してくれたことで、撮影することにしました。僕自身、日本に帰国して間もない頃に映画業界でパワハラ的な目に遭い、嫌な思いをしたことがあります。『ポルトの恋人たち 時の記憶』にはベッドシーンがあったんですが、主演女優から『説明が足りない』と怒られ、平謝りしました。ハラスメント問題は自分が加害者にも被害者にもなりうる、それほど繊細でグレーで、はっきりと規定されない領域なんです。映画業界にこれから入る世代がセクハラ・パワハラで悩まずに済むよう、少しでも変わっていくようにしたい」

 映画のラスト、早紀は自分を苦しめるセクハラ問題に決着をつけるべく決断を下すことになる。早紀がどんな答えを出すのかが分からず、カメラを回していた舩橋監督もドキドキしたという。

 「セクハラ罪という罪はない」。政界を動かす長老議員が平然とそんな発言をする国で、我々は働いている。『ある職場』は12人の日本人キャストが織りなす、本音の日本人論、日本の組織論だと言えるだろう。

 

『ある職場』
監督・撮影・録音・脚本・編集/舩橋淳
出演・共同脚本/平井早紀、伊藤恵、山中隆史、田口善央、満園雄太、辻井拓、藤村修アルーノル、木村成志、野村一瑛、万徳寺あんり、中澤梓佐、吉川みこと、羽田真
配給/タイムフライズ 3月5日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー
©TIMEFLIES Inc.
arushokuba.com

最終更新:2022/05/17 15:40
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