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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.674

自宅が全焼してしまった監督一家のドキュメント『焼け跡クロニクル』

明るく記録された公民館での避難生活

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火事現場から公民館での避難生活を記録したのは、原監督の妻・原まおりさん

 一度は火事現場から子どもたちを連れて無事に退避した原監督は、なぜ大火傷を負ったのか。その理由も映画監督ゆえの業だった。自宅の仕事場にこれまで撮ってきたフィルムや機材が残っていることに気づき、子どもたちの安全を確認した上で、火事現場に戻った。炎はまだ小さいように見えたが、屋内の温度は原監督が考えていた以上に高くなっていた。

 何とかパソコンと編集作業中の最新作も含むデータが入ったハードディスクを持ち出すことができたものの、顔と首、腕に大きな火傷を負ってしまった。身を犠牲にして映像データは守ったが、オリジナルのフィルムは炎に包まれてしまった。原監督は深い喪失感に悩まされることになる。

 公民館での避難生活が始まった。熱中症の患者が急増したこともあり、かなりの火傷を負っている原監督は翌日には病院を退院させられ、包帯だらけの姿で家族のもとに帰ってきた。大学生の長男も、双子の姉妹も言いようのない不安を感じている。そんな状況下で俄然ファイトを見せるのが、カメラを回すまおりさんだった。子どもたちを集め、円陣を組ませ、自分たち家族に向かってエールを発する。

「約束するよ、手を出して。いくよ、何があってもがんばるよ、オー!」

 当然だが、まおりさん自身も不安で仕方なかったはずだ。だが、母親が塞ぎ込んでいたら家族みんながダメになってしまう。まおりさん自身がこの避難生活を明るく記録していくことで、アクシデントを乗り越えていく家族の物語にすることを決意する。監督としての固い決意は、何があってもブレることがない。トラブルのひとつひとつが、物語を構成するための要素となっていく。まおりさんの母性愛、映画愛が、公民館で所在なさげに横になる原監督一家を温かく包み込んでいく。

 痛々しい火傷姿の原監督は、火事の翌日さっそく現場検証に立ち会うことになる。映像では分からないが、火事現場特有の煙や焼け跡の匂いが充満していたことだろう。検証後は隣近所や町内会へお詫びに回ったそうだ。延焼を起こさなかったことも幸いだった。「心配したよ。子どもたちは無事だったか。命があって、よかった」と原監督は励まされる。公民館に戻った原監督は「少年ジャンプ」と大きくプリントされたTシャツに着替えるが、これらの衣料類は支援物資らしい。ご近所の好意が身に染みる原監督だった。

 公民館での避難生活が新鮮に感じられるらしく、双子の姉妹ははしゃぎ回っている。彼女たちも小さいなりに、明るく振る舞っているようだ。双子の世話を焼く優しい長男が、母親のカメラから逃げるように表に出ていくシーンもある。おそらく、家族に見られない場所でひとりで涙を流したのではないだろうか。子どもたちに火事の記憶がトラウマとして残らないようにしたい。原監督夫妻の想いも、この映画からは感じられる。

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