藤井風に星野源…音楽プロデューサー エス・ティ・ワイ(sty)のおすすめ音楽
サブスク時代に何を聴けばいいのか……と“サブスク迷子”になっている方も多いのでは? そんなあなたにプロの音楽プロデューサーが今おすすめの音楽を紹介。今回は三代目J SOUL BROTHERSや少女時代、三浦大知などを手がけるエス・ティ・ワイ(sty)氏にご登場願った。年末年始にじっくり聴いてみてはいかが?
エス・ティ・ワイ(sty)が2021年によく聴いた3曲
■ 藤井風「きらり」
数いるZ世代のスターたちの中で、なぜ藤井風がこんなに中高年の好みにまでリーチ出来ているのかというと間違いなく「老成」の魅力というところにあり、「老成」はつまるところ「安心」だからである。成熟した音楽性、文豪のようなビジュアル、宇多田ヒカルを模した戦略、カリズマティックなライブ演出、それら全てがオトナがしっかり関わって作られているという信頼を感じさせ、そのクリエイティブに一切のヌケ感やスキは無い。無いのに、ダンスしたり英語話したり寝癖がヤバかったりという「なんかヘン」な藤井風が意図せず抑えきれずに溢れ出してしまっていて、人々は「老成」の中の微量な「半熟」をそこに見る。みんなが(というか私が)藤井風に恋に落ちてしまい、かつ語りたくなってしまう理由はそこにあるのではないか。作り込めなかった部分を安心して愛するというのは楽だし心地いいですからね。藤井風論みたいになってしまった。この曲はとっても素敵で大好きです!(敬称略)
■ 星野源「不思議」
藤井風がいきなり老成した状態で華々しく降臨した一方、星野源のそれはあくまで身の丈にあったものである。それは年齢に紐付いたものではなく、芸能界歴みたいなところにあり、広く浅く分かりやすく親しまれたいという欲求の一方で、決して私を一筋縄で見ないで頂きたいという刺々しい自意識の真骨頂、それがこの「不思議」に集約されていてニヤリとしてしまう。他人と交わりたい、他人との不思議を噛み締めたい、そう願うのにそれがまだ愛であるとは断言できない、そんな四十路男のボヤきを、J-POPで片付けるには難解すぎるフュージョンみたいなコード進行や大仰なシンコペーションなどに載せ、乾いた笑いで歌う星野源のアーティストとしての姿って、シュガーコートしたドーナツを「おいしそー!」とか言って頬張ってたら中に砂利が混じっていて歯が折れた、みたいな感じだ。星野源の自意識に心地よく歯が折られるのである。また星野源論みたいになっちゃった。この曲もとっても素敵で大好きです!(敬称略)
■ 宇多田ヒカル 「One Last Kiss」
近年の宇多田ヒカルのカリズマティックな不幸体質というセルフブランディングはサウンドとソングライティングに顕著である一方、ボーカルには大きな変化が感じられ、ピッチやタイミングなど技術や歌いまわしに対する探求は一段落し、ここ数作では「ボーカルのテクスチャ」に大きな戦略性が置かれているように感じる。テクスチャというか、風合い、Aestheticとでも言いましょうか。この最近のボーカルスタイルは音楽をムードで聞く(見る)という若年層の視聴傾向ともシンクロし、サブスクなどでも多く聞かれ、同世代J-POP歌姫たちとは大きく一線を画していて、音楽家としてのたゆまぬアップデートを感じさせる。First Love「最後のキスはタバコのflavorがした」、One Last Kiss「初めてのルーブルはなんて事はなかったわ」の対称性。この人は時代を越えて進化しているのに、ずっと地続きなのである。(敬称略)
おすすめのエス・ティ・ワイ(sty)プロデュースワーク
■ エス・ティ・ワイ『City and Bops』EP
今年はSSW活動をうっかり始めたのですが、その中でもCity Popっぽいサウンドの曲を集めたEPが発売されておりますのでぜひよかったらお聞き下さい!
エス・ティ・ワイ(sty)
作詞家、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。 90年代のR&B, HIP HOPに影響を受け音楽制作を開始。2005年、ソングライターおよび音楽プロデューサーとしてのキャリアをスタートしてすぐに、 EXILEや倖田來未の作詞・作曲・プロデュースを手がけ、一躍新進気鋭の音楽プロデューサーに。少女時代、三浦大知、Crystal Kay、宮野真守、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEなどのヒット曲を多数プロデュースするかたわら、職業作家としての15年分のノウハウを引っさげて「エス・ティ・ワイ」としてファッショナブルなシンガー・ソングライターとしても活動を開始、そのオルタナティヴでアンニュイな音楽性でさらなるファン層を拡げ続けている。2014年、三代目J SOUL BROTHERS「R.Y.U.S.E.I.」で第56回レコード大賞を受賞(作詞・作曲・プロデュース)。
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