〈dj honda×ill-bosstino〉互いのプライドがぶつかり合う「混ぜるな危険」の行き着いた先
#ILL-BOSSTINO
tha BOSS名義でリリースした初のソロアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP』(2015年)、そしてTHA BLUE HERBの通算5枚目のアルバムとなった『THA BLUE HERB』(2019年)を経て、ILL-BOSSTINOがdj hondaと組んで〈dj honda×ill-bosstino〉名義でリリースしたアルバム『KINGS CROSS』。dj hondaといえば、90年代から2000年代にかけてメジャーレーベルと契約を結び、アメリカを拠点に数々の大物アーティストと共に作品をリリースするなど、当時、ヒップホップシーンでは誰もが知る存在であった。一般的にはあのイチローも愛用した“h”キャップの印象が強いかもしれないが、後にも先にもアメリカのメジャーシーンで彼ほどの成功を収めた日本人ヒップホップアーティストは他にいない。
現在、ILL-BOSSTINOと同じく札幌を拠点に活動するdj hondaであるが、同じヒップホップシーンの中にいるとはいえ、世代もタイプも異なるこの2人がタッグを組んで、丸々1枚アルバムを作るというのは驚きである。
さらに驚くのは今作における2人の相性の良さだ。今回のインタビューはILL-BOSSTINOのみで行ったが、まずはそんな筆者の驚きを率直に伝えてからスタートした。
――まず最初にアルバムの感想を言うと、ここまで2人の相性が良いとは思っていなくて。
ILL-BOSSTINO(以下、BOSS) 俺もそうだね。
――THA BLUE HERBとしての活動をはじめ、DJ KRUSHさんと一緒にやったりっていう、今までのイメージを考えると、2人は対極な位置にいたようにも感じていたんですが、今回のコラボレーションがこんなにうまくいくことは予想してましたか?
BOSS うーん……予想はしてたね。ラッパーなんで、O.N.OでもKRUSHさんでもhondaさんでも、誰とでも良いものを作るっていうのが仕事だから。それは大前提なんだけど、90年代のヒップホップにやられて、ずっと独学でここまでやってきたから、そういう意味でも90年代にニューヨークの第一線にいたhondaさんのビートっていうのは、合う予感しかしなかった。
――さらに、hondaさんのビートだからこそ引き出されている部分もすごく感じて。
BOSS それはめちゃめちゃあった。そこまでは予感だったんだけど実際、初めてスタジオに行ったときに「好きなビートを選べよ」って言われて、PCを開いたらフォルダに200曲ぐらい入ってたんだよ。1曲目から順番に聴かせてもらったんだけど、頭から10曲目までで全部やりたいトラックで、全然先に進めなかった。その時点でビートの精度の高さが本当にすごかった。
――ちょっと昔の話も聞きたいんですが、最初にhondaさんの名前を認識したのっていつ頃ですか?
BOSS (hondaさんが)もうニューヨークに行ってた頃だと思う。札幌の人ということは認識しつつ、かつ俺らの先輩の先輩、っていう感じの位置だったから、遠い存在として見てた。ましてや、ニューヨークから逆輸入でアーティストとして情報が入ってきてたから、「そんな人がいるんだ?」ぐらいの感じで。時々、札幌にも凱旋でDJで来ても先輩の向こうにいる人っていう感じで。俺らはちょっと離れたところから見るだけで、話もできない人だった。
――hondaさんと直接話すようになったのはいつ頃ですか?
BOSS hondaさんが09年に帰国して、B.I.G.JOEとアルバム(編註:15年リリースのdj honda×b.i.g. joe『UNFINISHED CONNECTION』)を作ってからかな。今まで遠い存在だったhondaさんがいきなりすごく近くなった。B.I.G.JOEからhondaさんのパーソナリティについて聞けるし、「手の届く人」って言ったらヘンだけど、今までフィクションのような存在だったのが、実在する人になったというか。ただ、hondaさんも札幌にいたんだけど、俺もTHA BLUE HERBをやってたし、直接会うことはあまりなくて、だんだんゆっくりと気づけばって感じで。
――ちなみにhondaさんはTHA BLUE HERBなりILL-BOSSTINOという存在を認識してたんでしょうか?
BOSS B.I.G.JOEが1曲誘ってくれて一緒に「STILL」(17年)っていう曲を録って。多分、それで認識したんじゃないかな? これは俺の感想なんだけど、あまり人の音楽に対して関心がないと思う。ただ、その理由は毎日(曲を)作ってるから、他の人の音楽を聴く暇なんてないのかなと。でも、「STILL」のレコーディングで「お前のスキルはわかった」とか「言葉の滑舌の良さや語彙力も含め、興味を持った」って言われて。それまでクラブとか楽屋で何度かあいさつしてたけど、別にそんなことだけではhondaさんに知られてるとも思ってなかったし、レコーディングの場で技を見せないと、認めてもらえないんだろうな、という感覚はずっと頭にあった。
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