不気味すぎる実写映画『ほんとうのピノッキオ』 大人たちに搾取される社会的弱者を描いた寓話
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多くの末裔を生み出したピノッキオ
原作となる『ピノッキオの冒険』を19世紀に執筆したカルロ・コッローディは、貧しい家庭に生まれ、神学校を中退し、第一次イタリア独立戦争に従軍した経歴の持ち主だ。理想の国家が誕生することを夢想したコッローディだが、統一国家となったイタリアの現実に失望し、社会風刺を込めて「子ども新聞」に連載したのが『ピノッキオの冒険』だった。ギャンブルにハマり、酒好きで、借金を重ねたコッローディの分身として、ピノッキオは誕生した。当初はピノッキオが首吊りにされて物語は終わるはずだったが、読者から抗議が殺到し、連載が再開されたという逸話が残されている。
各国で翻訳されたピノッキオの物語は、多くの末裔を生み出してきた。手塚治虫の人気漫画『鉄腕アトム』のアトムも、その一人だ。天馬博士は交通事故で亡くなった息子の代用品として高性能ロボットのアトムを開発するが、アトムが成長しないことに怒り、サーカスに売ってしまう。スタンリー・キューブリック監督の遺稿をスティーブン・スピルバーグ監督が映画化したSF大作『A.I.』(01)や、是枝裕和監督がぺ・ドゥナ主演で撮ったセクシャルなファンタジー映画『空気人形』(09)も、ピノッキオの遺伝子を受け継いでいると言えるだろう。
ピノッキオはいたずら好きで、学校には行きたがらないが、その分とても自分の欲望に正直な存在である。つまらない嘘もつくが、嘘をつくと鼻が伸びるので、妖精にはすぐにバレてしまう。そんな人間くさいピノッキオが物語の最後に人間の子どもになるのは「いい子」にしていたからではない。大人たちに搾取され続け、社会の理不尽さを経験してきたピノッキオが、自分で主体的に考えて行動し、自分よりも弱い立場の他者をいたわることができるようになったからだ。もはやピノッキオは不気味な人形ではなく、人間以上に人間らしい。
さんざん酷い目に遭いながらも、ピノッキオは真っ当な生身の人間へと成長を遂げる。誰しも真っ当な人間になりたいと願うが、社会に抑圧されているうちに次第に歪んだ心を持つようになってしまう。ピノッキオのように、純真なまま大人にはなれない。とても身近な存在だが、永遠に同化することもできない存在。それがほんとうのピノッキオではないだろうか。
『ほんとうのピノッキオ』
監督・共同脚本/マッテオ・ガローネ
出演/ロベルト・ベニーニ、マリーヌ・ヴァクト、フェデリコ・エラピ
配給/ハピネットファントム・スタジオ 11月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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