森山未來と伊藤沙莉が「ロスジェネ」の恋人たちを演じる映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』
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ゆっくりと沈みゆくタイタニック号の中で、主人公は懸命にあがき続ける。生き延びるためではなく、自分が何者であるかを確かめるためだった。森山未來と伊藤沙莉が共演した映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、バブル崩壊後の1990年代後半から、コロナ禍によって東京五輪の開催延期が決まった2020年までの25年間、いわゆる「失われた時代」を振り返った物語だ。結婚に踏み切れずにいる恋人たちを主人公にした『恋のツキ』(テレビ東京系)が話題を呼んだ森義仁監督の劇場デビュー作であり、『そこのみにて光輝く』(14)の高田亮が脚本を担当している。
原作者は1973年生まれの「燃え殻」。テレビ美術の制作会社に勤める傍ら、Twitterへの投稿文が話題となり、お笑い芸人の小沢一敬、作家の樋口毅宏らに勧められて小説を書き始めた。ネット上で連載した処女作が、『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)だった。就職氷河期に社会人となった「燃え殻」の実体験をベースにした、ビターな青春回顧録となっている。
2020年、テレビ業界で働く佐藤(森山未來)は酒に酔って、夜の東京をさまよう。コロナ禍の影響で、街はまるでゴーストタウンのようだ。六本木も渋谷も新宿も、ずいぶんと変わってしまった。街をさまよい歩くうちに、佐藤の脳裏にかつての記憶が次々と甦ってくる。
2011年、東日本大震災が起き、テレビ番組のテロップ制作を請け負う佐藤は仕事に追われる毎日だった。同棲中の恋人・恵(大島優子)の母親と会食する約束があったが、すっかり遅刻してしまう。本気で結婚する気があるのかと問い詰める恵に対し、「震災後に結婚する人が増えているんでしょ? なんか普通だなって思って」という言葉が佐藤の口からこぼれてしまう。結局、恵とは結婚せず、佐藤はその後も独身のままだった。
2000年、バブル景気はすでに終わっていたのに、テレビ業界はバブルの残り香を求めるかのようなバカ騒ぎ続けていた。パーティーに顔を出した佐藤は、バーテンをしていたスー(SUMIRE)と懇意になり、新宿のゴールデン街で飲み明かす。スーは中国語や韓国語に堪能で、「相手に求められれば何者にもなれる」と語った。何者にもなれるということは、裏返せば本人は何者でもないということだ。そんなスーの空虚さに、佐藤は惹かれる。だが、かわいがっていた野良猫が突然姿を消すように、スーはぷっつりと消息を絶ってしまう。
佐藤には何人か付き合った女性がいたが、みんなすでにモノクロ写真のような過去の記憶となっている。そんな記憶の中に、今も輝いている女性が1人だけいた。佐藤が「最愛のブス」と称したかおり(伊藤沙莉)だった。
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