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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.659

不気味すぎる実写映画『ほんとうのピノッキオ』 大人たちに搾取される社会的弱者を描いた寓話

貧困、暴力、犯罪が溢れる格差社会

不気味すぎる実写映画『ほんとうのピノッキオ』 大人たちに搾取される社会的弱者を描いた寓話の画像2
ピノッキオをカモにする、詐欺コンビのキツネとネコ。体に障害があるという設定

 リアリズムを重視するマッテオ・ガローネ監督らしく、19世紀のイタリア庶民の生活がリアリティーたっぷりに再現されている。ジェペットじいさん(ロベルト・ベニーニ)は木工職人だが、その暮らしはビンボーそのもの。あまりに貧しすぎ、ずっと独身のまま。ひとり暮らしが寂しいジェペットじいさんは、不思議な木材を刻んで精巧なあやつり人形を作るが、完成した人形のピノッキオ(フェデリコ・エラピ)は家を飛び出してやりたい放題で、ジェペットじいさんは精神的にも経済的にもボロボロになる。

 ジェペットじいさんは食事を我慢し、一着しかないコートと上着を売って、ピノッキオが学校に通うための教科書を購入する。だが、誘惑に弱いピノッキオは、即座に教科書を売り、楽しそうな人形劇団を観に行く。さらには詐欺コンビである足の悪いキツネと目の不自由なネコに騙され、金貨を巻き上げられてしまう。

 死にそうな目に遭ったピノッキオは自分のあさはかさを反省し、一度は学校に通うようになるものの、学校の教師は容赦なく子どもたちに体罰を加える。やがてピノッキオは、学校を休んで泥棒稼業に精を出す少年と仲良くなり、一緒に「おもちゃの国」へと向かうことに。この「おもちゃの国」は実は人身売買グループが用意した巧妙な罠で、ピノッキオは哀れなロバに変えられてしまう。生まれてまだ間もないピノッキオの目には、貧困、暴力、犯罪が世界中に溢れているように映る。ピノッキオを飲み込む大ザメは、高利貸しのメタファーでもある。美しい妖精(マリーヌ・ヴァクト)と過ごす時間だけが、ピノッキオの喜びだった。

 本作でジェペットじいさんを演じたロベルト・ベニーニは、主演&監督作『ライフ・イズ・ビューティフル』が絶賛されたが、続く『ピノッキオ』(02)は海外では大コケしたうえにゴールデンラジー賞を受賞している。当時すでに50歳のおっさんだったベニーニが、大人になれないピノッキオを演じた痛々しい作品だった。ピノッキオに振り回されるジェペットじいさん役に回って、今回は大正解。本作を観てしまうと、ベニーニ版のおっさんピノッキオがいつまでも童心を忘れずにいるという解釈は甘すぎたと感じずにはいられない。

 ガローネ監督が描くピノッキオは、無知ゆえに次々と不幸な事件に巻き込まれていく。所持金を騙し取られた上に、被害者でありながら裁判所では有罪判決を下されてしまう。大人たちに迫害され、搾取される社会的弱者としてのピノッキオがいる。寄生できる親がいる家庭に生まれた子どもなら、ずっと子どものままでいたいと思うかもしれないが、ピノッキオのように迫害され、犯罪者やサーカス団から搾取され続ける立場でいたいと考える人は今の格差社会にはいないだろう。いつまでも子どもままでいられたら幸せ……。そんな底の浅い幻想を『ほんとうのピノッキオ』は粉々に打ち砕いてみせる。

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