『光る君へ』は紫式部と道長が「推し」合うドラマ? ロバート秋山演じる実資も注目
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──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ
1月7日から『光る君へ』の放送がスタートしますね。NHKの大河ドラマでは、戦国時代以前の時代が舞台になることは多くありません。2005年の『義経』、2012年の『平清盛』などで平安時代末期が取り上げられたことはありましたが、それよりさらに150年ほど前の平安時代中期が大河で描かれるのはかなりの異例でしょう。実際に、平将門らを描いた1976年の『風と雲と虹と』に次いで大河史上2番目に古い時代となるそうです。平安時代は日本文化の最高到達地点のひとつなので、『光る君へ』には大きな期待をしています。
今回の『光る君へ』については、大河で人気の「戦もの」ではなく、「文化」を見せ場にしたいという狙いがあると一部で言われており、次の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』が「江戸のメディア王」蔦屋重三郎を主人公にしていることから、この2作は大河の新路線となるのではとも見られているようです。
12月末に公開された『光る君へ』の宣伝番組では、五節(ごせち)の舞姫の姿がチラっと映り、紫式部こと「まひろ」を演じる吉高由里子さんまで舞姫の装束だったので驚きました。紫式部が少女時代に舞姫を務めたという記録はないので、完全な創作といえますが、そこまでしてでも失われた「文化」の映像化を(想像力を駆使して)行いたいという、NHK側の意気込みの表れなのでしょう。ほかに、藤原道長を演じる柄本佑さんが乗馬して打毬に興じている映像がすでに公開されていますから、一般的にはあまり馴染みのない平安時代の貴族文化や儀式などの映像化が多くあるはずです。となれば、ある意味、TBSの長寿番組『皇室アルバム』の平安版みたいな内容になりそうな気もしますが、そういう美々しい部分を打ち出すことで、激しい政治抗争の血生臭さとのバランスを取ろうとしているのかな、と想像してしまいます。
『光る君へ』のビジュアルが発表されはじめた頃は、政治部分の陰惨さはサラッと流して、中級貴族出身のヒロイン=紫式部が、最上流階級との接点を持つようになって、それまでは空想だけで書いていた『源氏物語』を試行錯誤しながら執筆し、その『源氏物語』の内容を劇中劇(もしくはアニメーション)で見せながら、話を進めていくつもりだろうと思い込んでいたので、制作統括の内田ゆきさんが「源氏物語は描かない」「劇中劇みたいなことは考えていない」と先日断言していたのに、大いに衝撃を受けました。脚本の大石静さんは「序盤は通常の大河ドラマよりラブストーリー要素が強いかもしれませんが、一方で当時の政治劇も色濃く描きます」とも語っており、あくまで紫式部を主人公とした宮廷が舞台の人間ドラマとなりそうです。
登場人物のビジュアルは、「きれいな平安」という視聴者に潜在するイメージに沿ったものなのでしょうが、「たくましい平安」の『平清盛』のものと比べるとあまりに毒気がなく、血で血を洗うような藤原氏の権力闘争を、本当にあのキラキラしたビジュアルのキャラクターたちで描いていけるのか?とも疑問でした。しかしよく考えれば、見た目のきれいさに惹かれて見てみたら、中身はおどろおどろしい人間劇に仕上がっている……というギャップのすごい作品になっていきそうです。
うまい設定だと思ったのは、紫式部と藤原道長があくまで幼なじみで、ソウルメイトにはなるけれども、恋仲には発展しなさそうという部分です。室町時代初期に成立した系図集『尊卑分脈』では紫式部は道長の「妾」とされていますが、その具体的な史実的根拠はほとんどありませんから。『光る君へ』は、紫式部と道長がお互いを「推し」として認識するドラマになりそうですね。道長は紫式部の文学者としての才能を、紫式部は道長の政治家としての才能をお互いに応援し合うという意味です。
また、道長がどのように変貌していき、紫式部がそれをどのように応援していくのかが、ドラマの中核部分になるのではないでしょうか。ドラマの登場人物紹介によると、少年時代の道長(三郎)は、「兄の道隆、道兼の陰で目立たず、のんびり屋な性格」という設定になるとのことですが、そんな道長が、権力闘争を勝ち抜き、わが手を血で汚すようなこともたくさんして、最終的に「この世をばわが世とぞ思う……」という歌を宴で詠み、勝利宣言するようになるのですから、『どうする家康』の家康や、『鎌倉殿の13人』の北条義時に勝るとも劣らない、すごい変貌劇になるはずです。
この手の主人公のダークヒーロー化は近年の大河になぜか多い印象ですが、『鎌倉殿』は貴重な例外としても、あまり大河のメイン視聴者層に好まれる要素ではないように感じています。個人的には大好きだったものの世評が振るわなかった『平清盛』は、特に清盛が打倒されるべき悪役に変貌し、共感しにくくなった後半部分で、視聴者の気持ちが離れていってしまったのではないかと思っています。しかし、『光る君へ』の道長はあくまで副主人公的な立ち位置に過ぎず、ヒロインの紫式部は彼を見守る「だけ」ですから、ダークヒーロー化の「ケガレ」を受けずに済みます。巧妙な設定ともいえるかもしれません。
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