『報ステ』元プロデューサーが撮った初の劇場映画 カジノに反対する男の生き様ドキュメンタリー
#映画 #インタビュー
鶴田浩二や高倉健が主演した、往年の任侠映画を観たような面白さがある。テレビ朝日の看板番組『報道ステーション』のチーフプロデューサーを務めた松原文枝さんの初監督作『ハマのドン』が、5月5日(金)より劇場公開される。
主人公は横浜政財界の顔役であり、「ハマのドン」の異名を持つ「藤木企業」会長の藤木幸男(取材時91歳)。歴代の総理たちと親交を持ち、横浜を地盤にしている菅義偉総理(取材時)を「身内」と呼ぶ間柄だった保守派の藤木会長だったが、カジノリゾートの横浜誘致をめぐって菅政権と全面対決。利権まみれになった政治家たちを相手に闘いを挑む、昔気質の男の姿を追ったドキュメンタリー映画となっている。
日本最大の広域暴力団・山口組三代目組長だった田岡一雄ともつながりがありながら、裏社会とは一線を画し、横浜港で生きる人たちのために尽力する藤木会長の生き様が鮮烈だ。同時に本作は、カジノリゾートをめぐる日米の政財界の暗部も暴き出している。
本作で劇場映画の監督デビューを果たす松原文枝さんに、映画化までの経緯、取材内情、そして『報道ステーション』時代のエピソードまで語ってもらった。
森達也監督から映画化を勧められた
――横浜港の港湾事業者の元締め的存在である藤木会長は、ひと言で語るなら「任侠の人」。令和時代にこんな人物がいたことに驚きました。
松原 本当にそう思います。藤木さんご自身は、「かつては、どの町にも俺みたいな男はいたんだよ」と語っています。誰に対しても分け隔てをしない、まさに町の親分的な方です。
――テレビ朝日系のドキュメンタリー番組『テレメンタリー』で2021年11月に放映された「ハマのドン“仁義なき闘い”」をベースに劇場映画化したわけですが、テレビ朝日がドキュメンタリー映画を製作するのは珍しい。
松原 テレビ朝日初のドキュメンタリー映画かどうかは分かりませんが、私がテレビ朝日に入社した1991年以降は、なかったと思います。30分枠の『テレメンタリー』で放映した後に『民教協スペシャル』として1時間枠に再構成したものを放映したところ、反響が多く、視聴率もよかった。民教協の審査員をしていたドキュメンタリー作家の森達也さんからも「面白いから、映画化すれば」と言われたんです。
――『FAKE』(16)や『i 新聞記者 ドキュメント』(19)の森達也監督から映画化を勧められた。
松原 でもドキュメンタリー番組はどうすれば劇場公開できるのか、私にはまったく見当がつきませんでした。テレビ朝日はアニメや人気ドラマの劇場版は手掛けていますが、ドキュメンタリー映画に関するノウハウはありません。それで同じ系列であるKSB瀬戸内放送で『カウラは忘れない』(21)を劇場公開した満田康弘さんに相談したり、『米軍がもっとも恐れた男 その名はカメジロー』(17)などを撮ったTBSの佐古忠彦さん、『教育と愛国』(22)を撮ったMBSの斉加尚代さんにも、予算のことなどいろいろ教えてもらい、企画書にして上に出したんです。今の私は報道局を離れ、ビジネスプロデュース局という新しい部署にいるんですが、「赤字にはしないように」と言われてOKをもらいました。これが報道局での製作だったら、もっとハードルが高くなっていたかもしれません。
――『ニュースステーション』『報道ステーション』で長年にわたって政治ニュースを手掛けてきた松原さんですが、「ハマのドン」藤木会長の存在はいつごろから知っていたんでしょうか。
松原 以前から面識があったわけではなく、2018年6月にカジノ実施法が成立し、カジノ事業者や自治体の動きが激しくなってきました。その中で横浜で反対を唱えている実力者がいる、藤木さんの名前を知りました。当初はあまり大きな話題にはなっていませんでしたが、菅陣営にいた有力者が反旗を翻したことに興味を覚えたんです。権力側にいた人間が造反すれば、返り血を浴びることになります。それを承知で、藤木さんは闘う覚悟であることが伝わってきました。それから取材を申し込んだんですが、最初はまったく受け付けてもらえませんでした。
――簡単には取材を諦めないところは、さすが政治記者が長かった松原さんです。
松原 公の場に出てくる機会がないかなと思って調べたところ、年明けの賀詞交歓会に出席することが分かり、そこでご本人に直接お会いしました。港湾を牛耳っている怖い人かなと思っていたんですが、とても気さくで、開けっぴろげな人情家でしたね(笑)。
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