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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『どうする家康』の茶々は悪女になる?
歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

『どうする家康』の茶々は家康を惑わす悪女? 大野治長との関係はどう描かれるか

茶々が産んだ秀頼は秀吉の実子なのか?

『どうする家康』の茶々は家康を惑わす悪女? 大野治長との関係はどう描かれるかの画像2
家康(松本潤)に迫る茶々(北川景子)| ドラマ公式サイトより

 茶々と大野治長は乳兄弟(ちきょうだい)にあたります。男女という性別の違いはあっても、実のきょうだいのように近い間柄だったことは間違いないでしょう。筆者からすると、実のきょうだいのように関係が近すぎる相手と、はたして男女の仲になるのか? そもそも茶々のように高貴な女性には多くの侍女たちが常に付き従っているのに、治長と密かに関係を持つことができたのか?といった疑問が浮かびます。

 「秀頼は秀吉の実子ではない」との考えが生まれる背景には、秀吉があれだけ多くの側室を持ったのに、茶々が産んだ秀頼以外の子どもが成人しておらず、それゆえに子種が(ほとんど)なかった」という臆測がつきまとっていることが大きく影響しているのでしょう。もっとも、秀吉もしくは彼が関係した多くの女性には、子どもを授かりにくいという悩みがあったことは事実でしょうが、それだけで秀吉に「子種がなかった」と決めつけるのは乱暴な気がしてなりません。

 近江国・長浜(現在の滋賀県長浜市)で領主を務めていた時代の秀吉には、南殿という側室(本名不詳)との間に、石松丸という男子とその妹、二人の子どもが産まれていたと読める史料が存在するのです。その史料とは、琵琶湖に浮かぶ竹生島(ちくぶじま)の宝厳寺(ほうごんじ)に残された『竹生島奉加帳』という「寺伝」なので、信憑性としては「史書」の類よりも多少落ちるかもしれませんが、宝厳寺と同じ長浜市にある寺院・妙法寺には、石松丸の肖像画も残されていました。残念ながら、第二次世界大戦で実物は燃失し、現在は東京大学史料編纂所が撮影したモノクロ写真だけが現存している状態です。

 また、この『奉加帳』には、寺に寄進を行った人物として「御内方(ごないほう=正室・ねね)」、「大方殿(おおかたどの=秀吉の生母・なか)」といった秀吉の家族の女性と同列に「南殿」という側室らしき女性の名前があり、「石松丸」「御ちの人(=乳母もしくは、乳飲み子?)」という、その後の歴史の表舞台には姿を表さない謎の人名も見られるのです。この件については詳しくは筆者の『本当は怖い日本史』(三笠書房)をご覧いただくとして、要するに、側室との間に子をもうけていたと考えられる秀吉に「子種がなかった」とはいえないのではないか、ということです。

 ちなみに石松丸は天正4年(1576年)10月に急死し、また彼の母だと思われる「南殿」、彼の妹と見られる「御ちの人」のその後についてもよくわからなくなってしまっています。ねねが、正室の地位を脅かしかねない側室・南殿を秀吉から遠ざけることに成功したのかもしれませんね。

 ねねが信長に秀吉の女性関係について相談し、それについて信長が懇切丁寧な長文の返事を送ったという歴史的事実があるのですが、その中で信長は「武士の正室として重々しく振る舞いなさい。つまらぬ嫉妬などに狂うのは、武士の正室にはふさわしくない行動ですよ」とねねに伝えています。この手紙が送られたのが一説に(すでに石松丸が誕生していたとみられる)天正4年2月ごろだと考えられています。手紙のほかの部分で、ねねから素晴らしい贈り物を受け取った礼を述べているので、信長が安土城を新築して引っ越した時期では、と推測されるからです。

 この時の信長が「武士の正室としてあるべき姿」を説いたウラには、ねね(生年不詳)もまだ若く、秀吉の子を授かる可能性があるのだから、側室が男の子を産んだくらいで諦めてはいけないよ、正室が男の子を産めば、その子が武士社会のルールでは嫡男になれるのだから……という「励まし」があったと考えられます。ちなみにこの手紙の中でだけ、信長は秀吉を「サル」呼ばわりしており、それが今日にいたるまで秀吉のニックネームになってしまっているのは興味深いことですね。

 このように石松丸の存在や、茶々と大野治長が密通していたとする説の信憑性への疑問などから、茶々が秀吉の実子を授かったことには間違いがないのではないか、と筆者は考えています。史実の秀吉は痩せて小柄でしたが、その子の秀頼はタテにもヨコにも大きい、力士とかプロレスラーのような体格で、怪力の持ち主だったようです。そうした点においても、本当は秀吉以外の子ではないか?という噂が生まれやすかったのでしょうが、茶々自身、当時の女性としては長身だといわれており、さらに茶々の父母にあたるお市の方や浅井長政も身長が高く、ガタイがよかったという説もあるので、秀頼の体格は母方からの遺伝といえるのではないでしょうか。

 ドラマの茶々がファム・ファタールのような存在で、秀吉に続いて家康も篭絡しようとするような女性であれば、玉山鉄二さん演じる大野治長との関係も色っぽいものになる可能性もありそうですが、いずれにせよ、史実ではかなり混沌とした豊臣家中をどのようにドラマが描いていくのか、楽しみにしています。

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堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/10/08 11:00
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