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「最高の教師」たちにバトンを託された九条が変えた“世界”と運命

「最高の教師」たちにバトンを託された九条が変えた“世界”と運命の画像
ドラマ公式サイトより

 学園ドラマの定石は、問題を抱える子どもたちを教師が導く成長ストーリーだ。9月23日に最終話を迎えた日本テレビ系『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』も、前話までその路線であることで間違いなかった。それは筆者をはじめとした視聴者が、教室で巻き起こる教師と生徒の対話を第三者の視点から見ていたからだ。その“魂の授業”の当事者である教師・九条里奈(松岡茉優)から見えていた世界とは……。最終話は九条の視点から、本作品の真のメッセージが明らかになった。

 鳳来高校3年D組の担任教師・九条が卒業式にD組の何者かに突き落とされ、「死にたくない」と願った瞬間、1年前の始業式に時間が巻き戻り「2周目」の人生をスタートさせるというところから始まる本作。自身の死の運命を変えようと、D組の生徒全員と真剣に向き合うことを決意し、クラスを変えてきた。同じく「2周目」を生きていた鵜久森叶(芦田愛菜)は転落死してしまうが、その真相が明らかになった翌日から、不破大成(のせりん)の行動をきっかけに、卒業式の日までおよそ半年間、D組の生徒たちは代わる代わる鵜久森の机に花を置くようになる。不都合から目を背け、自分勝手に生きてきた3年D組は変わった――。そう感じさせる光景だったが、その変化に置いていかれたままの生徒が一人だけいた。

 九条は1周目で突き落とされた3月10日、同じ新校舎の渡り廊下で待ち受ける。1周目と同じように九条を突き落とそうとした手を、九条は摑まえる。そこにいたのは、やはり星崎透(奥平大兼)だった。個性派ぞろいの3年D組にあって、これまで自由人のように振る舞っていた星崎だが、担任教師の命を奪おうとしたことを九条に気づかれても、いつもと変わらない態度を取る星崎に恐怖を感じた。

 「やっぱりあなただったんですね」と口にした九条里奈。何がきっかけで星崎に目星を付けていたのか。それは1周目で九条が突き落とされた際、犯人の顔が見えなかったこと。鵜久森を突き落としてしまった西野美月(茅島みずき)の告白から、九条を突き落とした犯人は相手を見ようとしなかったことに気づき、それは犯人に明確な殺意がなく、無感情に近い心境だったのではないかと。そして、この1年を通して生徒たちがさまざまな感情に揺さぶられてきたなか、唯一、教室での出来事を作り物かのように客観的に眺めていた星崎の顔が浮かんだのだ。

 星崎は1周目、九条を突き落とした後、自らも命を絶っていた。この世界が白黒映画のような景色に見えるという星崎は、「なんで誰も変えてくんないんだろう」と絶望していたのだ。そして2周目では、九条の変化によって「景色」は色づき始めたが、気が付くと自分だけが変化できないことに気づき、そのことに星崎は絶望し、ふたたび世界は白黒の「景色」に戻ってしまったのだった。「誰かのために生きてみたかった」。自由奔放に見えた姿の内側では、幼少期から周囲と合わせることができず、変わりたいと思っても変わることのできない自分に苦しんでいたのだ。

 星崎は「何でもする」と言っていた九条に、「俺と一緒に死んでくんない?」と頼む。「私が何でもするのは、生徒が変わるため」とはっきり断る九条。「色を失った世界を淡々とこなす日々がむなしくなる」という感情に九条は思い当たる節があった。まさに1周目の自分がそうだったからだ。本ドラマにおいて、思い返す際の「1周目」の場面がモノクロで演出されていたのは、そうした心情も表現していたのだろう。そして、2周目を生きる九条は、達観して白けてしまうのではなく、変われるとまず自分を信じてみてほしいという言葉を、自分の経験を通して伝える。「悲しいね」と言いながら、それでも自分の心が動かないという星崎は、自ら転落をしようとする。死なせまいと必死で星崎の腕を掴む九条。そこにD組の生徒たちが駆けつけ、夫の蓮(松下洸平)の手助けによって星崎は救助された。

 死と隣り合わせの渡り廊下で、教師と生徒による指導にも、人間同士による対話にも見える腹のさらけ合いを行った九条と星崎。最終的に星崎の命を救ったのは九条と蓮だったわけだが、筆者としては最大の「功労者」は鵜久森だと感じた。九条に対し「力づくで突き落とすこともできる」と余裕を見せる星崎だったが、鵜久森の死により転落事故防止のために下に花壇が設置されたことを知り、九条との対話に応じた。そして鵜久森の件をきっかけにD組の生徒たちは星崎に「色がついた」姿で見えるほど変化し、星崎のために集まった。星崎はただ自死を防がれたのではなく、ちゃんと星崎のことを気にしている仲間がいるのだと気づかされたのだ。

 転落死の運命を逃れたと思った刹那、「お前のせいで俺の人生が変わった」と九条を逆恨みする浜岡修吾(青木柚)の凶行には驚かされたが、しかし九条の2周目を終わらせるには至らなかった。それは、九条が「託された」からではないだろうか。自分の不幸を「お前のせいで俺の人生が変わった」と他者のせいにする浜岡に、本気で人と向き合うことで「人生が変わった」九条と生徒たちの生きる喜びを奪われてはならない。鵜久森から「バトン」を託され、そして白けずに本気で向き合うことで誰かが応えてくれるということを教えてくれたD組生徒という「最高の教師」たちから、これからも生きて世界を変え続けることを託されたからこそ、九条の2周目は続き、病室には鵜久森の姿もあったのだろう。鵜久森は亡くなる前、「2周目の人生が与えられた意味」について話していたが、九条はまだまだ、「無自覚に人を傷つける世界を少しでも変える」という、鵜久森から託されたものを続けていかなくてはいけないのだから。

■番組情報
土曜ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された
日本テレビ系毎週土曜22時~
出演:松岡茉優、芦田愛菜、奥平大兼、加藤清史郎、當真あみ、茅島みずき、山時聡真、本田仁美(AKB48)、窪塚愛流、福崎那由他、田牧そら、山下幸輝、寺本莉緒、萩原護、詩羽、田中美久(HKT48)、浅野竣哉、丈太郎、柿原りんか、橘優輝、莉子、田鍋梨々花、夏生大湖、藤嶋花音、岩瀬洋志、阪本颯希、岡井みおん、藤﨑ゆみあ、のせりん、細田善彦、長井短、サーヤ(ラランド)、犬飼貴丈、荒川良々、松下洸平
脚本:ツバキマサタカ
音楽:松本晃彦
主題歌:菅田将暉「ユアーズ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
演出:鈴木勇馬、二宮崇
チーフプロデューサー:田中宏史
プロデューサー:福井雄太、鈴木努、秋元孝之
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
公式サイト:ntv.co.jp/saikyo

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/09/24 08:00
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