吉岡里帆主演、“理想の街”をデザインした新感覚ムービー『アイスクリームフィーバー』
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館 #吉岡里帆 #松本まりか
日常生活の何気ないシーンを描く映画
海外での評価も高い川上未映子の小説だが、映像化されるのは短編集『愛の夢とか』(講談社)に収録された「アイスクリーム熱」が初となる。小説では、菜摘が恋する相手は年上の男性作家だ。映画化するにあたり、相手役はモトーラ世理奈となり、優と美和の共同生活のエピソードが加わるなど大きく変わった。
千原「僕は、多くの映画の内容がエンタメすぎることが疑問としてあったんです。登場人物の誰かが死なないと感動できないとか、それはどうなのかなと思うわけです。誰かが死ななくても、日常生活の何気ないシーンを描くことで映画はつくることができると僕は思うんです。その点、川上さんの小説は僕のイメージにぴったりでした」
劇中、「うまく言葉にできないということは、誰にも共有されないということ。つまり、その素敵さは今のところ私だけのものということだ」という菜摘の独白がある。千原監督との話し合いの中で、川上が考えた台詞だそうだ。
千原「菜摘が佐保のことを好きになる気持ちは、言葉ではうまく説明できないもの。でも、誰かを好きになったり、憧れ、嫉妬したりする感情って、理由もなくあると思うんです。そうした言葉にならないものを、僕は描きたかった。『これって、LGBTQ映画なの?』とか『恋愛映画なんでしょう?』といった問いに、明確に答えられる映画にはなっていません。僕自身も、菜摘と佐保の関係は今もよく分からないままなんです(笑)」
菜摘と佐保が出会うアイスクリーム店は、実は恵比寿駅近くにある猿田彦珈琲本店。こじんまりした、気取りのないコーヒーショップだ。また、優が通う銭湯は高円寺の「小杉湯」で撮影している。東京の最先端おしゃれスポットではなく、現代人がほっこりできるリラックススペースをロケ地に選んでいる。
千原「90年代に大ヒットしたウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』(94)が、僕は大好きなんです。それまでの香港はネオン看板が並んでいるイメージばかりでしたが、それって渋谷の109前のスクランブル交差点しか映していないようなものだったと思うんです。でも『恋する惑星』は何でもない日常的な景色が魅力的に撮られていました。僕も渋谷を舞台に、何気ない渋谷の街を魅力的に映し出したかったんです。猿田彦珈琲本店のこじんまりした感じは、4:3の画角で撮った本作に合っていました。僕の会社のスタッフが『銭湯を経営したい』と言っていたことがあり、そのエピソードも盛り込みました。渋谷にこんなコミュニティスポットがあればいいなと思ったんです」
映画製作をデザインしたように、千原監督は「理想の街」を映画の中にデザインしたらしい。
緊張した吉岡とモトーラのキスシーン
主演は『見えない目撃者』(19)や『ハケンアニメ!』(22)での熱演が評価された吉岡里帆。同じ京都出身の千原監督とは、レディスインナーブランド「ウンナナクール」でコラボ済みだ。モデル出身のモトーラ世理奈は、千原監督がチーフディレクターを務めた深夜ドラマ『東京デザインが生まれる日』(テレビ東京系)に主演している。
千原「吉岡里帆さんとは、8年前からカレンダーの撮影などでご一緒しています。映画の出演をオファーしたのが4年前。2022年に撮影が始まるまで、ずいぶん心配させたようです(笑)。モトーラさん主演の『東京デザインが生まれる日』を撮った頃は、映画制作がすでに決まっていたので、映画のテスト的なこともできました。映画の撮影はすごく楽しかったです。唯一、緊張したのは、吉岡さんとモトーラさんとのキスシーン。ポスタービジュアルにもなった重要なシーンで、どんな距離感で、どんな色調にするのか、撮影ギリギリまで悩んでしまった。僕が緊張していた影響なのか、吉岡さんの首が小刻みに動くのですが、演技だとしたらすごいです」
菜摘と共にアイスクリーム店で働く貴子には、「水曜日のカンパネラ」の2代目ボーカル・詩羽を起用している。
千原「詩羽さんがカンパネラに入る前から知り合いでした。当時から彼女は髪を赤く染めていて、吉岡さんとモトーラさんの間に彼女が入ると、デザイン的にいいなと思ったんです。最初は台詞も少しだけのつもりでしたが、貴子は菜摘と佐保の関係を唯一知るキャラクターでもあるので、脚本家の清水匡さんとも相談し『彼女にもアイデンティティを与えよう』となり、シーンが増えたんです。詩羽さんの出番が増えたことで、作品に奥行きが出たと思います」
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