“映画監督”紀里谷和明、最後のインタビュー 『世界の終わりから』と20年の闘いを語る
#映画 #インタビュー
この社会を閉塞化させたのは誰なのか?
――ちなみに庵野監督とは交流はあるんでしょうか。
紀里谷 『CASSHERN』が公開された2004年は、庵野さんの『キューティーハニー』(04)もあり、樋口真嗣監督の『ローレライ』(05)も公開を控えていたこともあって、みんなで飲みに行ったりしましたね。それ以降はお話しする機会はありませんでしたが、僕は友達だと思っています。あのときは岩井俊二さんはいなかったけど、みんな仲良しですよ。樋口さんの『ローレライ』のポスターを僕が撮ったりもしていますし。樋口さんも実写版『進撃の巨人』(15)で苦労されてましたよね。でも、『CASSHERN』でデビューした頃はみんな30代ちょっとで、それぞれすごいものを目指していたし、これから実写映画で新しいことができるんじゃないかという希望も感じていたんです。でもね、いつの間にか社会が閉じたものになってしまった。
――2000年代前半までは日本映画界はまだ多様性がありましたが、次第に閉塞的な状況に変わって行きました。
紀里谷 1980年代や90年代には、『AKIRA』(88)や『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)といった劇場アニメが世界的に支持されたわけでしょう。今の日本からは、そうした世界で通用するヒット作は生まれていない状況です。もちろんお金を払って映画を観てるから、批判は自由にしていいんですが、ダメなところばかり責めるんじゃなくて、もっと建設的な意見が多ければ日本映画は違ったものになったんじゃないのかなとは思います。
――『GOEMON』に紀里谷監督が明智光秀役で1シーン出ただけで叩かれてしまう。
紀里谷 一部の人たちにとっては、僕の見た目も気に入らないみたいです。でも、そんなに他人を叩いたりすることで、誰が得をするんだろうと思いますよ。誰も得をしないし、世界はどんどん閉じたものになってしまうだけです。
――自分が成功することよりも、他人の足を引っ張るほうが簡単だからなんでしょうね。
紀里谷 以前の日本はそんな社会じゃなかった。もっと面白いことをやろうと考え、それを応援する人たちもいた。それが、すごくネガティブな社会になってしまっている。
――陽性のエネルギーの持ち主である紀里谷監督でも、バッシングが続くのはきつい?
紀里谷 きついですよ。当時は「きつい」なんて言いませんでしたが。何をやっても叩かれるわけですから。いじめと同じです。いじめられっ子の気持ちが分かります。
一度、紀里谷和明というものを殺してみたい
――ハリウッド進出作『ラスト・ナイツ』には、モーガン・フリーマン、クライヴ・オーウェン、アン・ソンギと世界各国の名優たちが集結しました。
紀里谷 それが、日本だけ配給が決まらなかったんです。自分で配給もすることになりましたが、『CASSHERN』『GOEMON』に比べ、興収的には厳しい数字になりました。モーガン・フリーマンら各国の名優たちを使って映画を撮った日本人監督は、今までいなかったわけですよね。『ラスト・ナイツ』を僕は悪い映画だとは全然思いませんが、もはやなかったことになっています(苦笑)。
――『世界の終わりから』が最後の監督作になるわけですが、紀里谷監督にとっては「映画監督」は職業でも、肩書きでもないようですね。
紀里谷 もちろん、そう思っています。僕はひとりの人間であり、その中の要素のひとつが映画監督であるという認識です。職業だとは思っていません。まぁ、完成披露の際にも言いましたが、この20年間は苦しみの連続でした。本当に苦しくて、何度も死んじゃおうかと考えました。今回の『世界の終わりから』はどう受け入れられるのか。最後の審判がくだるつもりでいるんです。
――今後は映画というジャンルにこだわることなく活動するんでしょうか?
紀里谷 分かりません。創作活動からは一度離れるつもりでいます。僕だけじゃなくて、クリエイティブな仕事をしている人はみんな悩んでいるんじゃないですか。スポーツ選手の場合は試合に勝利するという明確な目標があるわけですが、今の僕には何をもって勝利と呼べばいいのか分からない。ただ、売れる作品をつくればいいのか?と。一度、紀里谷和明というものを殺してみたいという気持ちがすごくありました。先のことは分かりませんが、もしかするとまったく違う名前で作品をつくるようになるかもしれないし、むしろそのほうがいいのかもしれない。それともうひとつあるのは、『世界の終わりから』以上の作品を今の自分が撮ることはできるかと問われ、「撮れる」とは思えないということです。
――映画監督としてのすべてを『世界の終わりから』では出し切ったと。
紀里谷 そうなんです。『CASSHERN』は全国拡大公開でしたが、今回は今まででいちばん小さな規模での公開スタートです。すでに上映館が増えて45館ほどになっていますが、どのくらい広がっていくのか楽しみだし、自分の伝えたいテーマ性がきちんと伝わっていることが実感できています。そうした実感が感じられることは、クリエイティブな仕事をしている人間にとっては興収結果よりも大切なことなんです。そういう意味では、今の僕はすごくハッピーでもあるんです。映画監督になったことは後悔していませんし、自分では天職だと思っています。僕にとって映画づくりは仕事ではありません。神聖な行為なんです。映画づくりは宗教的な、神に近づく行為だと誰かが言っていましたが、僕もその言葉に共感しています。『世界の終わりから』は本当に純粋な気持ちで完成させることができました。この20年間の苦しみが、救われた気持ちでいるんです。
『世界の終わりから』
原作・脚本・監督/紀里谷和明 撮影/神戸千木
出演・伊東蒼、毎熊克哉、朝比奈彩、増田光桜、岩井俊二、市川由衣、又吉直樹、冨永愛、高橋克典、北村一輝、夏木マリ
配給/ナカチカ 4月7日より新宿バルト9ほか全国公開中
©2023 KIRIYA PICTURES
sekainoowarikara-movie.jp
史上初の試みとして本編の一部を公開中!
▼全8話
https://youtube.com/playlist?list=PLjOuQ9W673OvZMWJN5wGhOJu92RbVI5y9
●紀里谷和明(きりや・かずあき)
1968年熊本県生まれ。15歳で米国に渡り、デザイン・絵画・音楽・写真などを学ぶ。フォトグラファーとして活躍後、ミュージックビデオの監督としても脚光を浴びる。2004年に『CASSHERN』で映画監督デビュー。2009年に『GOEMON』、2015年に『ラスト・ナイツ』を公開。短編映画製作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」に参加し、ショートフィルム『The Little Star』(22)を監督している。
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