“映画監督”紀里谷和明、最後のインタビュー 『世界の終わりから』と20年の闘いを語る
#映画 #インタビュー
戦時中や戦国時代と変わらない残酷な社会
――本作のテーマについて、より深くお聞きしたいと思います。女子高生のハナは、夢の世界で自分よりも非力な幼い女の子・ユキ(増田光桜)と出会い、ユキを傷つけようとするものたちから救おうとする。幼いユキはハナの心の中にいる存在であり、そのハナは紀里谷監督の心の中にいる存在でもある。そして、この映画を観ている観客たちの心の中にも、それぞれ女の子は存在している。一人ひとりが自分の心の中にいる女の子を救うことができれば、世界を救うことにもなる――。そのように解釈したんですが……。
紀里谷 その解釈は正しいです。まぁ、ネタバレになってしまいますが、自分自身を救わなくちゃいけないということです。自分を見つめ、自分を赦し、自分を好きになって、自分を愛してあげようという話なんです。自分の心の中に別人がいて、その人のことを自分が認めてあげようという話は、小説『地平線を追いかけて満員電車を降りてみた』(文響社)にも一度書いたことがあります。
――自分を愛することができなければ、世界を救うこともできないと。
紀里谷 僕はそう思っています。今の社会は常に「今のままじゃダメ」「もっと有名になりなさい」と言い続けているわけです。それじゃあ、幸せにはなれません。いろんなものを無理して手に入れて、消費して、やがては戦争になっていく。そんな悪循環に世界は陥っていると思います。
――これからの若い世代に向けた作品でもある。
紀里谷 そうです。若い世代に今の世界を委ねることになった際、「こんなクソみたいな世界を救うんですか?」と疑問に感じる若者は多いんじゃないですか。大人たちは自分のことしか考えていない。口だけは「未来のために」とか、きれいごとを言いますよ。でも、いつの時代も大人たちのエゴやつまらないメンツのために、若者たちは戦場へと駆り出されていった。今の日本は戦場ではないものの、残酷性は戦時中や戦国時代と変わらないと思います。「この世界を終わらせますか?」というアンケートを取ったら、「終わらせる」と答える若者は多いはずです。その発露が、時折起きる暴力的な事件じゃないですか。
――日本も含め、世界各地で無差別大量殺人事件が頻発しています。
紀里谷 犯罪を肯定するつもりはありませんが、そういう心情に追い詰めている社会があるんだと思います。
――高校生向けの試写会を開いたそうですが、手応えはどうでしたか?
紀里谷 過去・現代・未来を行き来する複雑な展開の物語だから、「難しくて、よく分からなかった」という声が出るかなと心配していたんですが、それは杞憂でした。僕の言いたかったテーマ性も伝わったみたいで、救われた気がしています。
――紀里谷監督の20年間にわたる葛藤が、切実なものとして高校生たちには伝わったんじゃないでしょうか。
紀里谷 そうだとしたら、いちばんうれしいですよ。演出が足りないかとも思っていたんですが、これでよかったんですね(笑)。
『CASSHERN』に寄せられた批判内容
――映画監督としてのインタビューはこれが最後になるかもしれません。過去作についても振り返ってもらえればと思います。現在公開中の庵野秀明監督の『シン・仮面ライダー』ですが、『CASSHERN』を彷彿させるという声がSNSで上がっています。
紀里谷 忙しくて、まだ『シン・仮面ライダー』は観ることができていません。どこが似ているんですか?
――暴力を伴う正義に主人公が悩む姿などは、『CASSHERN』と通じるものを感じます。
紀里谷 でも、悩めるヒーロー像は珍しいものではありませんよね。『シン・仮面ライダー』のネット配信されている冒頭部分だけは観たんですが、『CASSHERN』とどこが似ているのか僕には分からなかった。映像の質感とかも全然違うし。20年前の僕のデビュー作をいまだに話題にしてもらえるのはうれしいけれど、先ほども語ったように『CASSHERN』は日本の国益という大義のためにつくったものの、批判されてしまった作品。僕としてはオリジナルのアニメ『新造人間キャシャーン』(フジテレビ系)の演出をされていた富野由悠季さんの雰囲気を継承したつもりだったんです。
――『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)でブレイクする前の富野由悠季監督ですね。
紀里谷 そうです、あの富野さん。オリジナルの『キャシャーン』は救われない物語なんです。多分、僕が撮った『CASSHERN』を批判していた人たちは、オリジナル版をちゃんと最後まで観ていないんです。キャシャーンがヘルメットを被っていないとか、犬のフレンダーが出てこないとかで文句を言ってくる。本質的なところじゃない、コスプレ的な次元での批判が多かった。そうしたレベルでの批判は日本だけでしたね。
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